国道マニア・今田壮さんが選ぶ「国道の中の珍道・酷道ベスト3」


国道マニアの間で有名な「落ちたら死ぬ!!」看板(『国道の謎』より転載)

土屋:今日、今田さんには『国道の中の珍道・酷道ベスト3』を用意していただいています。まず第3位は?

今田:国道157号線です。ここは黄色い看板に赤い字で『落ちたら死ぬ!!』って書いてある道なんです。岐阜と福井を結ぶ国道で、岐阜の大垣から北上して、看板があるのは福井県との境目あたりなんですが、見晴らしのいいところに出ると、路肩にガードレールの類が一切ない。僕はこの道を『キング・オブ・過酷道』だと思っています。

土屋:県境は標高1020メートル。ずいぶん高いところを通る道ですね。
高いところを登る場合、道はウネウネするものじゃないですか。この国道157号線は地図で確認すると割とまっすぐです。

今田:スッと一気に登れます。それから157号線のすぐ隣の西側にある国道417号線。この道は岐阜と福井の県境にある冠山というところで道が切れているんです。僕は157号線も好きなんですけど、417号線も好き。地図上で見ると冠山の南側に水が溜まっている所が徳山ダムで、ここで国道が切れていました。

元々は徳山村という村が丸ごとダムに沈んだことで有名な場所なんです。僕が見に行った時にはダムにしている最中で、小学校の建物がまだ見えて、その光景の最果て感、秘境感にハマって車中泊で2日ほど滞在しました。

土屋:じゃあ417号線はもともと道があったのに、ダムが出来たためにそこで終わっているということですか?

今田:国道としては、ダムが出来る以前から断念していましたね。

土屋:こういう断念した線のことを何というんです?電車の場合、盲腸線って言いますが。

今田:道路の場合は点線国道と言います。国道はリアルに繋がっていなくても、なんらかの移動手段で繋がっていれば、地図の上では点線で表して、理論上、繋がっていることになっているんです。

土屋:157号線は「落ちたら死ぬ」みたいなところと言いますが、この記事を読んだ人がフラッと行ってもいいレベルの道ですか?危険度を5つ星でいうと?

今田:5です!全国でも過酷な道ベスト3に入ると思います。

土屋:ここはチョモランマ、いつかは走りたいという『酷道』なんですね。じゃあ国道の中の珍道・酷道の第2位は?

今田:国道121号線です。ここはやたら重複している国道です。

地図上で121号線は日光から会津若松に向かって南北に伸びています。地図上の表示では121号線としか書いていませんが、よく見ると東から400号線が入ってきたり、289号線、118号線も入ってきて道がランデブーするんです。そしてまた分かれていく。重なったり逃げたりが続くのが面白いんです。

国道を示す逆三角形の青い看板『おにぎり』が2つになったり、3つ並ぶこともあるんです。その変化を見ているだけでもめちゃくちゃ楽しい。


土屋:今、このビルから見下ろす新宿駅もそうですね。いろんな線が集まって、また離れていく。同じ線路を使ってんの!?って。そういうの、僕も大好物です。121号線は最大何個くらい重複してます?

今田:8個だったと思います。ただ表示が必ず出ているものではないので、意外に埋もれていたりします。

土屋:原理的には8つだけど、標識が表示されているのは少ない。

今田:国道121号線絡みだと、確認できている範囲では3つです。全部重なっているのは福島と栃木の県境に近い、南会津辺りの区間です。

土屋:121号線と重なる352号線はどこに抜けていますか?

今田:国道352号線は新潟の柏崎が起点です。地図上は国道400号線しか表示されていませんが、352号線は福島県内で121号線と合流して南下したあと、400号線に重なるんです。

そのあと352号線は、また121号線に乗り移って日光の南、栃木県の鹿沼まで行くと、今度は293号線に乗り移って終点の上三川町まで行くんです。もう、あっちこっちで乗っ取りまくっているんです!

土屋:寄生虫みたい。

今田:よく言えば隠れキャラみたいなものですね。「お前、いたんだー」という感じです。

土屋:そういうことがわかってから現地を走るのが醍醐味。国道にキャラ付けしていくんですね。「お前はおてんばだなー」「尻軽ですぐ乗っかりやがって」と。擬人化していくと楽しいかもしれない。国道121号線は危険度でいうと?

今田:2くらい。ちょっとロングドライブになってしまいますが。

土屋:では国道の中の珍道・酷道の第1位は?

青崩峠の不通区間今後も開通の見通しがない(『国道の謎』より転載)

今田:国道152号線です。ここは長野と静岡との県境にある難所・青崩峠で一旦切れている道で、僕が最初に国道を意識した道です。また古くから青崩峠を境にして『秋葉街道』とも呼ばれていて、長野から天竜川に沿って南に下って行くと浜松に出るルート、塩の道として古代から使われてきた道です。

この街道は歴史好きにとっては心ときめく道で、武田信玄が死ぬ直前に通った峠だと言われています。信玄は三河の徳川家康を攻めるために出陣して青崩峠を通り、戦地で体調を崩して撤退する道中で亡くなります。

黒澤明監督の映画『影武者』で描かれた世界ですが、死んだことは伏せたまま、武田軍は再びこの青崩峠を通って本拠地の甲府に戻っていく。そんな舞台となった峠です。

さらにこの国道は、国道の土木技術と中央構造線の破砕帯という大自然との戦いもわかる、そういう魅力のある国道でもあります。

意外にも走りやすい道がある蛇胴林道(『国道の謎』より転載)

土屋:道の切れ目、終点というのは何か哀愁を感じますよね。僕の好きな京急電鉄の場合でも「おい、本当にここまでだったのか、三崎口?本当は油壺まで行きたかったんじゃないのか?」「いや、これでいいんだ」「意地張ってんじゃないよ」って。

今田:擬人化して「わかるよ」って言ってあげたくなる気持ちは分かります。