東京オリンピック・パラリンピックボランティア募集説明会での様子(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

東京オリンピック・パラリンピック組織委員会(組織委)と東京都は、大会期間中のボランティアの募集を9月26日13時から開始する。

発表によると、8万人の大会ボランティアを募集する組織委への応募登録期間は9月26日13時から12月上旬(締め切り日は後日発表)までで、先着順ではない。応募は特設サイトからのみとなる。

3万人の都市ボランティアを募集するのは東京都で、応募登録期間は9月26日〜12月5日。応募登録はサイトからだけではなく、郵送やFAXでも受け付ける。こちらも先着順ではなく選考を経て決定される。

登録後の流れなどについては、いずれも詳しくは組織委、東京都のボランティア募集に向けたサイトで告知している。

ちなみに大会期間は、オリンピックが2020年7月24日〜8月9日(開会式前から開始競技あり)、パラリンピックは2020年8月25日〜9月6日となっており、その前後も活動期間に入っている。

ボランティアの是非を議論する討論会が開催された

特に東京オリンピックのボランティアを巡っては、東京で一番暑い時期に開催されることもあって、大会ボランティア10日間以上、都市ボランティア5日間以上の活動日数や、有償か無償かの問題などで批判が出ている「賛否のオリ・パラボランティアに必要な対策」(2018年9月9日配信)。

募集開始を前にした9月17日に、東京・世田谷区の「本屋B&B」で面白い企画があった。


討論会での様子(筆者撮影)

ボランティアを是とする「東京オリンピックのボランティアになりたい人が読む本」(イカロス出版)の著者・西川千春氏と、東京オリンピックのボランティア活動に警鐘を鳴らす「ブラックボランティア」(角川新書)の著者・本間龍氏が討論会をするというので行ってみた。

東京オリンピック・パラリンピックでボランティアに参加しようかどうか、考えている方にとって参考になるかもしれない。

西川氏は経営コンサルタントとしてイギリスに在住していた2012年ロンドン大会で初めてボランティアに参加し、ソチ冬季、リオデジャネイロと3大会で通訳をしてきた。

東京オリンピック・パラリンピック・ボランティア検討委員会の委員でもある。日本選手の通訳をするなど身近に接してきた自身の3大会の体験を話した上で、ボランティアのよさをアピールした。

一方、否定的な立場の本間氏は2006年まで大手広告代理店博報堂に勤務し、現在は著述家。広告が政治や社会に与える影響やメディアの癒着などを追及する著書を出版している。

西川氏は「やりがいというのはやってみてわかること」と主張する。

「厳しい条件もあるのになぜやるかというと、1つは楽しみで、好きなイベントの当事者として参加できること。やりがいというのはやってみてわかることで、有償、無償の議論もあるが、金銭目的ではない。

あとは世界中の人と一緒に仕事ができて、いろいろな人、将来の友達になる人に出会える。得られた満足感、達成感がモチベーション。人生最高の2週間だと思っている」(西川氏)

それに対して本間氏は次のように訴える。

ボランティアを否定しているわけではない。いちばんひっかかるのは東京五輪が商業五輪であること。スポンサーはリオ大会までは1業種1社だったが、東京は(その制限を)取り払ったので52社ですよ。


本間氏(左)と西川氏(右)が討論を交わした(筆者撮影)

本来、警鐘を鳴らすべき新聞社までもスポンサーになっている。最大の商業イベントを運営するのに、なぜ無償のボランティアを使うのか。

ゴールドパートナー(に対しスポンサー料)150億円、オフィシャルパートナー60億円という金額を集めている(本間氏推定合計4200億円)。

窓口を独占している電通さんのマージン(取り分)は、800億円はあるでしょう。それでボランティアはタダですから。

ボランティアには無償という意味はない。タダと思わせようとしている。ボランティアの概念は非営利の原則、公共性とか。東京大会は非営利とは言えない。その構造のおかしさに口を挟まない。だからおかしい」(本間氏)

スポーツボランティアの暑さ対策も問題に

災害ボランティアなどの無償ボランティアには非営利、公共性というのは確かに存在する。有償ボランティアも多い。

今回の東京オリンピック・パラリンピックのボランティアはスポーツボランティアと呼ばれ、スポーツイベントをサポートするもの。ボランティアが活動している多くのスポーツイベントは、非営利ではないという点では同じだ。

本間氏は東京がいちばん暑い時期にオリンピックが行われることをやり玉に挙げる。「今年の夏は、ものすごく暑かった。予想気温35度以上だと熱中症の特別警報が出る中で、11万人の命を危険にさらそうとしている。それなのに、タダ。感動を売り物にした詐欺だと思っている」(本間氏)。

西川氏もその点は懸念をしている。「どうやって対処するか。今回の主力になるのはシニア層だと思います。1964年の思い出があって、時間もある。酷暑の中でどう安心してできるかが重要なこと」(西川氏)。

大会期間はすでに決定しており、もう動かせない。暑さ対策は今後の重要課題の1つになるのは間違いない。サマータイムの導入の検討もされているようだが、今のところ具体策は決まっていない。

ちなみに、参考までに国土交通省気象庁のHPで五輪期間中17日間と同じ日の2013年以降の最高気温(東京都千代田区)を調べてみた。13年は猛暑日(35度以上)0日、真夏日(30度以上)13日、夏日(25度以上)4日で、以下14年が5・11・1、15年が10・7・0、16年が1・11・5、17年が1・10・6、今年が4・9・4。

