ゼネコンの株主総会に垣間見た「謝罪の流儀」
6月26日に開催された大林組の株主総会。出席株主は556人と、前年から176人増加。所要時間は1時間40分で、昨年の31分から1時間以上も長くなった(記者撮影)
「株主の皆様に多大なご心配をおかけしておりますこと、心から深くお詫び申し上げます」――。
目の前の株主に深々と頭を下げたのは、大林組の蓮輪賢治社長。だが心なしか、会場には穏やかな雰囲気が漂っていたという。
無風だった大林組の株主総会
リニア中央新幹線をめぐる談合疑惑に揺れた大手ゼネコン4社。6月26日に大林組と鹿島、6月28日に大成建設と清水建設の株主総会が開催された。昨年12月の公正取引委員会による立ち入り検査や今年3月の東京地検特捜部による起訴を経て、騒動後初の株主総会となった。
株主にとっての関心は、経営陣の監督責任だけでない。立ち入り検査や起訴を受け、国土交通省やほぼすべての都道府県、さらに市町村が4社に対して指名停止処分を下した。一部では入札の辞退や契約済みの工事の解除も相次ぐなど、どこまで余波が及ぶかも見通せない。そんな状況を受け、株主がどんな反応を示すのかが注目されていた。
ここまで明暗が分かれた株主総会も珍しい。6月26日、東京・品川に構える大林組本社で行われた株主総会は、結論から言えば「無風」だった。冒頭で蓮輪社長が謝罪こそしたものの、声を荒らげる株主も、質疑応答で経営陣の責任を問いただす株主もいなかった。肝心の質疑応答では、株主還元や社外取締役の意義、役員への女性の登用、海外展開の見通しなど、建設業以外でも話題に上りそうな内容ばかりが続いた。
大林組の蓮輪賢治社長にとっては、今回の株主総会がデビュー戦となった(撮影:梅谷秀司)
大林組は4社の中で最も火消し対応が徹底していた。事件発覚から1カ月後の今年1月下旬には当時の白石達社長が辞任を発表し、3月には起訴を受けて社長以下役員らが報酬の返上を表明。さらに5月には同業他社から「やりすぎだ」と揶揄されるほど厳格な再発防止策を策定した。総会参加後、ある男性株主は「再発防止策を粛々とやってくれればいい」と答えた。
足元の業績も、株主にとって満足の行く水準に達している。前2018年3月期は売上高、営業利益が過去最高。受注済みだが完工していない工事(繰り越し工事)の残高も1.7兆円と、直近の単体売上高の約1.5倍にも上る。蓮輪社長も株主からの質問に対して「(リニア談合の)業績への影響はない」と関西弁交じりの口調で言い切った。もともと施工キャパシティはいっぱいで、一時的に公共工事から締め出されても業績への影響は限定的という見方だ。
荒れ模様だった大成建設の総会
新社長のデビュー戦となった株主総会だが、大林組は目立ったトラブルもなく無事に乗り切った。同じく清水建設も冒頭で談合疑惑に関する謝罪をしたが、談合疑惑に関する質問はほとんどなく、ことさらに波風も立たず幕を閉じた。
ところが、2日後の28日に新宿の本社で行われた大成建設の株主総会は、打って変わって不穏な空気に包まれた。
大成建設の株主総会が開かれたのは6月28日。出席株主は260人と前回より47人減った。所要時間は1時間48分と昨年より23分長かった(記者撮影)
「(社長が)引責辞任をした社もある中で、(大成は)お詫びだけで済ますのか」「大林組は冒頭で役員全員が頭を下げた。(大成はそれをせず)話を聞いていても全く反省の色が見えない」「裁判で負けたらどれだけの損害が出るのか」「再発防止策の具体的な内容は」。株主からは談合疑惑に関する手厳しい質問が相次ぐ。その勢いは、事業展開に関する質問をしようとした株主が「コンプライアンス(に関する質問)とは外れて申し訳ないのですが……」と萎縮してしまうほどだ。
談合疑惑について、大成建設は大林組とは異なる経緯をたどった。「しっかりと社内で検証し、弁護士とも相談した結果、独占禁止法違反にあたらないと判断した」(大成建設の村田誉之社長)からだ。
大成建設の村田誉之社長は、株主からの批判を受けて頭を下げた(撮影:田所千代美)
今年3月には顧問の逮捕について「到底承服いたしかねる」と強く反発し、「言うべきことは裁判で主張していく」(大成建設関係者)。反省の色が見えないと言われても、大成建設からすればそもそも法律違反をしていないのだから、何を反省するのかというスタンスなのだろう。
とはいえ、株主からの怒濤の質問に、とうとう村田社長も「嫌疑を受けた(結果、世間をお騒がせした)ことについては反省しております。申し訳ありませんでした」と頭を下げる羽目になった。
問われる不祥事の後始末
平身低頭に振る舞い株主総会を無風で終えた大林組と、自社の主張を貫いた結果、冒頭から紛糾した大成建設。株主に対する姿勢として、どちらが正しかったのか。
株主総会を平穏裏に終えることは、必ずしも株主が納得していることを意味しない。大林組の株主総会に参加した女性は「また(談合は)起こりますよ」と語る。夫婦で参加したという株主も「表に出ないだけで、どこもやっている」とバッサリ。厳格な再発防止策についても「結局同じことの繰り返し。建設業はそれ(談合)抜きにはやっていけないさ」と、あきらめにも似た感情をにじませた。
他方で、自社の主張を曲げない大成建設の姿勢には理解を示す株主もいる。鹿島と大成建設の株主総会に参加した男性は「正しいと思うなら、真実を裁判で明らかにしてほしい。謝罪がなくても問題だとは思わない」と、無理に謝罪する必要はないとした。大成建設の総会に参加した女性株主は「しっかり検討した結果、違反でないという結論に達したなら、それでいいのでは」と話す。「厳しいことを言う人もいたけど、それだけ会社によくなってほしいということ」(同)。実際、質問の中で「大成ファンとして」事件に関する懸念を表明する株主もいた。
株主との対話に、謝罪はどこまで必要か。株主総会の活性化が取りざたされる中、株主に対する謝罪の流儀ももっと議論されていいはずだ。