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第13週「スター発掘オーディション!」 61回〈6月22日 (月) 放送 作・嶋田うれ葉〉



61回はこんな話

コロンブスレコードと契約して5年、裕一は作曲家として低め安定の日々を送っていた。鉄男はおでん屋をやりながら作詞を続けている。音楽学校ではプリンスと崇められていた久志はオペラにこだわって仕事がなかった。福島三羽ガラスの活躍の日々は来るのか……。

ミスタータイガース 「六甲おろし」を歌う

コロナ禍により無観客ながらプロ野球も開幕した。いいタイミングでドラマでは裕一が阪神タイガースの応援歌「六甲おろし」こと「大阪タイガースの歌」(のちに「阪神タイガースの歌」に変更)を作り、依頼した阪神の関係者が大喜びで、裕一と記念写真を撮る。
そのなかでひときわ目立つ人物が阪神のレジェンド、ミスタータイガースこと掛布雅之であった。1分にも満たない出番ながら掛田寅男という役名まであった。

掛布は、NHK大阪局が制作した朝ドラ「ふたりっ子」に本人役で登場して以来の朝ドラ出演。そのときは、巨人軍の原辰徳も登場し、阪神ファン、巨人ファン両方を楽しませたが、「エール」では阪神のみ。裕一のモデルである古関裕而は阪神のみならず巨人の応援歌も作っているのだが、「六甲おろし」のほうが早く昭和11年で、巨人の応援歌は3年後の昭和14年に「野球の王者」、その後、時を経て、昭和38年に有名な「闘魂こめて」が誕生と、もうすこし先の話となる。「エール」では「野球の王者」や「闘魂こめて」で巨人関係者が登場することははたしてあるだろうか。

ちなみに、コロンブスレコードのモデルであるコロンビアレコードから出ている「野球ソングス」というアルバムで「野球の王者」「栄冠は君に輝く」などを歌っている伊藤久男こそ「エール」のプリンス・久志のモデルの人物である。

「野球の王者」を歌っていた伊藤久男をモデルした久志はドラマでは……

13週は伊藤久男をモデルにした久志が中心になる。12週の「古本屋の恋」ではこまっしゃくれた子供時代の久志が、喫茶バンブー夫婦のキューピッドであったことが描かれたように、昔からふらっと現れたかと思うと何かと人の役に立ってきた不思議な人物である。

だが、音と同じ東京帝国音楽大学を卒業して4年、歌の才能を生かせずにいる。鉄男作詞、裕一作曲の「福島行進曲」を歌って「福島三羽ガラス」として華々しくデビューするという野望も、無名であるということで廿日市(古田新太)に却下され歌わせてもらうことができず苦渋を飲んだ。

61回では、この4年間にわたる久志のダメっぷりが描かれた。あんなに謎の自信に満ちて輝いていた久志が、女生徒たちに「プリンス」ともてはやされていた久志が、後輩に先を越され、おでん屋の屋台で管を巻いている。

「いまは研鑽を積むときだからね」
「自分を安売りしちゃいけないと思うんだ」
「僕だよ…みんなのプリンス佐藤久志だよ」
「僕を見つけられないなんて世の中間違っているんだ」

いかにも負け犬のセリフである(屋台を犬が見つめているという演出も)。


おでん屋をやっている鉄男は鉄男で、作詞家を目指しながらもなかなか芽が出ず、成人小説で糊口をしのいでいた。朝ドラに「君の唇に潜りこみたい」ってすごいセリフ入れてきたーー。

裕一は裕一で安定した作曲家生活を送っているとはいえ「低め安定」。廿日市に、コロンブスレコード新人募集の曲を書かせてあげると言われ、起死回生のチャンスを得て、それに久志も応募しないかと誘う。だが久志は、オペラにこだわっていて、大衆歌謡に興味がない。裕一も西洋音楽にこだわっていたが、いまやすっかり大衆音楽の力を実感していた。

屋台でうだうだしている福島三羽ガラスはかなり現代劇ふうで、例えるなら、宮藤官九郎の「ゆとりですがなにか」(16年)みたいな冴えない3人組の話のよう。3人のキャラは立っているので。いっそこのままこの3人をメインにした青春ものとして最後まで進めてもらってもいいのだが……。

久志、流しに挑戦

大衆にアピールする重要性を実感している裕一は、久志を連れて飲み屋で歌わせようとするが、オペラを歌って大顰蹙。出直して「船頭可愛や」を歌うと、大好評。
労働者ふうのおじさんとその子供におおいに感謝され、一銭銅貨をもらう。

軽視していた大衆の反応に久志は心を動かされ、オーディションを受けることにする。
いよいよ福島三羽ガラスの時代がやってくるか?

