学校だけじゃない!緊急事態宣言延長で軽視される「保育」の現場に響く苦悩の声
緊急事態宣言の延長が5月末までと決まり、主に都内の子どもたちが通う保育園や幼稚園の休園も延長。中には文京区のように6月30日まで原則「臨時休園」が決まるところもでてきて、幼い子どもたちを抱える保護者の間から悲鳴に近い声があがっている。
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4月7日に緊急事態宣言が発令され、東京都では区によって保育園・幼稚園が閉園するかどうかの対応はバラバラだ。多くの区では「登園自粛をお願いします」という要請が各園に送られ、それぞれ園長から保護者へ自粛をお願いする、という形で閉園している。
また、ほとんどの保育園では、保護者が医療従事者や介護職、スーパーマーケット勤務などのライフラインでの仕事がある場合は預かるという形をとっているが、たとえば杉並区や中野区では保育園に登園する園児は全体の10%以下だという。
負のループに陥る母親の叫び
そうした状況の中、「もう限界」「不信感が募る」「家庭が崩壊しそう」という声があちこちから聞こえてきた。登園自粛で子どもたちと一日中家にいる、主にお母さんたちからだ。今回、そうしたお母さんたちから話を聞かせてもらった。
1人目は派遣で働く40代の女性。夫は同じ40代で自営業。4才の子どもがいるが、夫は今も平日は仕事で家におらず、在宅勤務の女性がひとりで子どもをみている。
「夫は在宅勤務の大変さを分かってないようで、“休みでいいね”って勘違いしていて私の大変さを理解してくれようとはしません。子どもはひたすらテレビを見る毎日ですが、それでもやっぱり飽きちゃう。いっしょに散歩に出たりしていると1日はアッという間。それでも会社は仕事をいつもどおり、お構いなしに振ってきます。『小さなお子さん抱えて大変ね』なんて、これっぽっちも考えてはくれませんから。毎日、子どもが寝た後にパソコンを開いて仕事してます。頑張っていますが、日に日に子どもが泣くことが多くなってきて『やばいなぁ』と思いつつ、どうにもできません」
この方のように、在宅勤務の母親がひとりで抱え込んで追い込まれていくパターンは多い。フリーランスの夫と、都内に暮らす会社員の女性の場合も同じだ。二人とも40代。こちらには5才の子どもがいて、さらに深刻化している。
「夫は仕事が全部なくなって、もう2か月以上も毎日、家にいます。かといって家事も育児もできず、すべて私任せ。毎日、掃除と洗濯と3度の食事作り。夫はただご飯を食べて、気が向いたときに子どもと遊び、私はその間にも仕事をしないとなりません。
これまでの生活は、夫は仕事で留守がち。それが1日中家にいると食費も光熱費も普段の何倍もかかり、仕事もしないでただ遊んでるこの人なに? と私はイライラが募り、コロナ離婚なる言葉も浮かびます。節電、節約と細かなことに神経質になって毎日がギスギス。子どもは今のところ普通にしてますが、本当は子どもの心にも何か感じさせてるんじゃないか? とか心配になって、どんどん負のループに陥ってます」
在宅の仕事を抱えながら家事育児を全てひとりでこなす女性。夫も仕事がなくなってストレスを抱えて身動きが取れないのかもしれないが、妻の献身や犠牲には気づかないのだろうか? コロナ離婚という最悪の結果がチラつく。
こうしたとき、普段なら稼働している『子育てプラザ』などの保護者が気軽に相談できる場所も、今は閉館。東京都ではLINEを使った『子ゴコロ・親ゴコロ相談@東京』という相談窓口を設けたが、こちらは主に児童虐待防止のための心理カウンセラーとの対話。もう少し気軽に家族のあれこれを相談できる場所が今こそ必要だろう。
