5月22日、ヴィッセル神戸はルヴァンカップのグループステージ最終節を名古屋グランパスと戦っている。結果は本拠地で1−3と敗れ、公式戦9連敗となった。プロクラブとしては、屈辱的な記録だ。


名古屋グランパスに敗れ、手で顔を覆う山口蛍らヴィッセル神戸イレブン

 名古屋戦の神戸は、受け身の戦いを選んでいる。人海戦術でしぶとく守って、速攻の機会を狙う。

「バルサ化」

 そんな理想をかなぐり捨てた、現実的な戦い方だった。

 序盤は名古屋の攻撃に押し込まれる。しかし、ピッチに立つ選手たちは奮闘を見せていた。後半の立ち上がり、セットプレーの流れから先制されたが、一度はブラジル人FWウェリントンの技巧的な一撃で追いついている。

 後半途中まで、神戸は互角の戦いを演じた。しかし自陣でのFKを取られ、シュートに持ち込まれると、一度はGKが弾くも、再び押し込まれた。さらに10分後、自陣内でのFKから豪快なボレーを叩き込まれている。

 これでルヴァンカップ敗退が決定した。それは神戸にとって何を意味するのか?

「リーグ戦に集中する? そんな発想は私にはないよ」

 3月のルヴァンカップ、敵地に乗り込んで迎えたグループステージ初戦。名古屋戦を前に、当時、神戸を率いていたフアン・マヌエル・リージョ監督は憤然と言い放った。

「プロとしては、勝負である限り、どんな試合でも勝つために最善を尽くす。それは、当たり前のことだ。我々はたしかにリーグ優勝を目指しているが、カップ戦でも頂点を狙う。負けていい試合なんて存在しない。それだけ質の高いトレーニングを、選手全員が日々積んでいる。その自負が私にはあるからね」

 ルヴァンカップを3試合終えた時点で、神戸は1勝2分けでグループ首位に立っていた。控え中心のメンバー構成だったが、勝負に対する執着が結果を生んでいたのかもしれない。指揮官の気迫は選手に伝わるものだ。

 もっとも、リージョは士気を高めるだけのモチベーターではなかった。勝つためのトレーニングを充実させていた。張りぼてのボールゲームを目指していたのではない。単純に、自分たちがボールを握ることが、勝つために有効だったのである。そのために、どのポジションを取って、どのタイミングで動き出すか、ディテールまでこだわった練習をしていた。

「ファンマ(リージョ)は細かくプレーを整理してくれるから、わかりやすい」と、多くの選手が心酔していた。

 昨シーズン途中、リージョが監督に就任して以来、選手の動きは明らかに変わっていった。

 たとえば古橋亨梧は、最も成長した選手のひとりだろう。スピードや決定力は以前から注目されていたが、それを生かすための準備動作ができるようになった。その成長を目の当たりにして、山口蛍、西大伍のような日本代表クラスの選手が、今シーズンは新天地に神戸を選んでいる。彼らの他にも、日本代表レベルで神戸移籍に興味を示した選手は1人や2人ではなかった。

「ファンマのもとでプレーしていたら、必ずサッカーがうまくなる、という実感があります。指導が熱いし、なにより納得できる。今までサッカーをしてきて、初めての経験です」

 控え選手までもが、口々にそう洩らしていた。もちろん、アンドレス・イニエスタという世界最高のMFがいた事実は大きかった。練習を一緒にするだけでも、多くの刺激が周りに伝播した。

 しかしそのイニエスタがいても、今の神戸は惨憺たる有様だ。

 リージョ監督時代は、すでに過去である。後戻りはできないし、前を向くべきだろう。ルヴァンカップの名古屋戦で、なりふり構わず戦い方を変えたのは、「勝つことが正義」というなかでの苦肉の策だった。

「前を向くためには、それぞれポイントがあると思う。集中して、取り組んでいくしかないと思う」

 Jリーグ第12節の横浜F・マリノス戦後、山口は言葉を探しながら、そう吐き出していた。

 クラブも組織として、改善を試みる必要があるのだろう。さもなければ、ルヴァンカップ敗退だけでは収まらない。リーグ戦も降格圏に近づいている。勝利は勝利を連鎖させ、敗北は敗北を連鎖させる。

 5月26日、15位の神戸は本拠地に9位の湘南ベルマーレを迎え撃つ。