観光バスは倒産、休廃業・解散ともに過去最多を更新(観光バス事業者の倒産件数 推移)

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新たな利用方法模索もバス需要回復見通せず、年度末にかけ倒産や廃業がさらに増加も

 コロナ禍で観光バス業界が窮地に立たされている。帝国データバンクの調査では、2020年度中(昨年4月〜今年1月)に発生した観光バス運行事業者の倒産が11件に上った。年度ベースで1月までに倒産が10件を上回ったのは初めてで、リーマン・ショック直後で旅行需要が大きく後退した2009年度通年の件数(10件)をも既に上回っている。また、観光バス事業者の休廃業・解散も12月までに24件発生、昨年を10件上回って過去最多を更新しており、例年にないハイペースで推移している。

 観光バス業界はこれまで、国内外からの旺盛な旅行需要を背景に、団体客および旅行会社を通じた バスツアー客の利用が増加。昨夏に予定されていた東京五輪での旅客送迎需要増加も見込まれ 、異業種からの参入も相次ぐなど活況を呈していた。

 しかし、昨年3月以降は新型コロナの感染拡大でバス旅行の予約キャンセルなどが各社で相次いだほか、学校の部活動や修学旅行での貸切バス運行需要が一転して消失。国の観光支援策「Go To トラベル」の後押しで客足が戻りかけたものの、感染の再拡大で貸切バス需要は低迷 が続いている。事業者からも「観光旅行の激減により見通しが立たない」といった声が上がっており、かつてない厳しい経営環境が続いている。

「実働率1ケタ」台まで落ち込んだ貸切バス需要、 20年度は1月までに9割が減収、6割が赤字に

 帝国データバンクが観光バス事業者の業績を調査した結果、通期予想を含めた2020年度業績が判明した約300社のうち、9割超で前年度から売り上げ減少となることが判明。このうち、売り上げの減少幅は平均で前期比2割超に達しているほか、前年度から半減となる企業も減収全体の1割超を占めている。また、減収300社のうち利益動向が判明した企業約150社をみると、約6割が最終損益で赤字、3割が前年度から減益となる見込みで、利益面で影響を受けた企業が9割に迫っている。既に9割超の観光バス事業者が活用している雇用調整助成金をはじめ各種資金繰り支援もあるものの、 売り上げの減少幅が非常に大きいため損失の穴埋めには至らず、収益面では依然として苦しい状態が鮮明となっている。

 業績が急速に悪化した背景は、特に新型コロナの感染拡大、緊急事態宣言などで旅客の移動需要が大幅に後退し、バスの実働率がかつてない大幅減少に見舞われた点が大きい。移動の自粛などで収益性の高い独自のバスツアー企画が運営できず、20年度中は観光ツアー収入がほとんどゼロとなる事業者が相次いだ。また、東京五輪をはじめとしたスポーツ大会やコンサートなどの大規模イベント、部活動や修学旅行など学校事業も軒並み中止や延期となり、こうしたイベント向けのチャーターバスの運行需要消失が打撃となった 。国土交通省 が1月までにまとめた調査によると 、緊急事態宣言が発出された昨年4月以降、実働率は前年に比べて大幅に低下した。5月には実働率が5%に落ち込み、6月以降も10%台で推移。各社の保有するほとんどのバスが稼働せず休車状態となるなど、かつてなく厳しい経営環境が続いている 。

 それでも夏季以降はGo To トラベルにより客足に回復もみられ、11月には4割台まで実働率が持ち直すなど 、観光バス業界の回復に向けた兆しもあった。しかし、Go To トラベルの一時停止による観光需要の冷え込みに加え、年末年始の移動自粛などでまとまった旅客需要が消失。緊急事態宣言の再発出 も重なり、1月以降は約7割の事業者で運送収入が半減する見通しとなるなど、先行きもさらに厳しいものとなっている。

今後も貸切バス需要の回復が全く見通せず、 年度末にかけて倒産や廃業さらに増加も

 観光バス業界の今後は、コロナ禍の収束動向に加えて観光業界への支援や補助、後押しによって左右される状況が続く。そうした中でも、東京五輪などに備えて多くの企業が導入した新型・高機能バスによる安全性のアピールや、オンライン観光ツアーの企画といった旅客以外の観光需要の創出が、コロナ禍での売上減少を食い止める上でのカギと捉える企業が増えている。

 国土交通省が観光バスの車内換気能力をまとめた調査 では、窓を閉めた状態で5分に1回車内の空気が入れ替わることが分かっている。そのため、多くのバス運行事業者では座席などの消毒に加え、利用者同士の座席間隔をあけるなど 感染防止対策を徹底。また、減少した旅客需要を補うため、地域住民を対象とした地元ツアー企画や遊休バスを使用したアドベンチャー企画 、バスガイドがバスツアーの様子を生配信する観光ツアー開催などバス運行以外の需要を狙う動きも急速に広まっており、SNS(会員制交流サイト)などで反響も得られるなど一定の成果を収めたケースもある 。各社とも、安全対策を徹底しながら需要を掘り起こす商品づくりに力を入れており、売り上げの底上げに向けた取り組みを進める。

 ただ、貸切バスの実働率は今冬シーズン以降も大幅な低迷が続くとみられ、観光需要の回復時期が全く見通せない状況が続く。メイン収益となる貸切バス運行の売上が減少するなかでも、車両整備やドライバーの教育など安全運行に欠かせない経費は常時発生するほか、東京五輪など訪日観光客の増加を見越してバスの増車・入れ替えなどを行った企業ではリース料など償却負担も重くのし掛かっている。事業者によってはバス車両を減らすなどコスト圧縮を進め、生き残りに向けたスリム化を進めるものの、経営体力や内部留保に乏しい中小零細の観光バス事業者ではさらなる経営悪化も想定され、先行き悲観から廃業や倒産などで事業継続を諦めるケースの増加が懸念される。