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GPS捜査をめぐる注目裁判の判決が8月30日、千葉地裁であった。裁判では、千葉県警が裁判所の令状を取得し、GPS端末を窃盗グループの車につけた捜査について違法性が争われていた。千葉地裁は判決で「今回の捜査においては、重大な違法性はない」とし、被告人に実刑を言い渡した。

千葉県警は2016年に裁判所から検証許可令状を取得してGPS捜査を行った。その後の2017年3月に令状のないGPS捜査を否定する最高裁判決が出された。そこで、最高裁判決前に行われた千葉県警のGPS捜査も、違法だとして証拠能力が否定されるのではないかが注目されていたのだ。

GPS捜査は警察にとって必要不可欠なものなのか。この判決はどう評価できるのか。元警察官僚で警視庁刑事の経験を有する澤井康生弁護士に聞いた。

●「古典的な尾行や張り込み捜査には限界がある」

「私も警視庁時代に尾行や張り込み捜査をしましたが、刑事ドラマのように都合よく犯罪現場に遭遇することはないですし、簡単ではありません。特に高度に組織化された犯罪集団は捜査を警戒していることから、尾行や張り込みは困難を極めます。

そのため捜査現場ではGPS捜査の有用性は高く、必要性があります。高度に組織化された犯罪集団に対して、古典的な尾行や張り込みで捜査することには限界があります。人員や捜査機材など限られた捜査予算の下では現実的な選択肢ではなくなってきています」  

しかし、最高裁判決(2017年)の判断もあった。この判決ではどう判断が示されたのか。

「最高裁判決はGPS捜査について(1)個人のプライバシーを侵害することから強制処分に当たり、令状がなければ行うことができない処分であること、(2)GPS捜査に対しては様々な条件を付す必要があり現行法下の令状では対応できないこと、(3)立法的な措置を講じるべきであること、と判示しました。

さらに補足意見では立法化されるまでの間、令状を得てGPS捜査を実施することは全く否定されるべきではないものの、ごく限られた極めて重大な捜査のため特別の事情の下での極めて慎重な判断が求められるとの判断を示したものです」

今回の千葉地裁は最高裁判決とに矛盾はないのか。

「千葉地裁は、最高裁判決に従いGPS捜査には違法の疑いがある(100%適法とはいえない)としつつも、(1)最高裁判決の前に実施されたものであること、(2)裁判所から検証許可令状を取得していること、(3)検証許可令状に記載された条件を遵守していること、からすれば千葉県警に令状主義を潜脱する意図がなかったことは明らかであり、『重大な』違法性があるとはいえないとしました」

●「極めてバランスの取れた妥当な判決」

今回の判決をどう評価できるのか。

「結論としては、捜査実務に配慮した極めてバランスの取れた妥当な判決だと考えています。最高裁判決が出る前はGPS捜査の違法性について裁判所の判断が統一されていない状態でした。

そのような状態で千葉県警は、後で違法と言われないように手を尽くしたと思います。裁判所から検証許可令状を取得した上で通信傍受令状の手続きにならい、通信会社の社員に事前に令状を呈示したり、事後的に被告人本人に対してもGPS捜査を告知したりするなど可能な限りの手続きを尽くしています。ここまでしている以上、重大な違法が認められないのは当然です。

しかし、この判決は一種の救済判決であり、今後も検証許可令状を得てGPS捜査を行うことを認めたものではありません。そのためにも早急にGPS捜査ができるよう立法的に解決する必要があると考えています」

(弁護士ドットコムニュース)

【取材協力弁護士】
澤井 康生(さわい・やすお)弁護士
元警察官僚、警視庁刑事を経て旧司法試験合格。弁護士でありながらMBAも取得し現在は企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士の資格も有し企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。現在、朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。東京、大阪に拠点を有する弁護士法人海星事務所のパートナー。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。
事務所名:弁護士法人海星事務所東京事務所
事務所URL:http://www.kaisei-gr.jp/partners.html