なぜ同じ時間働いても、役員と平社員では成果に大差がつくのか。その秘密は睡眠にあった。会社では決して見せない役員の毎日の習慣が判明した!

■役員の4分の1は、ミスを犯す危険あり

「アンケート結果を見ると大多数の人が睡眠不足。しかもそれが蓄積され、大きな“睡眠負債”を抱えています。心身を病むリスクが高くなり、仕事や生活における活動の質を低下させてしまいます」

そう警鐘を鳴らすのは、睡眠に関する調査・研究・コンサルティングを行う睡眠評価研究機構代表・医学博士の白川修一郎氏だ。白川氏によると「理想の睡眠時間は7〜9時間。最低でも6時間は必要」。ところが、平日に7時間以上の睡眠をとれている人は、役員・平社員ともに15%程度。それどころか、5時間未満という人が役員で14%、平社員も16.7%いる(図1)。

「5時間未満の睡眠で十分という人は、ほとんどいません。交通事故発生リスクは、過去24時間における睡眠時間が7時間以上だった人に比べ、4〜5時間の人は約4倍以上、5〜6時間の人でも約2倍にまで高まります。睡眠不足が続き、睡眠負債を抱えている人なら、いつ事故を起こしてもおかしくないほどにリスクが高まります」

そうなると、役員や平社員が睡眠負債を抱えていれば、企業活動においても支障が出てきそうだ。

「役員、平社員ともに、判断ミス、オペレーションミスを起こしやすくなるでしょう。ミスを挽回するには多くの時間や手間、コストを費やします。企業経営を上向かせたい、効率化を図りたいと考えるなら、会社を挙げて睡眠負債解消への取り組みが欠かせないのです」

「昼間眠くなることはありますか?」の質問に対し、「ほぼ毎日」と答えたのは、役員25.2%、平社員35.2%(図5)。これも睡眠負債の蓄積を感じさせる結果だ。

「つまり役員の4分の1は責任判断をしてはいけない人たち。現場の平社員だって3分の1以上が、脳がちゃんと働いていない状態で仕事をしている可能性が高いです」

▼時間編
起床、残業、就寝……疲れをためない理想の時間は

■生活パターンを見直すだけで眠れる

平日の起床時間と就寝時間を「決めている」のは、平社員がそれぞれ88.9%、65.7%で、役員の79.4%、57.9%を上回っている(図1、図3)。

「今回の結果では、睡眠時間は、役員のほうが平社員より長くとれています。その要因としては、役員はスケジュール管理を自分の裁量で行える範囲が広いのに対し、平社員はスケジュールを自分でコントロールできないこと。また、役員より通勤時間がかかるところに住んでいることが考えられます」

たしかに、平社員のおよそ9割が起床時間を決めているのは、出社時間に縛られているからだろう。就寝時間は、残業や酒の付き合いなどによって流動的になることはあっても、朝は定刻通り出勤する律儀な姿が浮かんでくる。また通勤時間を見ると、役員は10分未満が32.7%、30分未満にまで広げると6割近くになる。これに対し平社員は10分未満が約2%にすぎず、1時間以上が23.1%もいる(図5)。当然、出勤時間が早く、通勤時間がかかる平社員のほうが、起床時間を早くせざるをえない。

気になるのは、役員も平社員も6割以上が「18時台までに退社」し(図7)、5割以上が「19時台までに夕食」をとっていると答えている点(図8)。これなら十分な睡眠時間を確保できるはずだ。

「役員の場合、夕食といっても取引先との会食で、実質的には残業である可能性もあります。最近多いのが『スマホやテレビを見たり、なんとなくダラダラと時間をすごしている』というタイプ。平社員はこれかもしれません」

そうなると、生活パターンを見直せば睡眠負債を返済できるという人は、かなりの数に上りそうだ。

「仕事が詰まっていない時期に、1週間だけでも毎日7〜9時間の睡眠をとることを中心に据えたスケジュールを立ててみてはいかがでしょうか。これを実践すれば、体調の改善や脳の働きの正常化により、短い労働時間でも仕事をこなせることに気づくはず。睡眠の大切さが身にしみます。睡眠薬などに頼らずとも、生活習慣を見直すことで睡眠時間を十分確保でき、睡眠の質も向上するのです」

ちなみに、「土日に寝だめをしたい」という人もいるだろう。ふだんより夜は1時間早く寝て、朝は1時間遅く起き、計2時間ほど多く睡眠をとる形であれば、体のリズムは崩れにくいそうだ。

▼入眠編
寝酒、読書、音楽……すっと眠れる方法は

■役員に多い寝酒は、何が問題なのか

役員の場合、“寝酒”をする人も多い。37.4%は就寝前1時間以内まで飲んでいる(図2)。

「お酒を飲むと、基本的に悪い睡眠しかとれません。夜中にトイレに起きる可能性が高くなります。また、自律神経が休めないので、朝になっても疲労回復しません。飲むなら寝る3時間前まで、日本酒なら1合までにしましょう」