ほかにも「幼稚園の子ども2人を連れて午前はお散歩、午後は家でぬり絵や折り紙をやっていますが、そろそろ飽きてきてるようで、最近は奇声をあげることがあって……。私自身、この春から働くはずだったのがダメになってしまい、自分はただ空しく消費してるだけの人間なのでは? と毎日たくさん出るゴミを見るたびにへこんでいます」とため息交じりに語る30代の女性もいる。彼女の夫は自営業で時間を縮小して店を営んでいる。休みの日には公園に一緒に行くなどもあるが、育児も家事も基本的に彼女が担う。
現役保育士のリアルな声
どうも夫たちの無理解や協力態勢のなさにも問題を感じるが、そろそろ、お母さんたちはギブアップだ。保育園や幼稚園を再開してくれないか? と望んでいる。厚労省はゴールデンウィーク中の5月1日に、各自治体に向けて「保護者に保育の必要性を改めて調査」するように文書を送ったそうだが、保育園の現場ではまだ「何も聞いていない」そうだ。
「でも、うちの園ではとりあえず緊急事態宣言が当初解除される予定だった7日に集まって今後について話し合います(注:お話を伺ったのは3日)。保護者さんたちの出勤体制もそこで変わるだろうから、8日以降からまたお子さんを預けたいという人も増えてくるのでは? と予想しています。ずっと休み続けられる人は少ないんじゃないかと。補償もほとんどないわけですし。でも、じゃ、みんなが登園してきたら、どういう対応になるのかはまだ決められていません」
と教えてくれたのは、都内の小規模保育園で働く30代の保育士の女性。緊急事態宣言後は2〜3名程度の子どもたちが登園していて、職員は交代で勤務にあたってきたそうだ。ふと心配になり、「それでお給料は?」と尋ねると、「うちは100%保証されていて大丈夫です。ただ、そうじゃないところもあるようなので、そうした保育士への給与保障もきちんとしてほしいです」という。これは大事なことだ。
しかし、彼女の話を聞くと、そうそう簡単に「開園をしてほしい!」とも言えないかもしれないと感じた。
「うちは0歳児からの乳児なので抱っこする以外、何もできないんで、保育が難しいんです。万が一、自分がその子たちにウイルスをうつしてしまったら? 年齢が低くなればなるほど大変だと思います。またほかの保育士さんや、お母さんたちにうつしてしまったら? と考えたら、いきなり全面的に開園するのは難しいように感じています。元々おもちゃを消毒するためなどの消毒薬は十分用意してあったので、そうした備品はあるんですが……」
なるほど。年齢が下がるほどに保育自体に困難が伴う。一体どうしたらいいだろう?
「段階的に短時間や、曜日別に子どもたちを分散登園で少人数で預かるとか? でも、それも誰がいつ登園するのか? どういう基準で選んでいくのか? それぞれのご家庭に都合もありますし、話し合いに時間がかかります」と、保育現場ではなかなか話を決められない。
「だから、本当はもっと区や国といったところで考えてほしいというのはあります。何も考えてくれないで現場に丸投げ。園長も決められないで困っていると思います」と保育士さん。そのとおりだ。
こうした一方で、東京・練馬区では現在も区全体で40%以上、私立では50%以上の子どもたちが保育園に登園している。練馬区は区として閉園の方針ではない。現在も開園している私立の認可保育園を運営する社会福祉法人で役員を務める男性に伺った。
「保育園は単純に閉園すべきとは思いません。保護者の就労状況などからみて、個別にいろいろな事情がありますから。もちろん、感染リスクがあるのは事実ですが、その対策をしっかり打ちながら開園することによって、そうした個々の方の会社の事情や、職種などによる事情に対応していくことはできると思っています。
また子どもの虐待などのリスクがある家庭も、現実としてあります。当園では感染を防ぐために職員はもちろん、子どもたちも受付時に体温の測定をしてマスクの着用を義務付けています」
男性が役員を務める保育園では今日も当たり前に子どもたちが通っている。もちろん、自粛を選択している家庭もあり、「そうした保護者にはYouTubeでメッセージ動画を送るようにしています。家でできる遊びを見せたり、絵本の紹介、赤ちゃん体操のやり方などを定期的に送り、家でも子どもと保護者さんたちが健やかに過ごせ、また園とのつながりを感じてもらえるようにしている」という。前述した、困っている保護者さんたちのお子さんたちが通う保育園では、そういう“園とのつながり”を見せてくれてないのも問題かもしれない。
