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「『ほら見たことか』と関係者は思ったはずですよ。昨年末、自衛隊の哨戒機が韓国海軍からレーダー照射を受けたことや、トランプ大統領の来日で海上警備が厳しくなり、“ブツ” の密輸が延期続きだったんです。

 だから今回、一気に3回分を密輸しようとしたら、案の定、捕まってしまった。1トンなんて、リスクが大きすぎたんです」

 覚醒剤密輸に詳しい関係者がそう話すのは、6月3日に静岡県南伊豆町の港で、小型船から過去最大量1トンの覚醒剤が押収された事件のこと。

 押収された1トンの覚醒剤は、2kgずつの袋で、約500個に小分けされていた。燃料用の携行缶やポリタンク、ペットボトルなども押収された。前出の関係者によれば、「船外機は通常4基。だが今回は覚醒剤が重すぎてガソリンを積めず、2基にした」という。

「もともと10年前から、台湾や香港の実業家が出資し、おもに台湾から日本へ密輸する『覚醒剤定期便』ルートを、日本の組織との間に作っていました。

 1回に約300kg、これを年に数回密輸してきたのです。出資者たちは摘発の危険を察知し、今回を最後にやめようと思っていました」(同前)

 押収された覚醒剤1トンの末端価格は約600億円といわれるが、別の関係者は「事前に日本側が払った覚醒剤の代金は2、3億円」と言う。密輸された覚醒剤暴力団の下部団体を通じて、全国に売りさばかれるため、末端価格は巨額になる。

 だが、この巨大密輸ビジネスを成立させるため、日本のヤクザたちは「リスク」を負わねばならないという。

「取引の際、組の幹部から若頭クラスを人質に差し出さなければいけないんです」(同前)

 組長が社長とすると、若頭は取締役、その他幹部はいわば課長級の中間管理職。

「人質は取引完了まで、台湾のホテルに軟禁される。豪華なホテルなので、不自由はないが、過去には取引が失敗して殺された人質もいた。下っ端ではダメ。ある程度のカネと格がある幹部でないと、相手が納得してくれない」(同前)

 今回は、警察の摘発によって「取引不成立」となったため、幸運にも(?)人質は解放されたとみられる。

“中間管理職” が命を張ってまで覚醒剤を手に入れるのは、いまのヤクザ社会では、覚醒剤が貴重な資金源だからだ。

「表向きは組織からも『“ヤク” の売買に関わってはいけない』と、お触れが出ているが、それではやっていけませんよ」(暴力団関係者)

 今回のように、覚醒剤が押収された場合はどうするのか。

「『損失の穴埋めに』と、代わりに大麻を送ってくることがある。これで費用を回収してくれ、ということだ」(同前)

 今では、暴力団も組織の維持に苦労を重ねている。

「暴排条例の改正で、『みかじめ料』はもう取れない。なかには近所のクリーニング店で、組員をバイトさせている組もある。それなのに40代後半になると、下の人間の面倒も見ないといけないし……」(同前)

 ヤクザも “中間管理職” は、つらいのかも。

(週刊FLASH 2019年7月9日号)