華が成長

娘の華(田中乃愛)は4歳のやんちゃ盛り。喫茶バンブーのマスターを「保」と呼び捨てにするのは、音が子供のとき、「岩城」を呼び捨てにしていたことを思わせる。やはり母子。でも音は呼び捨てにしてはいけないと叱っていた。
裕一はカメラ(動画)を買って華を撮るという親バカぶりを発揮する。

裕一は、仙台の曲「ミス仙台」を作って、仙台代表のきれいな女性たちと写真を撮って、それを見返してにやにや。音に嫌味を言われる。きれいな女性に弱いという個性はずっと描かれ続けているのが笑える。


名曲の創作秘話は少なめ

「エール」は公式サイトには“昭和の音楽史を代表する作曲家・古関裕而氏と妻で歌手としても活躍した金子氏をモデルに音楽とともに生きた夫婦の物語を描きます。”とある。さらに“※実在の人物をモデルとしますが、音楽で人々を励まし、心を照らした夫婦の波乱万丈の物語として大胆に再構成し、登場人物名や団体名などは一部改称して、フィクションとして描きます。”と断り書きが続くように、登場人物や団体の名前は架空のものに変えられている。古関裕而の楽曲は題名も歌詞も曲もそのまま使用しているが、歌っている人は架空の人の場合も。例えば、ヒット曲「船頭可愛や」は双浦環を演じた柴咲コウの歌が使われている。

昭和を彩り、平成、令和と歌い継がれてきた曲はそのままに、その名曲が続々登場しそうな雰囲気をちらつかせながら、「六甲おろし」はアヴァンで終了し、拍子抜けした人もいるだろう。だが古関裕而の偉業を知る者が例えば平成生まれにどれだけいるであろうか。知っている高齢層と、知らない若年層。分断が激しい現在、できるだけ両者を取り込もうと思ったとき、楽曲はそのままに、登場人物たちの言動は自由に創作。昭和のあの時代の雰囲気を再現したり、音楽の道を失敗も交えながら真摯に歩むお仕事ドラマとして描いたりするのではなく、個性あふれるキャラたちによる喜劇仕立ての現代会話劇にという折衷案が「エール」なのではないだろうか。

朝ドラは、オリジナルの現代ドラマより実在の偉人をモデルにしたものが人気なので、実在の音楽を使いながらオリジナルドラマにしていくという戦略は視聴率対策には適していると思う。だがいまのところ、どうも焦点が定まってない気がしてもやもやする。やはり脚本家が降板したことが尾を引いているのだろうか。大変な事態のなかショウ・マスト・ゴー・オンの精神で制作に当たっているのだと思うから、コロナ禍によって今週で一旦休止となることを不幸中の幸いとして立て直しがはかられることを期待する。
(木俣冬)

主な登場人物

古山裕一…幼少期 石田星空/成長後 窪田正孝 主人公。天才的な才能のある作曲家。モデルは古関裕而。
関内音→古山音 …幼少期 清水香帆/成長後 二階堂ふみ 裕一の妻。モデルは小山金子。

古山華…田中乃愛 古山家長女。

廿日市誉…古田新太 コロンブスレコードの音楽ディレクター。
木枯正人…野田洋次郎 「影を慕ひて」などのヒット作を持つ人気作曲家。コロンブスから他社に移籍。モデルは古賀政男。

梶取保…野間口徹 喫茶店バンブーのマスター。
梶取恵…仲里依紗 保の妻。謎の過去を持つ。

佐藤久志…山崎育三郎 裕一の幼馴染。議員の息子。東京帝国音楽大学出身。あだ名はプリンス。モデルは伊藤久男。
村野鉄男…中村蒼 裕一の幼馴染。新聞記者を辞めて作詞家を目指しながらおでん屋をやっている。モデルは野村俊夫。


番組情報

連続テレビ小説「エール」 
◯NHK総合 月〜土 朝8時〜、再放送 午後0時45分〜
◯BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜、再放送 午後11時〜
◯土曜は一週間の振り返り

原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」

制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和