乗用車に取り付けたワンペダル。ブレーキペダル脇のレバーを横に押すことでアクセル操作する

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ナルセ機材の「ワンペダル」
 ペダルの踏み間違いが原因とみられる自動車事故が多発する中、熊本県の町工場が開発した「踏み間違えないアクセル」に注文が殺到している。取り付けまで10カ月待ちの状況だが、悲しむ人がいなくなることを願い、開発者は「事故を減らすため生産力を高めたい」と話す。

 熊本県玉名市の「ナルセ機材」が開発した「ワンペダル」は、アクセルペダルをなくし、ブレーキペダルの脇に取り付けたレバーを足で横に押して加速する構造。ブレーキ上に足を置いたまま操作するため、加減速の際にペダルを踏み換える必要がなく、ブレーキが利き始めるまでの空走距離も短くなる。価格は取り付け費用を含め約20万円。車検の基準を満たしており、改造の届け出も不要。取り付け後はそのまま公道を走行できる。

 ノリ養殖機器を製造する同社の鳴瀬益幸社長(83)が製造に乗り出したのは約30年前。踏み間違いで駐車場から道路に飛び出しひやりとしたのがきっかけ。中学で音楽の先生が鍵盤楽器の複数のペダルをかかとを付けたまま操作していたのがヒントになった。

 1991年に最初の特許を取得し発売、改良を重ねた。東京・池袋で母子が死亡した事故や福岡市で車が暴走し運転の男性と妻が死亡した事故などで踏み間違いの可能性が指摘され、今春以降、注文が急増した。従業員の有瀬智雄さん(49)によると、これまでは取り付け時間の問題からキャンセルとなることも多かったが、最近は「どれだけ待ってもいい、というお客が多い」。池袋事故があった4月以降、北海道から沖縄まで約50基を販売。玉名市の取り付け費補助への申請も昨年度は4件だったが本年度は既に15件に上った。

 熊本県荒尾市の武田幸生さん(81)は半年ほど前、病院の駐車場で踏み間違いをした。「大事故にはならなかったが、ニュースを人ごとではないと思った」と7月下旬、申し込みに訪れた。

 車種や年式によりアクセルの構造が異なるため、取り付けは月13基程度が限度。鳴瀬社長は「事故を減らすため、売れ筋の車だけでも規格化し量産する方法を検討している」と話している。
日刊工業新聞2019年8月20日

ナンキ工業の「STOPペダル」
 ナンキ工業(埼玉県川口市、南平次代表、048・223・6420)の「STOPペダル」が話題だ。1日2―3件だった問い合わせは、高齢者ドライバーの踏み間違えによる交通事故が社会問題化する中で、同20―30件に増えた。「(車を運転する)高齢の親を心配する一般客からの問い合わせも多い」(南代表)という。

 同製品は自動車のアクセルペダルの代わりに取り付ける。強く踏み込むことでブレーキペダルと連動し、停車する。必要に応じて「加速モード」というスイッチを押すことで、ブレーキ機能を解除し、急加速にも対応できる。1時間程度で取り付けられ車検も通る。

 ただ「全車種に対応できておらず、生産が追いつかない」(同)ことが課題。南代表は「交通事故を減らし、踏み間違いでの事故をゼロにしたい」と力を込める。