スラムダンクの「聖地」に中国人が殺到する理由
外国人観光客は今、日本で何を求めているのだろうか(デザイン:新藤 真実)
アニメ『スラムダンク』に登場する江ノ島電鉄・鎌倉高校前の踏切。ここがいま外国人観光客の観光スポットになっている。特に殺到しているのは中華圏の旅行客だ。
江ノ電に観光客が殺到している(記者撮影)
支持を集める理由は、車窓から見える湘南海岸の景色や、路面電車のようなレトロな雰囲気。江ノ島電鉄の1日当たり利用者数は2012年の1万6500人から2017年には1万9205人へと、5年間で16%も増加した。
『週刊東洋経済』9月2日発売号は「爆熱!観光立国 訪日客は何を買う? どこへ行く?」を特集。ますます進化するインバウンドビジネスにおいて、日本企業や地方自治体は多様化する外国人観光客の需要とどう向き合っているのかの最前線を追った。
「爆買い」「弾丸ツアー」はどこへ
日本における外国人観光客の行動は、以前とでは大きく変化している。
「転売ヤー」と呼ばれる中国人の転売業者が、家電や化粧品を漁った「爆買い」ブーム。そして、東京や京都、大阪などの「ゴールデンルート」を団体バスで短期間のうちに移動する「弾丸ツアー」。こういった乱暴で慌ただしい行動は、もはや過去のものだ。
最近の中国人観光客はスマートフォンで情報を集め、自分たちの行きたいところにタクシーで移動し、モノを買うだけでなく体験型消費を楽しむ。訪れる地域もさまざまで、東京や大阪などの大都市圏にとどまらず、今や富山や鳥取、青森など地方にも足を運ぶ。冒頭のように、日本の漫画やアニメに親しみを持つ中国人の若い層は、それらのゆかりの地である「聖地」も頻繁に訪れる。
そういった地方の観光地には、中国語や韓国語など外国語の看板がずらりと並ぶ。「日本人以上に、日本の事情に詳しい人が増えている。そういった個別の事情に応じて、需要は細分化している」と、中国人の消費行動に詳しい三菱総合研究所の劉瀟瀟(りゅう・しょうしょう)氏は語る。
日本に来る外国人観光客は、ここ数年右肩上がりで増えている。2018年は3119万人で、日本政府観光局(JNTO)が統計を取り始めた1964年以降、過去最高の数字になった。その中で最も多いのが、全体の27%を占める中国人観光客だ。
2018年に日本を訪れた中国人観光客数は、前年比13.9%増の838万人。同5.6%増ながら753万人だった韓国人観光客数よりも増え方が目立つ。
この背景には、政府によるビザの発給条件緩和がある。加えて、中国の地方都市から日本へのLCC(格安航空会社)などの空港便が増えていることも大きい。「最も路線が多いのは上海からの便。今後四川や重慶など路線が増えれば、人口規模の多い内陸部からの訪日も期待できる」(JNTO海外プロモーション部の松田景子氏)。
行動が変化しているとはいえ、中国人が「買い物好き」であることは以前と変わらない。中国人の日本での平均宿泊日数は9.7日と他国・地域と比べて短いが(観光庁の2018年調査、以下同)、1人あたりの支出額はトップレベルだ。
人気の商品はニッチな分野へ広がる
中国人観光客に人気の商品は、徐々にニッチな商品へと広がっている。調査会社トレンドExpress社によると、2014年や2016年のランキング上位には、おみやげの定番「白い恋人」や日本人女性もよく利用する日焼け止め、化粧品などが並んでいた。ところが、今2019年上半期は薬用ローションに加え、口内炎パッチやコメの成分を配合したマスクなど日本人でもあまり馴染みのない商品が上位に並ぶ。
買い物が大好きなだけでなく、ここ数年の中国人観光客は体験型消費にも積極的にお金を落とすようになっている。
最近の人気は美容院だ。8月上旬に東京・銀座にあるモッズ・ヘアのサロンに足を運ぶと華僑の母娘が髪を切りに来ていた。母親は「知人が美容院を紹介してくれた」と笑顔で話す。母親は娘が髪を切る前に、中国人スタッフとどんな髪型にするかを念入りに相談した。
医療の現場にも人気は広がる。人間ドッグの受診やがんなどの治療、さらには美容整形の施術を受ける目的で来日する中国人が増えている。病院と患者の間に立って、診察の予約から治療時の通訳などを行う「医療コーディネーター」も出現している。
『週刊東洋経済』9月7日号(9月2日発売)の特集は「爆熱!観光立国 訪日客は何を買う? どこへ行く?」です。