最多は月19回!「遅延の多い路線」ランキング
JR中央・総武線各駅停車(三鷹―千葉間)は2016年度、首都圏を走る鉄道45路線のうち、1カ月(平日20日間)当たりの遅延証明書発行日数が最も多い路線となった(写真:tarousite/PIXTA)
2017年12月22日、国土交通省が鉄道に関してある発表を行った。リニア中央新幹線建設工事の談合疑惑、東海道・山陽新幹線の台車亀裂など大きなニュースの陰に隠れ、メディアで取り上げられることはほとんどなかったが、首都圏で電車通勤するビジネスパーソンにとっては見逃せないニュースだ。
遅延の「見える化」を開始――。国交省は2017年度から首都圏の各鉄道事業者の遅延証明書の発行状況、遅延の発生原因、遅延対策の取り組みなどについて数値やグラフを使ってわかりやすく示していくという。
今回の発表では、2016年度について1カ月(平日20日間)当たりの遅延証明書の発行日数がデータとして記載されている。遅延証明書の発行ルールは、JR東日本(東日本旅客鉄道)では「午前7時〜11時の間に、おおむね5分以上遅れた」場合に発行するとしている。首都圏におけるほかの鉄道事業者もすべて5分以上の遅延で発行するとしている。つまり、遅延証明書の発行状況を調べることにより、5分以上の遅れがあった日がどのくらいあるかを確認することができる。
5分以上の遅延ワースト1位はJR中央・総武線各駅停車
そこで、首都圏を走る45路線について遅延証明書の発行日数の多い順に並べてみた。1位はJR中央・総武線各駅停車(三鷹―千葉間)の19.1日という結果になった。平日20日間当たり19.1日、つまりほぼ毎日、遅延が発生しているということになる。
2位はJR宇都宮線・高崎線(上野―那須塩原・神保原間)と東京メトロ千代田線の18.4日、4位はJR中央快速線・中央本線(東京―甲府間)の18.3日、5位はJR横須賀線・総武快速線(大船―東京―稲毛間)、JR埼京線・川越線(大崎―新宿―武蔵高萩間)および小田急線の17.9日。8位はJR東海道線(東京―湯河原間)、JR京浜東北線・根岸線(大宮―大船間)の17.4日、10位はJR常磐線各駅停車(綾瀬―取手間)の16.8日という結果になった。
11位以下の主な路線を見ると、東京メトロ東西線が11位で16.4日、東急田園都市線が25位で11.8日、西武池袋線が26位で11.7日、京急線(品川―横浜間)が36位で7.1日といった状況だ。遅延証明書の発行日数が10日を超えたのは45路線中、29路線。つまり、月の平日の半分以上で遅延している路線は全体の3分の2近くになる。「定時運行」は世界に誇る日本の鉄道の強みのはずだが、こと朝の時間帯に関してはまったく当てはまらないという状況が浮き彫りになった。
ランキングからいくつかの特徴が見える。上位10路線のうち8路線がJR東日本の路線だ。湘南新宿ラインのように東海道線の遅れが高崎線に波及するといったものや、複数の路線が並走する区間の場合、1つのトラブルが複数の路線に影響を及ぼしかねないといったことが理由として考えられる。
小田急線は2016年度の遅延ランキングで5位となった。複々線化完了に伴う今年3月の大幅なダイヤ改正で不名誉を挽回できるか(写真:HAYABUSA/PIXTA)
JR東日本はATOS(東京圏輸送管理システム)の導入線区拡大、ホームドアの整備拡大といったハード面の取り組みのほか、整列乗車を呼び掛けるポスターの掲出などのソフト対策も行っているが、この状況を見る限り効果が出ているとは言いがたい。
小田急線は2015年度に14位、2016年度に5位と遅延が悪化した。だが、30年近い年月をかけて進めてきた複々線化が完了し、今年3月のダイヤ改正による本数増やスピードアップで遅延も減ることが期待される。小田急線に乗り入れている東京メトロ千代田線(ランキング2位)の遅延も減るかもしれない。
相互直通運転が遅延を拡大か
一方で、遅延日数の少ない路線を見ると、45位は東武野田線の1.4日、44位は東急多摩川線の1.9日、43位は京王井の頭線の3.9日、42位は相鉄線4.2日、41位は東武東上線の4.8日という結果になった。42〜45位は基本的には他路線との相互直通運転をしていない。この結果を見る限り、首都圏各路線の相互直通運転が遅延を拡大しているという見方は正しそうだ。
国交省は、遅延時間が30分を超えたケースの日数も発表している。こちらも多い順に並べてみた。
1位はJR埼京線・川越線(大崎―新宿―武蔵高萩間)の3.5日、2位はJR宇都宮線・高崎線(上野―那須塩原・神保原間)の2.5日、3位はJR東海道線(東京―湯河原間)とJR横須賀線・総武快速線(大船―東京―稲毛間)の2.1日、5位はJR中央・総武線各駅停車(三鷹―千葉間)の1.7日、6位はJR中央快速線・中央本線(東京―甲府間)の1.6日、7位はJR常磐快速線・常磐線(上野―羽島間)、JR武蔵野線(府中本町―西船橋間)、JR京葉線の1.2日、10位はJR京浜東北線・根岸線(大宮―大船間)の1.0日という結果になった。トップ10すべてがJRの路線であり、特に1位のJR埼京線は30分を超える遅れが月に3回以上もあるという現実には驚かされる。
車両・電気設備の故障も大幅遅延の原因に
国交省の調べでは、10分未満の遅延の主な原因は、乗車時間の超過、ドア再開閉、急病人の発生といった部外原因が94%を占める。車両故障や電気設備の故障といった部内原因は6%しかない。一方で、30分以上の遅延の原因については、自殺、線路立ち入りなど部外原因が68%。係員の取り扱いミスや車両・電気設備の故障といった部内原因は23%という結果となった。自殺や線路立ち入りが発生すると安全確認などで運転再開に時間を要するのと同時に、車両や電気設備の故障も長時間の遅延につながりやすいということだ。
朝夕ラッシュ時の混雑問題については古くから国交省も認識を示していたが、遅延問題について真剣に議論されたのは最近になってからだ。いささか遅きに失した感はあるが、遅延を「見える化」することで、各鉄道事業者はこれまで以上に遅延対策に本腰を入れるはずだ。今回と同じタイミングなら年末にも発表される2017年度の遅延ランキングはどのような結果になっているだろうか。