本来ならば多くの人で賑わっていたはずだが・・・

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予想外の2020年

 多くのメディアで繰り返し伝えられているが、新型コロナウイルス(以下:新型コロナ)感染者の増加が止まらない。本来ならば、今ごろは東京五輪が無事に終わり、街は訪日外国人に溢れ、インバウンド需要も高まっていたことだろう。

 しかし、実際はというと、予想されていた2020年とはほど遠い。新型コロナに対する根本的な治療薬がないなか、夏になってもマスクは手放せず、企業においては在宅勤務の体制が加速している。この先何年も語り継がれる1年となるだろう。

リーマン・ショックとコロナ禍

 今回のコロナ禍は、よくリーマン・ショック時の景況感と比較される。その違いは、企業経営で重要となる、ヒト・モノ・カネの動きだろう。リーマンの時は、金融システムを含む「カネ」を直撃し、次第に「ヒト・モノ」へと広がった。

 しかし新型コロナの拡大は、他国からの入国制限や外出自粛でまず「ヒト」の動きを制限し、それにともない「モノ」の製造や販売へと影響していった。

 「モノ」に関していえば、EC市場を活用した販売がより活発化しており、それが解決策であるといえよう。しかし、「ヒト」の動きが制限されることはどうしようもなく、一部の業界からは悲鳴の声が聞こえる。

コロナで悪化する集客力

 新型コロナは各業界に大きなダメージを与えているが、特にその影響を受けているのが“人を集客してサービスを提供すること”を生業としている業界だ。

 身近な例では、プロスポーツなどが挙げられる。例えば、3カ月遅れでようやく開催されたプロ野球公式戦は、例年の試合数143試合のところを120試合に減らすほか、セパ交流戦・オールスター戦は中止とした。無観客試合を経て、最近ではようやく観客席にもファンの姿が戻ったが、上限人数や収容率を設定しているため、観客席ががらんとしている球場も多く、昨年と比べるとだいぶ物寂しい。

 実際に、(株)東京ドームが発表した2021年1月期第1四半期決算短信を見ると、第1四半期の連結売上高は大幅減収となった。当社は「2月後半以降はイベントの中止、延期が相次ぎ、プロ野球は無観客でのオープン戦5試合の開催のみとなり、関連商品の売り上げも減少した」と説明。集客できないことでの厳しさが業績に表れている。

 そのほかでは、旅館やホテル、劇場、結婚式場なども該当するが、いずれも厳しい状況が続いており、それはデータ上でも表れている。

 帝国データバンクが8月12日に発表した、「新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査(2020年7月)」によると、各業種のうち、新型コロナにより「業績にマイナスの影響がある」と見込む企業の割合が最も高かったのは「旅館・ホテル」で、97%の企業がマイナスの影響を受けていると回答した。

 またそれに次いで「娯楽サービス」も96.8%と割合は高く、この2業種は調査したほぼすべての企業が業績にマイナスの影響があると回答している。

企業の声から分かる現状

 また、これら業界の厳しさは各社の声からもよく分かる。帝国データバンクの景気動向調査(2020年7月)から、現在の景況感に関する各社の“声”を紹介したい。

 東京都の旅館経営業者は、「新型コロナによる旅行や出張、会食の自粛により売り上げは激減。Go Toトラベルも東京都は対象外で厳しさが継続している」と悲痛な声を上げる。

 兵庫県の遊園地経営業者も「県内で感染者の増加傾向が高まり、経済活動自粛の雰囲気を強く感じる。営業活動は再開しているものの今後の動向によっては今よりもさらに悪くなる可能性がある」と嘆く。

 3月に行われた同調査では、「新型コロナの影響はしばらく続くと予想するが、数カ月で改善していくだろう」(大阪府・旅館経営業者)や、「希望的観測だが、五輪効果を期待している。日本人選手の活躍が業界を後押しするだろう」(兵庫県・スポーツ施設提供業者)など、一部では先行きを楽観的に予測する企業もあった。

 しかし、ふたを開けてみると、月を追うごとにつれ悲観的な意見や見通しが目立ってきた。

 「営業自粛明け以降の6月・7月の売り上げは、前年同月の50%程度になった」(東北地方・遊園地経営業者)の声に代表されるように、業績は悪化の一途をたどっているように感じる。

経済再開と感染防止

 こうした影響を受けている企業はどれも“ヒトが集まらない”ことが根底にある。なかには“過剰な風評被害”による売上激減を訴える声もあった。

 岐阜県のフィットネスクラブ経営業者は、「他県の施設においてクラスターが発生したことで、スポーツジムは感染リスクの高い施設と位置づけられた。この風評被害により新規の会員入会が無いばかりか、多くの退会者が出ている。また感染リスクの終息が見えないため、長期の休会をされるケースも多く、会費収入が大幅に減少した」と現状を語る。

人々の中に、“この業種は以前、クラスターが発生したから危ないのではないか”という意識が芽生えると、たとえ感染防止に力を入れている施設であっても、多くのヒトを集めるのは難しい。ただでさえ外出自粛が叫ばれているなかで人々から一度敬遠されてしまうと、挽回するには相当の時間が必要となる。

 経済活動再開の前に、まずは感染拡大防止を!といった意見もあるだろうが、上述のような企業の生の声を聞くと、何が正しい判断なのかが分かりにくくなる。

 特に、統計上の数値よりも実際に影響を受けている声を聞くと、深刻な現状をより実感しやすくなるだろう。

 至極当然のことではあるが、コロナ禍の社会を考えるにあたって、感染者数や陽性率・致死率といった情報に加え、このような現場にいる人のリアルな“声”も決して忘れてはならない。