平均すると、猛暑日は3.5日。意外と少ないのだが、34度台も多いので猛暑日35度との違いはあるのか、アスファルトの上はどうかなど、実際の体感、印象とは異なるだろう。


本間氏は新たな搾取のシステムとなることを懸念

以下、少し長くなるが2人の討論の様子を紹介したい。

西川 : リオでも体調を崩した人がいました。そういう時は医務室ですぐ治療を受けられますし、(ボランティアの人向けの)保険に入っていますから還付されます。

本間 : 東京の夏はそんなレベルじゃないからバタバタ倒れて、10人でカバーしていたところを3人ぐらいになっちゃうかもしれない。日本人だから必死に働きますよ。次の日はその3人もいなくなっちゃう。

西川 : リオは場所によっては半分ぐらいしか来なかったところもあった。でも、困難の中でもお互い助け合ってやったんだな、と勉強になりました。

本間 : そもそも、(組織委の)責任者はだれか。酷暑の中で働くボランティアの命と健康を預かる責任者はだれか、どの組織か、教えてほしいというと回答は来ません。そしてスポンサー収入を明かさない、なぜ無償なのか。3回文書で質問しましたが、まともな返答は返ってこない。東京都は議事録すら開示しない。

開示請求したときの議事録は“のり弁“ですよ。誰が何を話しているか分からない。レガシーを残したいと言っていて、無償ボランティアでやろうとしている。今後あらゆるシーンで使っていく、国民からの新たな搾取システムです。

西川 : スポンサーからお金を集めているといっても労働提供もあるのであの数字(推定4200億円)ではない。(組織委は)オリンピック・パラリンピックを開催するにあたって、なぜやるのかを説明していない。ロンドンは子どもに夢を与える、イギリスのPRで観光客や投資を呼び込むといった明確な目的が5つあった。

ボランティアはアルバイトを採用しているわけではないから、お客さんという感覚で運営していかないといけない。交通費ぐらいは出してくださいと強固に主張したんですね。私の発言がのり弁かもしれませんが。もう少し透明性を持つべきと思っています。(組織委は)リーダーシップを取る人がいなくて、官僚的、出向的になっている。出向者意識は仕方ないが、プロとしてやってほしい。

※ ※ ※

組織委は9月18日、滞在先から活動場所への交通費として1日1000円を支給することを発表している。条件面では少し「待遇」がよくなった。確かに組織委、東京都は「なぜオリンピック・パラリンピックを開催するか」を明確に説明してきていないという西川氏の指摘は当たっている。いろいろな場面で発言などがあったのだろうが、まとめて都民、国民がいつでも見られるような形で提示していない。

ボランティアを募集する段階で今一度、組織委員会が開催の目的を示し、ボランティアに協力を求めるという姿勢があっていい。ボランティアを「ただで使う労働力」と考えていないことを鮮明にする必要があるだろう。こうした状況の中で、11万人のボランティアは集まるだろうか?

※ ※ ※

西川 : ​私は25万人以上(応募が)集まると思います。リオでは24万人のうち40%が海外からでした。東京ではどんなに間違っても海外から7〜8万人、場合によっては10万人以上の応募があるかもしれない。

本間 : ​それなら海外の方にやっていただけたら良いのではないですかね。

西川 : ​受け入れの準備が整わない。

本間 : ​足りなくなったら、スポンサー企業の枠を大きくして、関東近郊の公務員の出馬を仰ぐんじゃないですか。お金を儲けられた会社から動員をかけるんじゃないかなと。ボランティアが悪いと言っているのではなく、国のシステムが悪いといっている。有償でもいいのでは。

批判がある以上、さまざまな意見を取り入れる必要も

西川 : ​お金が目的じゃなく、やりたくてやっているから。それでボランティアがハッピーで運営がハッピーなら、きれいごとばかりじゃないからいいんじゃないかなと。ボランティア(が成り立つの)はそれなりの経済が基準に達した国なんですね。

本間 : ​滞りなくできちゃったことがレガシーということで残って、東京の時は(ボランティアは)タダだったという(既定方針にされる)のは阻止したい。五輪の本来の意義は素晴らしいと思っています。東京大会ではそれがズタズタになっている。大事なことは私たちの意見も聞いて選んでいただけたら素晴らしいと思います。

西川 : 重要なのはいろんな意見を聞く。思考停止になったら絶対だめです。なぜやりたい人がいるか、何が問題なのか、よく考えて、自分としてやりたいなら何を選べるのか、反対なら何が問題なのか考えるのが重要です。

ボランティアに参加するのは選手と同じと考えているのです。その中で一緒に共感できて感動できる、またとない機会は重要だと思います。

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不安材料を列挙する本間氏と、選択と体験の大切さを説く西川氏で、討論というよりは互いの考え、主張を出し合ったというのが筆者の印象だった。

言葉の強弱はあるが、2人に共通しているのは11万人を預かる組織委、東京都の姿勢、体制、オリンピック・パラリンピックへの考え方が具体的に見えていないことだ。

ボランティアの募集期間は12月まであるので、誰かが決断して誰もが納得できる形で示す必要がありそうだ。まだ間に合う。

(文中一部敬称略)