かつて日本の高度経済成長を支えた集合住宅「団地」。無機質なデザインの建物が規則正しく建ち並び、昭和の面影を残すそのノスタルジックな姿に魅せられた、団地マニアが近年増加しています。

イギリスでは、地方自治体が運営する公共住宅を「カウンシル・エステート」といいます。そのデザインは、ヨーロッパらしいレンガ造りの低層団地から、テラスハウス、鉄筋コンクリートの高層団地まで様々。

そんな中でも、ロンドン中心部の金融街「シティ(City)」に隣接するマンモス団地「バービカン・エステート(Barbican Estate)」をご紹介します。

同地の特徴は何と言っても、ロンドンの景色の中でも異彩を放つ「ブルータリスト建築(またはブルータリズム、Brutalist/Brutalism architecture)」。

「粗暴な、荒々しい」などの意味を持つ「ブルータル(Brutal)」が語源のブルータリスト建築は、20世紀初頭のモダニスト建築からの流れで派生し、1950〜1960年代に流行した建築様式です。主に学校や市役所、文化施設など公共の建物に数多く取り入れられており、打放しコンクリートを多用し、荒々しさと重厚な威圧感を感じさせるデザインが特徴です。

ロンドンの行政区のひとつ「シティ・オブ・ロンドン」によって、シティで働く人々の住宅難を解消するための賃貸住宅として、1965年から1976年にかけて、第二次世界大戦で爆撃された35エーカー(東京ドーム約3個分)の敷地に建設されました。

1969年に正式にオープンして以降、賃貸住宅として需要に応えてきましたが、1980年代のマーガレット・サッチャー政権時代に状況が一変します。

当時サッチャー首相率いる保守党政権が打ち出した住宅改革「1980年住宅法」により、公共住宅を賃りている住人にその住居を「買う権利(Right to Buy)」が与えられると、ここバービカン・エステートも市場価格よりもかなりの安値で住民たちに売却されました。

ロンドンの中心部にありながらテニスコート、サッカー場、池、専用庭、駐車場を備え、今では高級集合住宅となったこの住宅を当時購入することができた人々は、かなり幸運だったと言えるでしょう。

1982年には、エステートの敷地内に複合文化施設「バービカン・センター(Barbican Centre)」が完成。劇場、映画館、アート・ギャラリー、学校、図書館、温室植物園「バービカン・コンサバトリー(Barbican Conservatory)」などの公共施設と、レストランやショップなどの商業施設が次々にオープンすると、この住居の不動産価値をさらに押し上げました。

劇場では「NINAGAWA・マクベス」をはじめとする日本の演劇も公演されており、バービカンの一角では、ストリート・アーティスト「バンクシー(Banksy)」の壁画を見ることもできます。

隣接する「ロンドン博物館(Museum of London)」。

団地マニアだけでなく、建築ファンやアート好きも虜にするバービカン・エステート。ロンドン旅行の訪問先に加えてみては?

住所:Barbican, London EC2Y 8BY
https://www.barbican.org.uk/

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