福田正博 フットボール原論

■FC東京の17歳、久保建英が日本代表に選ばれた。注目の集まる若手アタッカーについて、元日本代表FWの福田正博氏はどのような分析をしているのか。期待しているポイントとともに語ってもらった。

 久保建英がキリンチャレンジカップ、コパ・アメリカの日本代表メンバーに招集された。彼の今シーズンのプレーを見ていると、体格も年齢も上の選手たちのなかにいるにもかかわらず、遜色ないどころか存在感が際立っており、当然の選考だろう。


今季のFC東京で躍動している久保建英

 昨年までは、注目度は高いものの、選手としてはまだまだ発展途上にあることで、「久保君」と呼んでいた人が多いだろう。しかし、今年の活躍はもはや高校生ではなくプロ選手としての扱いをした方がいいと思えるもの。彼を「久保」と呼んでいる選手やメディアが増えた印象だ。

 なぜこれほどの成長を遂げているのか。その大きな要因がフィジカル強度の高まりにあると言っていいだろう。昨年までの久保は、すぐれた判断でプレーを選択しても、相手との体格差で潰されるケースも多く見られた。しかし、今季はパワーが増してフィジカルが成長していることで、彼が持っている技術の高さや判断力を、十全に発揮できるようになった。さらに、フィジカルのパワーが増したことで、スピードも活かせている。

 彼の成長曲線を見て思うのは、若年代のうちに徹底的に技術と判断力を高めていく重要さだ。若い年代からフィジカルを鍛えることを優先すると、同年代のなかでは体格の強さを武器にできても、大人になって体格差がなくなったときに選手として行き詰まってしまいかねない。それを回避するためにも、私の考えとしては、若年代のうちは技術と判断力を磨くことを優先していくべきと思っている。

 10代前半をバルセロナという最高の環境で技術力と判断力を高めてきた久保の最大の良さは、身につけたスキルをシチュエーションに応じて活用できること。ピッチ全体を俯瞰しているかのようにボールを持てることだ。

 ボールだけにフォーカスして、周囲の情報収集が不完全な選手は、判断が悪くなり、スキルを発揮することが難しくなる。その点久保は、周囲にフォーカスできたうえで、ボールを保持できている。つまり、久保はピッチ上の多くの情報を持ってプレーしていると言える。その情報量と高い技術力、判断力があるからこそ、多くの選択肢のなかから、最善のプレーをしている。そのため、ミスが少なく、パフォーマンスも上がっているのだ。

 今季初ゴールを決めた5月12日のジュビロ磐田戦でも、次元の違いを存分に見せていたが、ゴールを決めたシーンはその象徴だった。CKからの流れで、こぼれてきたボールに駆け込んでボレーシュートを決めたあのシーンで、久保はボールの落下地点を予測してすばやく動き始めると、ステップを小さく踏んで速度と距離を調整し、シュートの打てる位置に体を運んでいる。このシュートシーンに限らず、久保は「走る」「止まる」のタイミングが抜群にいい。

 久保にはドリブルという武器もあるが、「走る」「止まる」スキルの高さが活きている。モハメド・サラーやサディオ・マネ(ともにリバプール)のように、スピードを最大限に活かして勝負するドリブルではない。相手の体重移動を見ながら逆を突いていくドリブルであり、「ストップ・方向転換・ゴー」の連続で、相手を置き去りにする。ここでもフィジカルが高まったことで切れ味が増している。今後、相手をかわす瞬間などのスピードはさらに上がっていくはずだ。

 日本人選手が海外へ移籍すると、体格の違いによる間合いや歩幅の変化に適応するのに時間がかかるケースがある。しかし、バルセロナの下部組織でプレーしてきた彼には、さまざまな人種の選手たちとプレーしてきた実績がある。ほとんどの日本人選手があまり持っていない経験値があるため、相手の身長や歩幅を見ながら、自分の間合いにボールを置くことができていると言える。

 久保は相手ゴールへ斜めに切れ込んでいくドリブルをしながら、状況に応じてパスやシュートを打つが、Jリーグであのレベルのプレーをする選手はあまり見たことがない。ドリブルができて、パスも出せる選手は多いが、それに加えてゴールを決めるための攻撃に必要なものをすべて持っている。なにより、久保はまだ体力的に発展途上であって、発揮できていない才能をまだ多く秘めているように見える。

 着実に段階を踏みながら成長を続け、このままステップアップしていけば、遠からず彼が日本代表の主力になる日が来るだろう。システムによってポジションは変わるだろうが、個人的に久保にはトップ下でプレーしてもらいたいと考えている。数多くボールに触りながら、ゴール前で得点を取る能力が最も活きるからだ。

 ゴール前で必要な豊富なアイデアと工夫を久保は持っている。今季、FC東京の試合を多く見ているが、観客もそのことをわかっているからこそ、久保にボールが渡るとスタジアムの空気が一変し、期待感に包まれる。

 日本サッカーはW杯に出るのが夢だった時代から、W杯に出ることが当たり前の時代になり、いまでは日本人選手が海外のトップリーグでプレーすることが珍しくない時代になった。そうしたなかで、久保やレアル・マドリードの下部組織にいる中井卓大くん(15歳)のように育成年代から世界のトップクラブが注目する才能も生まれてきた。そして、彼らの世代が日本代表の主力になる頃、日本サッカーは次の新しい扉を開くことになるはずだ。その日がいまから楽しみでならない。