ドコモが格安プラン「ahamo」を始めるワケ 菅政権とNTTの利害関係は...
NTTドコモが表明した料金戦略が波紋を広げている。格安な新料金プラン「ahamo(アハモ)」の開始を発表しただけではなく、現行プランの値下げも打ち出すと、就任したばかりの井伊基之社長が明言したからだ。
アハモを歓迎するユーザーの書き込みがSNS上で相次ぐ一方、ライバルの大手携帯電話会社や格安携帯電話会社は戦略の練り直しを迫られている。
ドコモはNTTの完全子会社に
社長交代と料金戦略発表を翌週に控えた2020年11月27日午後、NTTの澤田純社長とドコモの井伊氏は共に首相官邸を訪れ、菅義偉首相に面会した。名目は井伊氏の社長就任あいさつだったが、首相就任以前から料金値下げを繰り返し携帯電話会社に要求してきた菅氏に会うのに手ぶらとは考えにくく、料金戦略を伝えていても不思議ではない。
ドコモに対するNTTの株式公開買い付け(TOB)は成功し、12月中にはドコモはNTTの完全子会社となる。電電公社の民営化で誕生したNTTは東証1部に上場しているものの、NTT法によって国が株式の3分の1以上を保有することや、取締役の選任に総務相の認可が必要になることを定めた特殊会社だ。3月末時点で発行済み株式の34.69%を国(財務相)が保有している。一方、TOB前のドコモにとってNTTは、株式の66.21%を保有する筆頭株主ではあったが、ドコモも東証1部上場で一般株主も存在しており、多様な株主の意向を意識する必要があった。そのドコモがNTTの完全子会社になれば、以前よりも親会社の大株主である国の意向を重んじるようになるのは明らかだ。
ドコモが菅政権の値下げ要求を丸のみしたような料金戦略に転換したのは、その意味では自然な流れだった。もっともNTTの澤田社長は、親会社への対抗意識が強く手を焼いていたドコモの完全子会社化を巡り、1980年代からNTTグループの結束を弱める方向に動いてきた国に根回しをして認めさせており、ドコモの料金値下げはその代償との見方もできる。
「特殊会社」NTTの位置づけ
国がNTTを特殊会社と位置付けているのは、国民生活に不可欠な電話を日本全国で利用できるようにするためであり、外国人の株式取得に制限を設けていることで分かるように有事の際の通信手段を国として確保するためでもあった。しかし今回は、携帯電話料金を下げて政治的な実績を上げたい菅氏と、ドコモの完全子会社化を機にNTTグループの再結集を図りたい澤田氏の利害が一致したとも考えられる。
ドコモの思い切った値下げに、競合するKDDI(au)やソフトバンクは衝撃を受けている。両社は菅政権の値下げ圧力に対してサブブランドのUQモバイルやワイモバイルの値下げで応じ、メインブランドの料金体系を守ろうとしたが、メインブランドの値下げも表明したドコモに対抗せざるを得なくなった。
官房長官時代の菅氏が携帯電話料金について「4割程度下げる余地がある」と発言した2018年8月以降、政府は端末代金と通信料の分離を義務付けるなど大手携帯電話会社に料金値下げを促してきたが、大手3社は事実上の横並びでメインブランドの大幅な値下げには至っていなかった。ドコモが均衡を壊したことで、各社は利益度外視の消耗戦に突入していくことになりそうだ。