<米ニューヨーク市立大学の研究チームは、このほど、生物蛍光をもたらす新たな分子を発見した......>

深海には、青色光しか届かず、その他の波長の光は、到達するまでに海水に遮られてしまう。このような環境下で生息する深海生物では、青色光を吸収して別の色の光を放出する「生物蛍光」の現象がみられる。

米ニューヨーク市立大学(CUNY)のデビッド・グルーバー教授らの研究チームが2014年1月に発表した研究論文によると、トラザメ科のアメリカナヌカザメやクサリトラザメなど、180種以上の深海生物において生物蛍光が確認されている。

「生物発光」と異なる、「生物蛍光」

生物が光を生成して放射する「生物発光」と異なり、生物蛍光は、外部光源を必要とするのが特徴だ。生物蛍光では、吸収した青色光を別の色の光に変換する際、緑色蛍光タンパク質(GFP)や脂肪酸結合タンパク質(FABP)が用いられていると考えられてきたが、グルーバー教授らの研究チームは、このほど、生物蛍光をもたらす新たな分子を発見した。一連の研究成果は、2019年8月8日、オープンアクセス誌「アイサイエンス」で公開されている。

研究チームでは、アメリカナヌカザメとクサリトラザメに注目し、生物発光のメカニズムについて詳細な研究を行った。これらのサメの表皮は明暗2色にわかれており、それぞれから化学物質を抽出したところ、明色の部分のみに存在する蛍光分子を発見したという。

この蛍光分子は、臭素化トリプトファン-キヌレニン低分子代謝産物で、脊椎動物の中枢神経系や免疫系に関与する物質としても知られている。深海で生息するアメリカナヌカザメとクサリトラザメにおいては、この分子が、表皮を蛍光に光らせる役割も担っているというわけだ。なお、2016年4月に発表された研究論文により、アメリカナヌカザメやクサリトラザメの生物蛍光は、ヒトの目には見えず、サメの目でのみ見えることもわかっている。

微生物感染を防止する働きもある

また、この分子には、微生物感染を防止する働きもあるとみられている。いずれのサメも、微生物が多い海底の堆積物の隙間に生息していることから、研究チームでは、この分子がサメを清潔に保つ働きを担っているのではないかとみている。

グルーバー教授は、この研究成果について「低分子代謝産物をベースとする、海洋生物の新たな生物蛍光の形態を示すものだ」と評価。今後、海洋生物の生物蛍光や生物発光について幅広く研究をすすめることで、新たな画像技術の発展にもつながるのではないかと期待を寄せている。

松岡由希子