画期的な野球指導をするオンラインサロン「NEOREBASE」【画像:内田聖人提供】

写真拡大 (全2枚)

元早実エース・内田聖人が立ち上げた話題のコーチング集団、その実態とは…

 野球がうまくなりたい。速い球を投げたい。打者を抑えたい。ヒットを打ちたい。白球を初めて握ったあの頃から抱く純粋な向上心。レベルが上がるにつれて、成長が頭打ちになる人も多い。プロだって研究、進化を続ける毎日。歩みを止めてしまえば生きていけない世界で生きている。どうすればもっと上に行けるのだろうか。

 そんな悩める向上心に本気で応えるコーチング集団がいる。その名は「NEOREBASE(ネオリベース)」――。

 9つのアルファベットが示すのは、専門的、かつ画期的な野球指導をするサロンだ。オンライン上で動画などを用いながら野球に関する知識、考え方、情報を有料会員(一般は月4000円、学生は同2000円)に向けてコーチングする。指導するのは4人の専門家。このうちの一人が最速150キロの剛腕でアマ球界に名を馳せた内田聖人だ。

「現場に行かなくても知識を伝えられる。誰でも聞けるし、本当にいまどきですね。今は情報が溢れすぎていて、ツイッターやYouTubeを見ていると『えっ?』という部分もめちゃくちゃあるんですよね。その人の理論があるのかもしれないですが、誰でも発信できてしまう。5年後、10年後にもしかしたら自分たちが今言っていることが全然大したことないと思うかもしれないですが、今思う『本物』を提供しようとしています」

 オンラインサロンの意義を明かした26歳の右腕。自身は名門・早実で甲子園の土を踏み、3年時にはエースナンバーを背負った。早大、社会人、米挑戦の末、昨秋のNPBドラフト会議で指名がなく、「最速150キロ」の名刺を持ったまま選手生活に区切り。11月に「NEOLAB(ネオラボ)」という事業を立ち上げ、自ら代表に就任した。

 米球界で近年増えつつある肩書き「Pitching Strategist(ピッチング・ストラテジスト)」を生業とし、第二の人生で投球指導をしている。1月から野球データやトレーニングの専門家4人で「NEOREBASE」を開設した。

 自身を主軸に集まったメンバーの一人が、データから鋭い視点で野球理論を展開する評論家・お股ニキ氏だ。著書「セイバーメトリクスの落とし穴 マネー・ボールを超える野球論」は日本の野球界に一石を投じ、今では教えを乞うプロもいるほど。選手から絶大な信頼を得ている。

 内田が現役時代の真っただ中にいた2018年から指導を受けたのが、「ストラテジスト(戦略家)」の肩書を持つ池田則仁氏。スローイングに限らず、打撃、トレーニングにおいて個人指導するパーソナルコーチで、投手、野手合わせてプロ20人を指導してきた。もう一人が技術、肉体面で指導できる小山田拓夢氏。MAX152キロを誇り、早大では内田の2学年先輩だった。内田曰く「どうやったら球が速くなるかずーっと考えている人」という。

 自身の肩書き「ピッチング・ストラテジスト」は日本語にすれば「投球戦略家」。従来は指導者が分かれていたトレーニング、テクニックの部分を一括して担当し、ピッチングに留まらず、野手のスローイングもトータルでコーディネートしている。この4人のスペシャリストが専門知識を持ち合わせ、互いに補完し合いながらレベルアップに導くのが「NEOREBASE」なのだ。

ダルビッシュから質問が飛ぶ、千賀ら現役プロ5人も受講メンバー

 指導に欠かせないのが、最新鋭の投球動作解析システム「ラプソード」。球速に加え、回転数、回転軸、回転効率、リリースポイントなども数センチ単位で計測でき、定期的に測ることで調子のバロメーターにもなる。これを米国で購入し、150キロを投げられる内田に興味を持ったのが、お股ニキ氏だった。

「お股ニキさんはラプソードを見たことがなく、速い球を見たことがないと。向こうから是非見たいということだったので、こちらこそ是非一度お会いしたかったというのがきっかけです。池田さんは一昨年から、自分が米国に行く前にパフォーマンスの部分で教わり、かなり影響がありました。

 小山田さんは肘をトミー・ジョン手術していて、肩も手術している。でも(術後に)実際に速い球を投げています。常に自分で人体実験をしていて、自分で納得がいかないと気が済まないし、もの凄く勉強されている方です。自分がオンラインサロンをやろうと思ったんですけど、自分の知識では全然足りないなと思ったのと、毎日自分が更新するのは無理だなと思いました。互いに埋め合わせできる関係です。

