「D23エキスポ」で行われたディズニーパークのプレゼンテーション。最後はおなじみのキャラクターが勢ぞろいした(©Disney)

8月23〜25日、アメリカ・カリフォルニア州のアナハイムで開かれたウォルト・ディズニーのファンイベント「D23エキスポ」。最大の目玉は動画配信「ディズニー+(プラス)」に関するプレゼンテーションだったが(8月27日配信「激変する動画配信、ディズニーが示した「本気」)、ほかに注目すべき発表があった。テーマパークに関するプレゼンテーションだ。

「今日はワクワクする発表ができることをうれしく思います。新しいストーリーによって、ゲストに特別な体験を提供します」。ディズニーでパーク、エクスペリエンス&プロダクツ事業を統括するボブ・チェイペック氏はそう語り、今後のディズニーパークの構想を次々と語った。

来年初に「アベンジャーズ・キャンパス」が登場

目立ったのは、ディズニー以外のブランドの充実ぶりだ。ディズニーは2006年、アニメーション制作会社のピクサーを買収。その後、2009年にアメコミのマーベル、2012年には『スター・ウォーズ』を展開するルーカスフイルムを傘下に収めた。今回の発表には、そのマーベル、スター・ウォーズに関連した新しいアトラクションが多い。


アベンジャーズ・キャンパスに登場するシミュレーター(記者撮影)

2020年初め、アナハイムの「ディズニー・カリフォルニア・アドベンチャー」に登場するのが、「アベンジャーズ・キャンパス」だ。アベンジャーズたちが、新しいヒーローをリクルートするために活動を始めるというストーリー。キャンパス内には、スパイダーマンをテーマにしたライドアトラクションや、アベンジャーズとともに冒険に出るアトラクションなどが整備される。

スター・ウォーズ関連では、アメリカのフロリダ州オーランドにあるウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート(WDW)に、新しい滞在型施設「スター・ウォーズ:ギャラクティック・スタークルーザー」が登場する。ゲストは2泊の冒険に出て、ライトセーバーの使い方を学んだり、おなじみのキャラクターと行動をともにしたりする。「すべてがスター・ウォーズという特別な体験になる」(チェイペック氏)。


大きくコンセプトを変えるのが、同じWDW内にあるエプコットだ。エプコットは、創業者のウォルト・ディズニーが実験的未来都市として整備したことで知られる。現在は世界各国のパビリオンが並ぶワールド・ショーケースなど2つのエリアで構成されるが、今後は4つのエリアに整備され、それぞれに新しいアトラクションが導入される。

東京に関する言及はなし

ほかにパリ、上海、香港のディズニーパークに関する発表もあった。ただその中で、東京に関する言及はなかった。

東京では、運営するオリエンタルランドが、すでにディズニーランドの開発(2020年春開業、投資額750億円)とディズニーシーの拡張(2022年度開業、投資額2500億円)を決めている。が、こうした東京での投資計画がかすんでしまうほど、今回は多くの開発案件が発表された。

パークへの積極投資が目立つようになったのは、2015年にチェイペック氏が責任者になってからだ。翌年には上海ディズニーランドが開業、その後も毎年30億〜40億ドル(3200億〜4200億円)の投資を続けてきた。


メディアにパークの構想の一端を説明するボブ・チェイペック氏(記者撮影)

今回、大規模投資が発表されたエプコットについても、「ディズニーパークの中では認知度が劣っていた。逆に言えば、その分伸びしろがある。ボブらしい決断」と、ディズニーの関係者は言う。

「D23」の4日後。8月29日、フロリダ州オーランドのWDW内にある「ディズニー・ハリウッド・スタジオ」に、新しいテーマエリア「スター・ウォーズ:ギャラクシーズ・エッジ」がオープンした。スター・ウォーズのテーマエリアは、アナハイムのディズニーランドに次いで2カ所め。東京ドーム1.2個分の広さに「バトゥー」という架空の宇宙都市が再現され、訪れたゲストは、スター・ウォーズの世界にたっぷりと浸ることができる。

アナハイムのギャラクシーズ・エッジで驚かされるのは、その街並みだ。建物の雰囲気や傷み具合は、レジスタンス(反乱軍)がそばにいるかのよう。ディズニーでテーマパークを開発する専門家集団、イマジニアリングのカースティン・マケラ氏は「細部に徹底的にこだわった。何度来ても新しい発見があると思う」と胸を張る。

自分だけのドロイド(自律型ロボット)やライトセーバーを作ることができるショップ、輸送シャトルを改造したレストランなど、施設の1つ1つにストーリーがあり、全体で街を構成する。スマートフォンのアプリを使って、宇宙都市の情報をさらに知ることができたり、ロールプレイングを楽しんだりすることもできる。


アナハイムのディズニーランドにある「ミレニアム・ファルコン:スマグラーズ・ラン」(記者撮影)

アトラクションは、宇宙船を操縦する「ミレニアム・ファルコン:スマグラーズ・ラン」。5〜6人がチームとなり、パイロット、狙撃者、技術者の3つの役割に分かれてファルコンを操縦、その操縦の仕方によってストーリーも変わる仕掛けだ。

さらにフロリダのハリウッド・スタジオには、ウォルト・ディズニーの誕生日である12月5日に、新アトラクション「スター・ウォーズ:ライズ・オブ・ザ・レジスタンス」がお目見えする(アナハイムには2020年1月17日に登場)。8人乗りのライドに乗って戦いに参加するストーリーだが、「最先端の技術を使った、いままでにないアトラクション」(チェイペック氏)という。

このスター・ウォーズのテーマエリアについて投資額などは公表されていないが、「間違いなく1000億円は下らない」(別の関係者)。本物志向、惜しみない投資という点で、最近のディズニーの象徴的な開発案件といえる。

テーマパークはディズニーの下支え役

ディズニーにとって、テーマパーク事業の存在感は大きい。2018年9月期はパーク&リゾート事業の営業利益が44.7億ドル(約4700億円)と、全社利益の約3割を占めた(現在はパーク&リゾートとコンシューマ・プロダクツを含む組織に変更)。ディズニーの収益の柱は、いまもケーブル放送やテレビなどのメディア事業だが、ネット化の流れの中で同事業は減益傾向が続いている。


「スター・ウォーズ:ギャラクシーズ・エッジ」の街並み(記者撮影)

ディズニーは今後、全社を挙げて動画配信に打って出ようとしている。そうした中、安定的な業績を維持するテーマパーク事業は、ディズニー全体の下支え役になる。

映画やテレビでキャラクターを作り出し、それをテーマパーク、商品といった「リアル」の場で表現する。こうした一連のサイクルこそが、他のまねできないディズニー最大の強みだ。ディズニーにとって、テーマパークはゲストに体験を提供する重要なタッチポイントであり、「出口」でもある。

ここにきてマーベルやスター・ウォーズのアトラクションが増えているのは偶然ではない。これら2つのブランドが、ようやくディズニーならではのビジネスモデルに加わってきたということだろう。今後もディズニーパークは大きな変貌を遂げそうだ。