「100円稼ぐのに10万円も掛かる路線」がある
備後落合駅(広島県庄原市)に停車するJR西日本・芸備線の列車。同駅―東城間の1日平均通過人員はなんと9人だ(写真:ワン太郎 / PIXTA)
前回記事(JR東日本の新幹線「一番稼げる」のはどこか)では、JR北海道とJR東日本の2社について、営業係数を試算した結果を紹介した。今回はその続編として、JR東海とJR西日本の2社についての試算をお目にかける。
100円の収入を上げるために要した費用を示す指標である営業係数は、JR各社全体の数値までは公表されたデータから導き出せる。さらに各路線の営業係数を試算するには、収入と費用とを一定の考え方によって分配すればよい。収入、費用とも、輸送規模によって変動する項目を旅客人キロの比で、路線が存在するだけで生じる固定的な項目を営業キロの比でそれぞれ分配した結果、各路線の営業係数の推測値が得られる。
近年、一部のJR旅客会社は各路線の営業状況について、より詳しい数値の公表を行うようになった。JR東海を除くJR旅客会社5社からは詳細な旅客輸送密度が発表されており、さらにJR北海道を除く4社からは路線ごとの旅客運輸収入も示されている。そこで今回は、JR東海については『鉄道統計年報』の2014年度の数値、JR西日本については2016年度の数値を使用し、それぞれ5年前の数値と比較することとした。
東海道新幹線が稼ぎの9割
■JR東海
東海道新幹線の旅客運輸収入が2014年度で1兆1434億円と、JR東海全体の1兆2432億円の実に91.97%を占めるため、営業係数の算出に当たっては他社とは異なる方法を採用せざるを得ない。減価償却費や一般管理費など固定費に分類される費用を営業キロの比で分配すると、東海道新幹線の営業係数は40未満、他の路線は皆150以上と極端な数値が得られる。
このため、固定費は新幹線91.97対在来線9.25の比で分配し、在来線各線の数値は減価償却費の場合は営業キロの比、減価償却費以外の費用の場合は旅客人キロの比でさらに分配して営業係数を試算した。
いま挙げた特例によって、何とか他社並みの営業係数が得られた在来線は何かと肩身が狭い。そのようななかにあって、86.9の東海道線、90.6の中央線、101.0の関西線の3路線の好調ぶりは特筆される。
3路線の列車の多くは名古屋駅を発着するという点が共通しており、東海道線では岡崎―大垣間、中央線では土岐市―名古屋間、関西線では名古屋―河原田間と、名古屋駅を中心とする半径40km以内を指す中京交通圏に含まれる区間のデータが公表されていれば、さらに良好な営業係数を挙げたであろう。
武豊線は黒字化できるか?
営業係数は177.3とはいえ、武豊線の成長ぶりも目を引く。旅客運輸密度が1万人を超えれば営業利益を計上する路線への変貌も可能と思われるのだが、いかがであろうか。『平成26年版都市交通年報』(運輸総合研究所、2017年6月)によると、残念ながら武豊線の輸送人員は2010年度の706万人をピークに減っており、最新の統計年度の2012年度には698万人となってしまった。
再度増加に向かうのか、このまま減少を続けるかで試算される営業係数も今後変わってくるであろう。
■JR西日本
各路線の旅客運輸収入を公表したことでJR西日本の営業係数もより精度が高く、そしてより残酷な数値となった。同社の場合、同じ路線内でも区間によって旅客輸送密度が極端に異なるケースが多く、路線ごとというよりも区間ごとで明暗が分かれるケースが目につく点も特徴の1つだ。
営業係数が最も良好な路線は47.2を記録した北陸新幹線とは意外かもしれない。JR西日本の北陸新幹線の区間における平均乗車キロがわからないものの、北海道新幹線同様に非常に利用効率が高いものと推測される。
在来線で最もよい営業係数を記録したのは61.7の桜島線(JRゆめ咲線)で、以下68.1の大阪環状線、70.6の北陸線、76.4の湖西線と続く。JR西日本で営業係数が100未満の路線はほかに8路線あり、合わせて12路線が存在する。新幹線は山陽新幹線、そして実質的に新幹線である博多南線とすべてが該当するのは順当だ。一方、在来線の場合、大阪駅を中心とした半径50km以内の京阪神交通圏内の路線ばかりが該当するかというとそうでもない。主要なところでは東海道線や山陽線の営業係数は100を上回り、代わりに湖西線や本四備讃線が100未満を記録している。
西日本も経営は新幹線が頼り
JR西日本は2016年度に1208億円の営業利益を計上した。うち、営業係数が100未満の13路線で2541億円を上げ、新幹線だけで88%に当たる2239億円、特に山陽新幹線だけで2004億円と、新幹線頼みの経営を行っている内情がよくわかる。裏を返せば京阪神交通圏での経営基盤が弱いことの表れで、JR東日本に比べると旅客輸送密度の極端に低い路線を維持していく余地は小さい。
営業係数の最もよくない路線は9133.4を記録した三江線で、2018年4月1日の営業廃止が決定済みだ。試算では45億円の営業損失を計上しており、59人という旅客輸送密度を考えても残念ながら営業廃止は妥当であろう。
区間別に見ていくと、営業係数の最低値は芸備線東城―備後落合間25.8kmの10万6801.9である。千の位の営業係数すらまれであるのに10万以上という数値はもはや天文学的な数値と言うほかなく、ひとえにわずか9人という旅客輸送密度がもたらしたものだ。仮に旅客の平均乗車キロが25.8kmの半分の12.9kmであったとすると、輸送人員は年間6589人、1日当たり18人となる。
ほかにも芸備線では、備中神代―東城間が1万1942.4、備後落合―三次間が4353.6、三次―狩留家(かるが)間が780.4と営業係数は極めてよくない。にもかかわらず、全体では650.3を記録しているのは狩留家―広島間の旅客輸送密度が9306人と大都市圏の通勤路線と言える数値であるからで、同区間だけならば営業係数は188.2と推測される。これほど大きな差異が生じる路線も珍しい。