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●1日7食、週7ジムで肉体改造

NHKの大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜』(毎週日曜20:00〜)で、平泳ぎの金メダリスト・鶴田義行役を演じている大東駿介。なんと大東は、元々カナヅチだったが、鶴田役にキャスティングされてから10kgもパンプアップし、泳ぎも猛特訓して、見事に鶴田選手になりきった。

アムステルダムオリンピックで金メダルを獲った鶴田だが、ロスオリンピックでは、斎藤工演じる高石勝男と共に、ピークを過ぎた水泳選手とされ、あまり期待はされていなかった。だが、2人のベテランは後輩選手たちを牽引する存在となり、日本水泳チームをメダルラッシュへと導くことに。大東を直撃し、無謀ともいえる壮絶な役作りの舞台裏について話を聞いた。

――最初に鶴田選手が登場されたシーンを観た時、その肉体美に目がクギ付けになりました。

10kg増量しましたが、結果的にタンクトップのシーンがすごく増えました(笑)。また、メイクさんもなぜか、僕の体をオイリーにしてくれて。モニターを見て、なんかテカってないか? と思いました。でも、そこまで体を大きくできたことで、鶴田さんに近づけた気がしてうれしかったです。ただ、今まで着ていた服は着られなくなりましたが。

――オリンピックの金メダリストということで筋骨隆々のたくましい肉体が印象的です。どのように役作りをしていきましたか?

大河ドラマは、『平清盛』(12)、『花燃ゆ』(15)に続いて3作目となりましたが、写真が残っている実在の人物を演じるのは今回が初めでした。せっかくなので、本当に鶴田選手のビジュアルを意識して、やれるところまでやってみようと思いました。目標を持つことで、モチベーションが上がった気がします。

僕は本当にアスリートの人たちを尊敬しています。僕が彼らのようになれるなんて思ってもいないけど、そういう役を演じるので、自分にも何か負荷をかけなきゃいけないと思いました。だから、体重も10kg以上増やし、水泳にも打ち込みました。

――まさに、水泳の金メダリストという説得力のある風貌になっていましたが、肉体改造はどのようにされていったのですか?

食事はクランクインする2カ月くらい前に、とにかく過剰に取りました。夜中にステーキ、米も1回あたり2、3合、1日7食くらいフルで食べていました。もともと食べることが好きなので、意外と苦じゃなかったです。それでブクブクとむやみやたらに増量し、そこからウエイトトレーニングをしました。また、ジムは週7で通いました。

●カナヅチ克服で「人生観が変わった」

――実はカナヅチだったというのは本当ですか!?

はい。撮影に入るまでは、全く泳げなかったです。キャスティングされる際に「泳げなくても大丈夫。練習する時間があるから」と言われましたが、最初にプールに入った時、引かれました(苦笑)。僕以外のキャストは全員泳げたし、その時、全く前に進まない僕の平泳ぎを見て、ディレクター陣が顔を見合わせたそうです。

――カナヅチからスタートして、あそこまで仕上げるなんて、すごいことですね。

なぜ僕は泳げないのに、オファーを受けたのか? と言われるかもしれないし、正直、泳げる人をオリンピック選手役にしたほうがいいんじゃないかと言われたら、僕は何も言えません。でも、自分はできると思ったんです。鶴田選手も水泳を初めて3年でオリンピックに行ったそうで。もともと海軍にいたし、持って生まれた素質はあったかもしれませんが、僕は今回、大河ドラマに挑む上で、自分の可能性を知りたかったし、「やってやろう」という気持ちでは、誰にも負けないと思っていました。

――どのくらい水泳の特訓をされたのですか?

NHKで水泳練習の時間を用意してもらいましたが、その3倍は別途、個人レッスンを受けました。自分自身はできないことなんてないと信じていて、苦手意識というか、脳ができないと思っていることは、意外と体が解決してくれるんだなと、実感していきました。

――とはいえ、練習していく上で、心が折れそうになった瞬間はなかったのですか?

最初はずっと折れてました(苦笑)。本当にプールに行くのが嫌だったし、泳げないことが情けなくて。でも、やめること、降りることは許されない。それは、初めてフルマラソンを走った時と同じ感覚でした。歩きたいタイミングが山程ありますが、一度歩いてしまうと、自分の人生でも諦めてしまうんじゃないかと思って。とにかく、わずかな変化を信じるしかなかったです。実際、10日経ったら、かすかな自分の変化が見えてきました。

最初は泳いでも全然進まなかったんですけど、2カ月くらい前から進むようになり、みんなと競争できるまでになっていきました。最初は本当に水が恐くて、ゴーグルもない時代だったので、水中で目を開けることすら恐怖でした。飛び込みなんて超ヘタクソなので、最初は水にビンタされるような気持ちでしたし。でも、途中から飛び込みがちゃんとできるようになってきて、まるで上質の羽毛布団に入るかのような気持ちになれました。休日に水泳をしようなんていう選択肢はこれまでの人生になかったけど、今は泳ぐことが息抜きになったりします。まさに人生観が変わりました。

――猛特訓を経て、どんなことを思いましたか?

アスリートの方の苦労はこんなものじゃないんです。(女性初のメダリスト)人見絹枝さんも「ただでは日本に帰れない」と言っていましたが、そのプレッシャーは計り知れないし、本当にすごいと思いました。実際、自分の仕事のスタンスは、誰かを尊敬する心が後押ししてくれたりします。何事も0を1にした人間にはかなわないですし、少なくとも僕は、そういう方の役を演じるので、だからこそ、それ以上の熱量で挑むような気持ちではいました。

僕は、学生時代に、水泳もできないし、球技もできないと言っていたんですが、今なら、「1カ月くだされば、スタートラインは切れます」と言えます。そういう意味では、貴重な体験をさせてもらったなと。また、初めての大河ドラマ『平清盛』で中井貴一さんとご一緒させてもらった時「大河ドラマは、役者人生のターニングポイントに訪れる」と言われたことも大きかったです。

――当時、大東さんはおいくつでしたか?

僕は25歳でしたが、貴一さん自身も25歳で初めて大河ドラマ『武田信玄』に出たそうです。『平清盛』の時は、ちょうど貴一さんが50歳で「25年を経て、初めて大河ドラマに出るお前の親父役をやっているところがすごく感慨深い」という話をしていただきました。だから『いだてん』も、自分の役者人生のターニングポイントとして、ただ出演するだけではなく、意識的に、何か1本、旗を立てるような気持ちで臨みたいと思いました。

貴一さんは「大河ドラマは日本の歴史ロマンだ」とも言われていて、それを自分たちがかみしめて進める最高の舞台だとも思っているので、まさにそれを実感しながら、作品に携わらせてもらいました。本当に今回、自分と向き合った期間が、すごくいい経験になりました。

■プロフィール

大東駿介(だいとう・しゅんすけ)

1986年3月13日生まれ、大阪府出身。2005年、ドラマ『野ブタ。をプロデュース』(日本テレビ系)でデビュー以来、テレビドラマ、映画、舞台等で活躍。近年の出演作はテレビドラマ『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』(NHK)、特集ドラマ『マンゴーの樹の下で〜ルソン島、戦火の約束〜』(NHK)など。また、映画『108〜海馬五郎の復讐と冒険〜』(2019年10月25日公開)、ベルリン国際映画祭で観客賞と国際アートシアター連盟賞の2部門を受賞した『37 Seconds』(2020年公開)が控える。NHK大河ドラマは「平清盛」(12)、「花燃ゆ」(15)に出演。

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