photo by gettyimages

写真拡大

文在寅はルビコン川を渡った

河野太郎外相は8月21日、中国の首都北京の郊外で韓国の康京和外相と会談したが、懸案の旧朝鮮半島出身労働者判決問題(いわゆる「元徴用工問題」)と、輸出手続き簡略化優遇対象国(「ホワイト国」)から韓国を除外した問題について、日韓外相は共に主張を譲らず、議論は不調に終わった。

そして翌日午後に大統領府(青瓦台)で開かれた国家安全保障会議(NSC)後、金有根国家安保室第1次長は記者会見で、大方の予想に反して日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を発表した。終に文在寅大統領はルビコン川を渡ったのである。深刻な日韓対立はもはや修復不能になったかに見える。

photo by gettyimages

さて、対韓輸出管理問題についてのマスコミ報道は、筆者を含めて報じる側の知識と理解不足から現状を正しく伝えているとは言い難い。そうした中で、「日本経済新聞」は8月21、22両日付「経済教室」欄に「対韓輸出管理厳格化の是非」(上下)と題して2人の学者が寄稿している。

特に「下」を執筆した細川昌彦中部大学特任教授は、旧通商産業省貿易管理部長を務めたキャリアもあることから、最近は民放テレビ局のワイドショーに引っ張りだこの売れっ子であり、同紙での説明に説得力があった。

同氏が挙げたポイント(1)輸出管理制度への誤解が本質を見えにくくしている、(2)韓国半導体産業や国際供給網への影響は軽微である、(3)日本は米中摩擦と違うとの国際世論対策をすべき――は正鵠を射ている。それにしても、上述記事を精読してもまだよく理解できないという声が少なくない。

4つのレジーム

そこで筆者は、当該の経済産業省貿易経済協力局貿易管理部幹部からトコトン分かりやすいブリーフィングを受けた。そして、その上で行った取材の結果を報告する。

安倍晋三政権は8月2日の閣議で韓国向け輸出について厳格化するため輸出貿易管理令の政令改正を決定した。そもそも、その時点で4つの国際輸出管理レジームがあったことを知る必要がある。固有名詞が多くなるが、基本知識として挙げる。

(A)原子力供給グループの規制対象品目(以下同じ):原子力専用品・技術(核物質、原子炉、原子力関連汎用品・技術など)、(B)オーストラリア・グループ:化学兵器(化学剤、化学兵器汎用製造設備)、生物兵器(生物剤、同汎用製造設備)、(C)ミサイル技術管理レジーム:大型ミサイル・無人航空機、小型ミサイル・無人航空機、関連機材・技術、(D)ワッセナー・アレンジメント:武器、汎用品(先端材料、材料加工、エレクトロニクス、コンピュータ、通信関連)――である。

この4つのレジームの中で比較的最近に発足した(D)は1996年からの発効であり、参加国は42カ国である。この(A)から(D)までのレジームに関して、参加国中の28ヵ国が「ホワイト国」(現在は「グループA」と呼称が変更されている)として優遇対象国の扱いを受けてきた。

ところが、安倍政権は「安全保障の観点から不適切な事案」が判明したとして韓国を「グループA」から除外したのである。このレジームの(D)の「汎用品」の中でも特に「先端材料」と「材料加工」が対韓輸出管理の見直しで挙げられた3品目ということなのだ。即ち、レジスト(感光材)、フッ化ポリイミド、フッ化水素である。

国際供給網への影響はあり得ない

では、これまで韓国が受けてきた優遇措置とはどのような内容であったのか。経産省内部資料を引用する。《国際的に合意された品目(リスト規制品)は、個別の輸出毎に国の輸出許可を受けることが基本であるが、9割程度の品目について3年間有効な包括的な輸出許可(一般包括的許可)を認めており、個別の輸出許可申請を免除している。非リスト規制品については輸出許可を必要としない。(キャッチオール規制の対象外)》

官僚の作文的な表現であるが、要は、先の韓国向け3品目を除く「特別一般包括」が求められる「グループB」扱いに変更したということだ。より砕いて言えば、輸出管理内部規定の整備が求められ、ルール違反が懸念される場合には個別許可が必要になったのである。これはもちろん、「禁輸」でも「数量制限」でもない。

従って、輸出する日本企業、取得する韓国企業にその懸念がない韓国側のサムスン電子やLGなどにはレジストの個別許可が下りて納入されたのである。最終用途・需要企業は当然韓国内であるので第3国(北朝鮮?)への供給が前提であれば、それを踏まえた許可取得が必要なのだ。

これは安全保障輸出管理関係者にとっては一般常識だ。文政権が声高に批判する半導体の国際供給網への影響はあり得ない。経産省(METI)のカウンターパートである産業通商資源省(MTIE)には国際通商政策のプロは大勢いるが、貿易管理部門には公正取引委員会からの出向者2人を含めて僅か10人だけだ。他方、経産省貿易経済協力局は120人態勢である。7月12日に来日しMETIの管理貿易担当者と対面したMTIEの2人が「キャッチオール」という基礎用語すら知らなかったのが、現下の貿易管理問題の実情なのだ。韓国サイドはこの現実を直視すべきである。