しかし、その練馬区にある、別の区立保育園で保育士をする女性は「必要ならば仕方なく保育しますが、自分も人間なので、本当は感染が怖いです」と正直な気持ちを吐露する。そしてサポートをきちんとしてほしいと願う。
「開園していても特別手当などもありません。安倍首相は『保育現場の方たちには頑張っていただいて』と感謝の言葉を言いますが、身体を張ってることをもっと見てもらって、きちんとした保障をしてほしいです。保育園ではパートの方などは年休をとって休んでいる人もいます。もっとしっかりサポートしてほしいですし、マスクも消毒薬もうちは不十分です」
ないがしろにされがちな乳幼児問題
実は練馬区では保育士やお母さんたちの間で、閉園を求める署名運動が起こっている。練馬区議の高口ようこさんが練馬区に提出した「保育園・学童の現場支援を求める要望書」には現場任せにしている練馬区に対して、保育士さんたちから「練馬区ではもう保育をしたくない」「練馬区から見捨てられた」といった声が寄せられているとある。また保育園が開園しているからお母さんたちの在宅ワークが認められなかったり、また自粛しても保育料の返還もなかったことも大きな問題だ(が、やっと最近、返還が決まったそうだ)。
今や、閉園しても問題が山積、開園しても問題が山積だ。
しかし、こういう声もある。都内に住む夫婦共に会社員の女性だ。
「私自身テレワークなので子どもは登園自粛しています。感染予防や保育士の方々の負担軽減を考えると致し方ないのかな?と思いますが、小学生を含めて3人の子どもたちがいる状態では満足に仕事をすることはできません。でもいちばんの不安は、子どもたちが家庭内という狭い中で過ごすことで、集団でしか得られない学びの経験ができないことです。親との関係だけでは親子共々に逃げ場もなく、限界もあります。しかも家庭環境によって子どもたちの間に格差が生じてしまい、再開後に不安があります。どうか後手後手ではなく、早めの対応や補償をしっかり練ってほしいです」
また、先ほどの、開園している練馬区の保育園で働く保育士の女性も、
「自粛をしていることで自宅にいて、本来保育を受ける必要がある子どもたちが在宅で家にこもり、大切なこの時期の成長や発達がとても心配になる」と、話す。
都内の閉園中の小規模保育園で働く前述の保育士さんも、
「親御さんとの時間が増えていいだろうと言われますが、それがある程度の距離感があればいいけれども、常に密接だとお互いにイライラするし、しかも公園の遊具も使えない、あれもダメこれもダメの中でみなさんどうしているんだろう? と親御さんもお子さんも両方のことが心配になります」と言う。
幼い子どもたちにとって、幼稚園や保育園はただ時間を過ごすだけの場ではない。集団生活の中からさまざまなことを感じ、学び、反復していく場だ。大人にとっての1か月や2か月はアッという間だが、2、3〜5才ぐらいの子どもにとっての2か月はとてつもなく長い。
小学校〜高校の授業再開時期の問題は盛んに論じられているが、幼児の問題はないがしろにされがちだ。でも、同じようにとても大切だということ、多くの人、特に自治体の長たる人たちは認識して早急に考え、対策を練って、よりよい方向に進めてほしい。
そして社会は、小さな子どもたちを抱えて大変な親御さんたちに、温かい目で接してほしいと願う。都内で乳児を預かる保育園を運営している女性が言っていた。
「3度の食事にテレワーク、世のお母さんたちは今、本当に大変だと思います。小さいお子さんのいる方が、優先的に休める温かい社会であってほしいなと思ってます。まだまだ先が見えないですが、早く元の日常がもどるように、自分にいまできることを頑張りましょうー!」
〈取材・文/和田靜香〉