就寝直前までスマホにかじりつくというのは、近年ならではの傾向だろう。平社員はテレビも含め、布団やベッドに入ってからも見ているのが、40.7%にも上る。役員ですら33.6%もいる(図3)。

「スマホは光を放つ画面に顔を近づけて見るうえ、集中しやすい。だから脳が興奮して寝付けなくなります。就寝1時間前にやめるだけでも、睡眠の質が改善します」

「よく眠るための工夫」として、役員は5人に1人が読書を挙げる(図4)。

「就寝1時間前までなら、勉強のための本や、頭をフル回転させるような内容の本を読むのに適しています。しかし、1時間前になったら、リラックスするため気楽に読める本が向いています」

▼起床編
カーテン、冷暖房……心地よく起きるひと工夫は

■なぜ役員は、寝起きがいいのか

役員の過半数は「すっきり起きられる」と答えている(図1)。

「温度の感受性が加齢とともに落ちてくるのと同様に、眠気の感受性も落ちます。役員は平均年齢が高めですので、寝不足であるにもかかわらず、すっきりした感じがしている可能性はあります」

心地よく起きるために「カーテンを開けて眠り、朝日を浴びるようにする」人が、役員・平社員ともに3割ほどいる(図2)。

「夏はやめましょう。早く目が覚めてしまいますし、日の出とともに室温が上がります。起床後に太陽の光を浴びるとよいでしょう」

起床後には、平社員の24.1%が「SNS」、役員の21.5%が「仕事」をしている(図3)。

「朝はポジティブに情報を整理できるというメリットがあります。就寝直前にその日の反省をしたり、次の仕事の予定を考えるという人は、一般に多くいます。しかし、夜は思考がネガティブになりやすいので向きません。ただし起床後1時間は“睡眠慣性”によって脳の働きが上がってきにくい。歯磨きや朝食、シャワーを優先させ、その後に行うといいでしょう」

▼習慣編
昼寝、外食、飲酒……続けてよい行動は

■なぜ役員のほうが、毎日実践するのか

「昼寝」は役員・平社員とも2割以上が毎日しており、約6割の人が生活に取り入れているようだ(図1)。

「日中眠い場合は、17時までに10〜15分程度の短時間仮眠をとるといいでしょう。家に帰ってからソファでテレビを見ながらウトウトするのは最悪。いざ本格的に眠ろうとしたときに、寝付きが悪くなるうえ、眠りが浅いので夜中に何度も目がさめ、それでまた日中に眠くなるという悪循環に陥ります」

読書についても平社員より役員のほうが習慣化している(図2)。

「幅広い教養がなければ役員になれないという証しでしょう。ただ役員は、5割以上が毎日外食をしていて(図3)、飲酒も6割以上が毎日(図4)。睡眠負債とあわせて考えると、体調は大丈夫なのかと、心配せざるをえません」

「運動」を習慣化しているのは平社員の半数未満に対し、役員は6割以上が行っている(図5)。

「いい睡眠には、適度な運動が必要です。ただし、起床後すぐに激しい運動をするのはNG。血圧が急激に上がり突然死を招いたり、自律神経が乱れたりしかねません」

▼寝具・環境編
枕、布団、かたさの好み……こだわりの有無は

■なぜ寝具は消耗品と考えるべきなのか

「寝具へのこだわり」は平社員より役員のほうがあるが、それでも17.8%にすぎない(図2)。

「質のいい睡眠をとるには自分に合った寝具にこだわりたいもの。毎日150円のペットボトル飲料を3年間買い続けたと考えれば、16万4250円。寝具は消耗品です。3年おきに見直しては」

枕や布団・ベッドは、役員のほうが「かたい」ものを好み、平社員のほうが「やわらかい」ものを好む傾向がある(図3、図4)。

「枕は夏用と冬用で使い分けてください。夏は頭を冷やすために通気性のいい枕。冬は肩と首を温めることを意識します。ベッドや布団のかたさの好みは、腰痛が影響しているかもしれません。やわらかいと気持ちがいいと感じますが、腰が沈み寝返りを打ちにくいので、腰痛を悪化させやすいからです」

夏場のエアコン利用については、平社員のほうが消極的だ(図5)。

「冬はエアコンなしでも、寝具でかなりカバーできます。しかし夏は、エアコンによる室温管理が最重要。寝室のエアコンこそ性能が一番高いものを選ぶべきですし、積極的に活用したいものです」

※調査概要:「会社役員」107人、「平社員」108人にインターネット調査を実施。調査期間は2018年7月18〜19日。

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白川修一郎
医学博士
睡眠評価研究機構代表、日本睡眠改善協議会理事長。睡眠研究のパイオニアとして知られる。著書に『命を縮める「睡眠負債」を解消する 科学的に正しい最速の方法』など。

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(小澤 啓司)