“鬼滅の刃”人気で特需 縮小続いた書店市場、4年ぶり拡大の可能性高まる
倒産も過去最少 「鬼滅」以降が焦点、「ヒット作頼み」からの転換がカギ
2020年の書店業界が盛況だ。これまで若者の活字離れや電子書籍の普及により紙書籍の市場規模が縮小するなど、市場環境は大きく変化。帝国データバンクが調査した結果、2019年の書店市場(事業者売上高ベース)は1兆2186億円となり、3年連続で減少。10年前から7割強の水準に落ち込むなど、じり貧状態が続いてきた。「鬼滅の刃」特需 コミック販売は前年比1.5倍、13カ月連続で増加
出版取次大手の日本出版販売によれば、店頭売り上げの前年比は10月で114.3%だった。 6カ月連続での前年超となったほか、伸び率としては同社が集計を開始した2008年以降で最高値となっている。好調な書籍販売を牽引しているのが「コミック」。10月では前年比146.8%と大きく伸長し、13カ月連続で前年を超えた。特に「鬼滅の刃」は、10月16日に公開された劇場版の効果 や特装版の販売による特需のほかに、缶バッジなど付録グッズの販売も伸びていることも追い風となった。書店業界では、若年層を中心に本を読まない「活字(書籍)離れ」に加え、利便性で勝るオンライン書店や新古書店など他業態の台頭、出店攻勢を続ける大手書店など購買チャネルの多様化も進んだ。書籍のデジタル化も急速に進んでおり、リアル書店で取り扱う雑誌やコミックなどの販売金額が減少してきた要因となっていた。
他方で、コミックなどで人気作品や話題作品が出ると、デジタル書籍やネット通販に左右されずリアル書店の販売が伸びやすくなる傾向もみられる。ネットメディアのHoNoteが2018年に15〜69歳の男女2000人を対象に実施した調査結果によると 、書店で本を購入する決め手は、好きな作品・シリーズなど「作品自体の魅力」が上位。好みの本を「指名買い」する際に書店を利用するケースが多いことも背景にあるとみられる。
特に「鬼滅の刃」のような幅広い世代・層に高い人気を誇る作品では、限定特装品やシリーズ全冊の「まとめ買い」をする顧客も少なくない。そのため、書店経営にとってはヒット作や話題作の登場は経営上大きなプラス要因になる。
書店の倒産も過去最少 脱「ヒット作頼み」急務、非書籍事業の拡大も
「鬼滅の刃」のコミック本を求める客が現在でも多数来店しており、最終巻となる23巻が年内にも発売される。こうした需要拡大も追い風に2020年は堅調な売上が期待できるため、前年と同水準か上回る業績を見込む書店は多い。また、20年10月までに倒産した書店は前年同期を9件下回る10件で推移している。このペースで進めば、書店の倒産は4年ぶりの前年比減少に転じるほか、通年で最も少ない01年(15件)を下回り、過去最少を更新する可能性が高い。
ただ、「鬼滅の刃」クラスのメガヒットが今後も継続して出てくるかは不透明だ。一方で、書店業界ではネット通販などに加え、ブックオフなどの古本屋や、フリマアプリの台頭により書籍の二次流通も普及。来年以降は消費税を含めた税込価格で表記する「総額表示」への一本化が書籍にも適用される 。そのため、消費者が「突然値上がりした」と感じて新本の購入を手控える懸念もあり、書店業界が置かれた経営環境は依然厳しいのが現状だ。
今後ヒット作などに恵まれない場合は書店販売の反動減も見込まれ、2030年までに書店市場全体で1兆円台を下回る恐れもある。
そのため、書店経営には人気作に経営が左右されない脱「ヒット作頼み」への改革が急がれている。こうしたなか、大手書店では人気作などを含め「紙書籍」の販売動向に左右されにくい収益構造への改革に着手。「丸善」「ジュンク堂書店」などのブランドを展開する書店大手の丸善CHIホールディングスは、総合保育事業やパソコン修理事業など、子会社を通じた非書籍事業が拡大傾向にある。「蔦屋書店」ブランドを展開するトップカルチャーは、雑貨や文具の販売が伸長。全体の売上高に占める割合が1割強に拡大している。
オンライン書店「Fujisan.co.jp」を運営する富士山マガジンサービスは、雑誌市場の縮小が続くなか、「巣ごもり需要」を捉えて雑誌の定期購読などユーザーの囲い込みが進んでいる。また、雑誌読み放題サービスなどいわゆる「サブスク」事業が成長し、同社グループにおける「第二の柱」として成長過程にある。
書籍市場の減少が今後も続くと見込まれるなか、いかに「紙書籍と共生」可能な非書籍事業を育てられるかが、今後の書店の命運を左右する。