日常的にネットを使いこなしている若手世代は多いですが、社会人としての常識を踏まえたうえで活用できていると信じ込むのは早計かもしれません(写真:freeangle/PIXTA)

職場の社員に対して、「ネットリテラシー」をしっかり教育する必要性を語ってくれたのは、ある大手企業の管理部門に勤務するSさん。


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「休日やプライベートな時間帯であっても、社会人としての常識を踏まえたネット活用をしなければなりません」

さらにビジネスマナーを理解して、それに準じた行動にするために教育が必要と強調します。

背景には、Sさんの会社で起きた悪ふざけのSNS事件があるようです。プライべートの場面で、「●●社の社員だな」とプロフィールがわかる形で、度を超えた宴会の様子をアップした若手社員がいたのです。

ネットを使い慣れているはずなのになぜ?

メディアで取り上げられるまでにはならなかったものの、取引先から「お宅の社員が宴会の大騒ぎをSNSにアップしたみたいだけど、あまり望ましい行為とは思えないですね」と指摘を受け、社内でコンプライアンス委員会の議題にのることに。そして関係部署の管理職と該当社員が会社から懲罰を受けるまでになったのです。

この問題で懲罰を受けた管理職は「ネットを使い慣れている若手社員なのになぜ?」と驚いたようですが、実は、起こるべくして起きた事件ともいえるかもしれません。

確かに、若手世代は上の世代に比べれば日常的にネットを使いこなしているでしょう。かといって、社会人としてのマナー、常識もバッチリかというと、そうとは限りません。社会人の常識を踏まえたうえで、正しくネットを使いこなすというのは、そう簡単なことではないのです。

単にネットを使えることと、使う際に気を付けなければならないことを理解しているかは、別の話。だから、「社会人としての正しいネットの使い方」を知る教育は必要。そもそもビジネスにおける常識の理解度は低いと認識して、丁寧に教育することが必要なのかもしれません。

そんな、ネットを(ビジネスで)巧みに使いこなす能力=ネットリテラシーに注目が高まっています。ところが能力を高めるためには職場環境に問題もあるようです。それらの点についてみなさんと考えてみたいと思います。

自分が使うデバイスが支給されていない職場も多い

改めて、ネットリテラシーとは?インターネットを正しく使いこなすための知識や能力を指します。逆説的にいえば、ダメな使い方をしないノウハウを持つことともいえます。では、ダメな使い方とは何を指すのでしょうか。

・許可なく他人の写真をアップする
・守秘義務に関わる情報を公開する

などがとくにダメな例でしょう。社会人としての常識を理解していないままネットを使うと、個人情報の流出などにつながり、会社が被害を受ける場合もあることをしっかり理解すべきです。

すでに各社で大小の問題が起きているからなのか、ネットリテラシーを高める教育に取り組む会社が増えてきました。おそらくリテラシーは徐々に高まり、世間を騒がせる事件は少しずつ減っていくのではないでしょうか。

ただ、筆者には1つ、気になる課題があります。それは職場のネット環境です。仕事上でネットを活用するデバイスとして、スマートフォンがPCを超えるまでになりました。そのデバイスで個人所有のものしかない人が相当数いるのです。

筆者が社会人になった四半世紀以上前は、個別にPCやスマホが支給されるなんてありえない状況でした。ところが2000年を迎える頃にはPCが各自のデスクに置かれるようになりました。それと同時にソーシャルメディアが普及。公私でネットを使う機会が劇的に増えました。

ただ、現在においても職場で自分が使うデバイスが支給されておらず、個人所有のものだけ、という環境の職場が実は、相当あるのです。たとえば、店舗展開する飲食チェーンやサービス、小売業の職場。あるいは社外との連絡をメールで行うことを避ける傾向がある金融機関などもあてはまるかもしれません。

そのような状況だと、職場でアンケートを取りたいときにどうするか? 例えば、従業員満足度を調べたいとしましょう。筆者が前職に勤務していた10年以上前であればアンケートの帳票を社内便で各自に送付。それを受け取り、アンケートに記入して社内便で返送。ただ、返送しない人がたくさんいるので「早く返送してください」とプッシュの連絡を繰り返して回収率を100%にするため大変な労力をかけていました。

ところがネット環境が充実して、各自がメールでアンケートを送ることで回収が劇的に向上することになりました。このときにどのようにしてアンケートを見て、記入して送るのか? 会社のPCは職場には1台しかない。一般社員は活用することができない状況。ゆえに自分が所有するスマホで行うしかない会社が、驚くことにかなりあるのです。

おそらく普段は会社のデバイスでネットを活用する機会が少なく、会社支給のデバイスがなくても支障がないのかもしれません。

取材した飲食チェーンの若手社員は、入社数年経過していましたが、仕事でネットを活用したことは1回もないとのことでした。ただ、プライベートではスマホを頻繁に利用。SNSで友人とのキャンプや飲み会などのイベントをよくアップするようです。

スマホ所有率は高い一方、個人所有のPCは…

冒頭の事件のような写真をアップする常識知らずではないようですが、仕事でネットを使ったことがないと、不安を感じているようでした。店舗勤務でPCを使う業務報告は店長にならないと行えないとのこと。ただ、本社勤務になれば、PCを使って仕事をする機会が増えます。そのときに使いこなせるか?自信がないようでした。

ネットを当たり前に使う世代であっても、仕事上でネットを活用するのは、社会人になって初めてする経験です。経験と学びの機会がなければ、社会人としての常識を学べる機会が少ないといえるのではないでしょうか。

そもそも、デバイスについても、若者がどれでも使いこなせるとは限りません。若者のスマホ所有率は高い一方、個人で所有するPCは減少傾向にあり、若手社員のPCスキルが下がっているとの声を近年、よく聞くようになりました。

スマホで最初にネットに触れる「スマホネイティブ」世代からすれば、PCを使う機会が少なく、タイピングが遅い、PCであれば当たり前の件名に何も書かないので受信者を困らせる……などの状況が起きつつあるようです。

社会人として必要なネットリテラシーとスキルとは何か。“社会人として”ネットリテラシーの高い人材を育てるためには、仕事でネットを活用する機会を増やす、さらにデバイスを会社から支給することが大事かもしれません。