 お股ニキさんはデータの部分から、池田さんはトレーナーとしてパフォーマンスを体の部分から、小山田さんはトレーニングや実際にケガをした経験から。お股ニキさんと池田さんは良くも悪くもプレーヤーではなかったので、誰にでもバシバシ言える。集まれば本当にいいものができるんじゃないかなと思った4人です」

 それぞれの活動拠点が離れており、定期的に集まることが不可能だった。「この人たちの知識を眠らせておくのはもったいない。その辺にありふれている知識とはまた違う」との思いから、オンラインという珍しい手法に至った。現状では1人の指導者が週1回で月4回投稿、4人全員で月16回となる。

 投稿者がテーマを決め、ボールを使ったり、実際にトレーニングをしたりする動画で説明。文章によるスライド形式でわかりやすく解説をするメンバーもいる。「野球をうまくなりたい、完全にそういう人向けですね」。受講者はプロ、アマ、指導者などレベルを問わず多岐にわたり、90人に近くまで増えた。

 内容に対する質問にも答える。ここで驚きなのが、受講者の中に米大リーグ・カブスのダルビッシュ有がいることだ。「こういう感じで合ってますかって、普通に一般の方に交じって質問してくれる。凄くありがたいですよね」と内田。自身が米国挑戦中に志願してトレーニングをともにし、小山田氏らとも指導を通じて深い関わりがあるという。さらにサロンの評判が広がり、今ではソフトバンク・千賀滉大、DeNA・櫻井周斗、中日・岡野祐一郎と竹内龍臣というプロの投手たちも受講メンバーとなった。

 内田の場合は、オンラインサロンの受講者から依頼を受けて現場に足を運ぶことも考えている。米球界で一般的になりつつあるラプソード。日本のプロ野球でも多くの球団が導入したが、数字の意味を理解し、使いこなすのは簡単ではないという。ピッチング・ストラテジストとして活動する内田は、ラプソードで解析した数値の意味、応用の仕方を伝えられる。

うまくなりたいなら日本へ、夢は「世界が日本に注目すること」

 内田個人がテーマに置くのは、「球を速くする」「肩を強くする」こと。さらに、これをケガをせずに実現させ、変化球、コントロールの面でも合わせてレベルアップに導いていく。ラプソードで回転数、回転軸、回転効率などの数値を測定し、時にはハイスピードカメラも使用。フォームの再現性に着目し、「打ちづらい球」を投げるために研究した成果を教えている。

「自分の体を思うように操ることが全てではないかという気がします。思うように効率よく操る。そのためにトレーニングがあり、柔軟性が必要。ここからフォームが出来上がって、パフォーマンスが上がってくる。自分のところに来ている人でコントロールがバラバラになってしまう人は、今のところいないです。

 ただ闇雲に球速を上げればいいわけではない。自分に合った球速のポジションってあると思うんですよ。これを理解できている選手は、ほぼいない。そういうところまで見てあげることができるのは、今までにない部分かなと思います」

 12月以降、複数回指導した15〜25歳の選手は14人。未だ球速アップできていない2人を除き、約3か月で平均4.0キロアップに成功した。ある選手は8.1キロアップの149.6キロに。データ、数値の意味を丁寧に紐解いて伝えたことで、ひと冬で大幅な進化を遂げた。

「その辺にありふれた知識よりも、もう一つ深掘りした知識を提供できているんじゃないかなという自負はあります。『めっちゃよかったです』と言ってくれて、現場の満足レベルは感じますね」

 ユニフォームを脱ぎ、指導者の道を走り始めたピッチング・ストラテジスト。突き詰めた理論、経験、そして「本物」と自負するメンバーとともに、画期的なオンラインサロンという形で野球のレベルアップに導いている。今の夢を問われた26歳は「なんだろうな」と間を置き、熱い野心を秘めながら言葉を紡いだ。

「野球がうまくなりたいと言った時に、世界が日本に注目してくれるくらいになるということが夢ではあります。『日本に行ったら野球がうまくなるらしいぞ』というくらいになること。ただ、それはまだまだこれからの話です」

 野球がうまくなりたい。あの頃抱いた向上心を失うことはない。都内でも、米国でも、地球のどこにいてもうまくなれる時代を築いていく。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)