6失点惨敗で「なでしこ崩壊の危機」に、ベテラン2人が立ち上がった
やはり最終ラインの2人の存在は大きかった。キャプテンマークを巻いた熊谷紗希(オリンピック・リヨン)、左サイドバックに入った宇津木瑠美(シアトル・レイン)は、最終ラインから大声を張り上げ、躊躇なく相手を削り、ロングフィードで味方のポジションを引っ張り上げた。ベテランだからこそ、チームの方向性を決め、その責を背負って戦っていた。
後半に得点を決めた宇津木瑠美(左)とキャプテンを務めた熊谷紗希
初戦の6失点という大敗は否応なしに、なでしこたちを岐路に立たせた。ピッチに立っていた選手だけでなく、もちろんベンチから惨劇を見ているしかなかったこの2人も同様だ。
「これが現実。決して手を抜いてるわけじゃないし、一生懸命やってない人なんていない。ただ……言われたことだけやって、結局指示を元に判断していると(世界相手だと)ああなるんです」と悲痛な面持ちで話していたのは熊谷。
若手選手にのびのびとプレーしてもらいたいと、雰囲気作りには人一倍気を使ってきた。常に若手の言葉にも耳を傾けて彼女たちの想いも理解しているからこそ、悔しいのは”全力”の使い方が違って見えたことだ。
「あれだけスライドして走って追って……、なのに全くボールに触れないなんて、こんな悲しいことはない」(熊谷)
この力をどう生かすか――選手全員で映像を見ながら、改めて根本から見直した。”自己で判断し自由自在にプレーする”ことを理想としてきたこの2年間を覆すわけじゃない。自由度を上げるための”決めごと”が必要だったのだ。熊谷が重要視したのは守備のスタイルではなく、”ボールにいく”という現実的な一歩に立ち返ることだった。
大敗のあと、知らぬうちにベンチからの指示待ちに傾きかけていた戦い方を、ピッチ主導のあるべき姿に矯正する。この2戦目で黒星を喫すれば初戦を上回る傷を負うことになる。吉と出るか、凶と出るか。自分たちの決めた戦い方を貫いて結果を出さなければ、チームが空中分解してしまう。決して負けられない試合だった。
開始直後、不安は一蹴された。ボランチの隅田凛(日テレ・ベレーザ)以外のメンバーを一新して臨んだ立ち上がり。アイスランドを自陣に貼り付けにする。前線も前からプレスをかけ、それに連動して中盤と最終ラインが押し上げ、自然とコンパクトな守備が形成されていく。パスミスからパワープレーに走られそうになるのをこらえたのはボランチの隅田、猶本光(なおもと ひかる/浦和レッズL)の2人だ。
周りのカバーリングの意識も高い中で生まれたのは、15分の菅澤優衣香(浦和レッズL)の先制ゴールだった。熊谷からの縦パスをフリーで受けた清水梨紗(日テレ・ベレーザ)が中を見ると、目が合ったのは菅澤。迷いなく鋭いクロスを相手DFとGKの間へ入れる。懸命に走る菅澤が空中で目一杯に足を伸ばしてピタリと合わせた。
「チームでずっと練習してきた形。GKも見えていて、打つまでに余裕がありました」(菅澤)
そこには、立ち上がりのファーストコンタクトで相手の力を嗅ぎ取っていたからこその勝算があった。
守備が安定したことで攻撃にリズムが生まれた。右サイドでは清水が幾度もオーバーラップから好機を作り、増矢理花(INAC神戸)もサイドから中へ切り込みフィニッシュを伺う。後半には横山久美(フランクフルト)から岩渕真奈(INAC神戸)のワンツーのコンビネーションで決定機を迎える。これはGKの好セーブに阻まれたが、ようやく見えた楽しそうなコンビネーションだった。
ところが圧倒的に攻め込んでいた日本が一瞬沈黙したのが、74分のセットプレーからの失点だった。ゴール前の混戦から、こぼれ出たボールを決められてしまう。
ドローで終わっては意味がない日本。最後に試合を決めたのはベテランの宇津木だった。
途中出場の中島依美(INAC神戸)と長谷川唯(日テレ・ベレーザ)のショートコーナーからの展開は練習通り。そのクロスに宇津木は相手DF2人に挟まれた状態で崩れながらも、頭で押し込んだ。
宇津木が、「ああいうゴールで勝ってきた試合もたくさんある。キレイなゴールでなくても1点は1点だっていう気持ちをなでしこの選手たちが忘れたら得点は遠くなると思います」と話すように、”なでしこらしい”泥臭さ満載のゴールは、今のなでしこジャパンに必要なものだ。
宇津木にとっても、想いのこもった90分だった。ずっと日の丸を背負う意味を問い続けてきた。16歳からなでしこ入りし、彼女の成長はなでしこジャパンとともにあったと言ってもいい。だからこそ、伝えなければいけないこともある。
「1得点や1失点っていう勝負にこだわれなくなってしまったら、もっと見えなくなってしまうこともあるんじゃないかなって。今までのなでしこの選手たちが培ってきたものを出さなきゃいけないなっていうのが一番にあった」
試合中に大きな展開をつくる彼女からのロングフィードは、まさに宇津木そのものだった。自分の殻を打ち破るために海外へ渡り、展開力に磨きをかけた。周りのスピードを生かすため、必然的にパススピードは上がり飛距離も伸びた。この日も時折強引なまでに逆サイドの奥を突くパスを送る。相手に、そして何より味方に「ここも使うぞ!」という強烈なメッセージが伝わってくるフィードの数々だった。
もちろん、格下であるアイスランドに対し、30本近いシュートを浴びせながらも2得点にとどまったことは褒められたことではない。攻撃に偏りが生じがちなところや、フィニッシュの精度など突っ込みどころは数多(あまた)ある。ただ、多くのものを背負って戦ったこの試合だけは結果を評価したい。
第3戦はヨーロッパ2位のデンマーク。アイスランドほど自由にプレーはさせてもらえるはずもない。まだ固まったばかりのサッカーの強度はどんなものか。これから、なでしこたちが歩む道が示される試合になるだろう。
◆6失点って、マジか? なでしこジャパンの守備崩壊を食い止めるには
◆新生なでしこで、宇津木瑠美が願うこと。「もう一度、あの熱い思いを」