東海3県の航空機産業、19年度売上高合計は約2734億円 業績堅調も、新型コロナによる航空需要低迷で先行き不安感強まる
国産ジェット旅客機「スペースジェット(旧MRJ)」が名古屋空港で初フライトを果たしてから早くも5年が経過した。開発の遅れから受注キャンセルが発生したものの、東海3県において航空機産業は自動車や工作機械に次ぐ、ものづくりの柱としての期待が大きい。
しかし、新型コロナウイルス感染症拡大によって航空旅客需要が一気に喪失。中部国際空港を起点にLCCの運航を行っていたエアアジア・ジャパンが撤退を決めるなど、人の移動が制限されるなか、航空機の需要についても先行きは不透明な状況にあり、航空宇宙産業の集積地でもある当地区への影響が懸念される。
帝国データバンク名古屋支店は、企業概要データベース「COSMOS2」(147万社収録)をもとに東海3県に本社を置く航空機関連企業78社について、2019年度(2019年4月〜2020年3月)の業績、事業規模、所在地などを調査・分析した。なお、同調査は今回が11回目。
※本記事は、2020年10月15日に帝国データバンク名古屋支店が発表した記事を一部編集したものです。
直近3年度の比較では、2017年度(2408億4900万円)、2018年度(2495億5500万円、3.6%増)から、2019年度は2734億3100万円と順伸基調を辿っている。経済産業省「生産動態統計」によると、航空機生産実績は2017年(1月〜12月の計)から3年連続で前年比増加となっており、総体としては航空機・同部品生産は緩やかながら成長が続いている様子が窺える。
「増益」企業は26社(構成比49.1%)で前年度から増加、「黒字」企業も40社(同85.1%)で前年度から増加した。
2019年度の収益状況については、「黒字」企業が大半を占めており、直近の業績については堅調だった様子が窺える。しかし、「増益」と「減益」企業の数は拮抗しており、中小規模事業者を中心に資材価格や人件費の高騰などの影響を受けているとみられる。
東海3県の航空機関連企業78社の従業員規模を分析すると、「100人以上」の企業が28社(構成比35.9%)と最も多く、前回調査(29社、37.2%)に続いて最多となった。航空機の構成部品は300万点にのぼるとされ、自動車の100倍ともいわれる。複雑で様々な生産工程があり、各々に多くの従業員が関わっている実態を物語っている。
一方、「9人以下」の企業は20社、25.6%にのぼり、従業員規模は二極化している。これは、完成機メーカーからみると孫請け以下にあたる中小・零細の金属加工メーカーなどが多く含まれているためである。
ものづくりの新たな柱として航空宇宙産業への期待は大きく、思い切った設備投資を行って転進を図った中小メーカーは少なくない。しかし、感染症拡大防止の観点からも航空旅客需要が急激に回復する可能性は低く、エアアジア・ジャパンの事業廃止や全日空の給与削減など各航空会社も対応を迫られているなか、航空機・航空機部品メーカーにとっても正念場を迎えようとしている。
※本記事は、2020年10月15日に帝国データバンク名古屋支店が発表した記事を一部編集したものです。
しかし、新型コロナウイルス感染症拡大によって航空旅客需要が一気に喪失。中部国際空港を起点にLCCの運航を行っていたエアアジア・ジャパンが撤退を決めるなど、人の移動が制限されるなか、航空機の需要についても先行きは不透明な状況にあり、航空宇宙産業の集積地でもある当地区への影響が懸念される。
※本記事は、2020年10月15日に帝国データバンク名古屋支店が発表した記事を一部編集したものです。
売上高推移 19年度売上高合計は2734億3100万円、前年度比9.6%の増加
東海3県の航空機関連企業78社の業績推移をみると、2019年度の合計売上高は2734億3100万円、前期比9.6%増加した。「増収」だった企業は28社と前年度の30社から2社減少した。「スペースジェット」の生産計画に狂いが生じている局面において、自動車や工作機械向けなど航空機部門以外での受注を伸ばしたことで増収となったケースも散見される。直近3年度の比較では、2017年度(2408億4900万円)、2018年度(2495億5500万円、3.6%増)から、2019年度は2734億3100万円と順伸基調を辿っている。経済産業省「生産動態統計」によると、航空機生産実績は2017年(1月〜12月の計)から3年連続で前年比増加となっており、総体としては航空機・同部品生産は緩やかながら成長が続いている様子が窺える。
利益推移 「黒字」企業が8割超も「増益」「減益」は拮抗
東海3県の航空機関連企業78社のうち、当期損益が判明した53社の2019年度の当期損益合計は5420億4120万円の赤字。前期から大きく赤字幅は拡大、11期連続の赤字となった。機体の売上計上はなく開発費の減損損失や従業員の解雇などで特別損失を計上した三菱航空機1社で5269億3000万円の巨額の単年度赤字を計上したことに加え、三菱重工航空エンジンも199億3400万円の最終赤字となっており、この2社を除くと48億2279万円の黒字となる。「増益」企業は26社(構成比49.1%)で前年度から増加、「黒字」企業も40社(同85.1%)で前年度から増加した。
2019年度の収益状況については、「黒字」企業が大半を占めており、直近の業績については堅調だった様子が窺える。しかし、「増益」と「減益」企業の数は拮抗しており、中小規模事業者を中心に資材価格や人件費の高騰などの影響を受けているとみられる。
「愛知」がトップを維持、従業員「100人以上」が35.9%で最多
全国の航空機関連企業のうち、多数を占める「航空機・同付属品製造業」(主業・従業含む)の都道府県別所在地では、全国227社のうち「愛知」が44社、前回調査(44社)と同数で、6年続けてトップの座を維持した。2位は「東京」で35社、3位は「岐阜」で32社となり、当地区に航空機関連企業が集積していることを裏付けた。東海3県の航空機関連企業78社の従業員規模を分析すると、「100人以上」の企業が28社(構成比35.9%)と最も多く、前回調査(29社、37.2%)に続いて最多となった。航空機の構成部品は300万点にのぼるとされ、自動車の100倍ともいわれる。複雑で様々な生産工程があり、各々に多くの従業員が関わっている実態を物語っている。
一方、「9人以下」の企業は20社、25.6%にのぼり、従業員規模は二極化している。これは、完成機メーカーからみると孫請け以下にあたる中小・零細の金属加工メーカーなどが多く含まれているためである。
依然回復が見込めない航空旅客需要 航空関連メーカーにとっても正念場
航空機・航空機部品生産額に占める東海3県(愛知・岐阜・三重)の割合は全国の50%に達するといわれる。そうした関係者のみならず、多くの期待を背負っている国産ジェット旅客機「スペースジェット」の本格的な生産が始まる前に、コロナ・ショックによって状況は一変。世界的に航空機需要は減退し、「スペースジェット」も開発体制の大幅な縮減を余儀なくされた。また、現状の主力といえるボーイング向けに関しても、中型機「787」の減産の影響を受け、一時操業を見合わせた工場も出るなど、航空機産業を取り巻く環境は大きく悪化している。ものづくりの新たな柱として航空宇宙産業への期待は大きく、思い切った設備投資を行って転進を図った中小メーカーは少なくない。しかし、感染症拡大防止の観点からも航空旅客需要が急激に回復する可能性は低く、エアアジア・ジャパンの事業廃止や全日空の給与削減など各航空会社も対応を迫られているなか、航空機・航空機部品メーカーにとっても正念場を迎えようとしている。
※本記事は、2020年10月15日に帝国データバンク名古屋支店が発表した記事を一部編集したものです。