羽生結弦と宇野昌磨、平昌オリンピックで金銀メダルを獲得する「3つの根拠」
フィギュア界の絶対王者・羽生結弦の'17 -'18 シーズンが幕を開けた。今季は'18年2月に開幕する平昌冬季オリンピックを控え、66年ぶり2人目の“五輪連覇”に挑む。
その初戦はカナダのモントリオールで行われたオータム・クラシック。GPシリーズの第1戦ロシア杯(10月20日開幕)の前哨戦とはいえ、今季を占う大切な一戦だ。
「ショートプログラム(SP)は右ひざの違和感のため、4回転ループをサルコウに変更。でも、ミスのない完璧な滑りでした」(スポーツ紙記者)
ジャンプの出来栄え点(GOE)はほぼ満点。構成を落としながらも、112・72点でSP世界最高を更新した。
「羽生選手は現地での練習で右ひざに軽い違和感を覚えて、ブライアン・オーサーコーチの指示で4回転ループを封印。彼の見立ては、ずばり練習疲れ。確かに五輪連覇の偉業に向け、練習の質も量も例年以上です。8月30日の報道陣向けの公開練習も抜群の動きでしたよ」(同スポーツ紙記者)
フィギュアスケート解説者の佐野稔氏も、
「今シーズンの羽生くんの仕上がりのよさは、公開練習からもすごく伝わってきた」
と、状態のよさを認める。
ただ、4回転ループ封印の羽生に比べて、若武者の宇野昌磨は初戦のロンバルディア杯で、実戦で初めて4回転サルコウを決めたばかりか、5本の4回転ジャンプをすべて華麗に着氷。
SPの104・87点だけでなく、フリーでも214・97点の自己ベストをマークし、トータル319・84点の圧巻パフォーマンスで2連覇を達成した。
ライバルたちも4回転を次々に成功させている
「とにかく今回は4回転サルコウの成功が大きい。4回転ループこそ、もう少しという印象でしたが、4種類の4回転をきっちり決めて319点を叩き出した事実がすごいことです。宇野くんの強みは、新しいジャンプを次々に習得している点であり、非常に大きなアドバンテージを得たと思いますね」(佐野氏)
宇野だけでなく、米国のネイサン・チェンもまた、あっという間に5種類の4回転を成功させている。羽生は基礎点の高いルッツやフリップを実践の武器に加えず、今季もトゥーループ、サルコウ、ループで挑むという。不安はないのだろうか。
「まったく心配ない。宇野くんの319点を見て、羽生くんも黙っちゃいないでしょう(笑)。彼はきっちりと3種類の4回転ジャンプの精度を上げてきています。
ひとつひとつのジャンプの出来栄え点をどれだけとれるか、完成度の高いプログラムを作ってきている。'15年のGPファイナルでは、2種類の4回転ジャンプをSP2本、フリーで3本決めて、世界最高得点330・43をマークしている。出来栄えと技術ではほかを圧倒しているんです」(佐野氏)
確かに羽生を追いかける若手が4回転の種類や数を増やしても、超えるどころか肉薄できない現実。逆に、彼が五輪用に用意する今季のプログラムでは4回転は3種類で、SPとフリーで7本を予定し、フリーの基礎点は当時より約10点アップ。演技後半に4回転コンビネーションを2本入れてくる点に注目が集まる。
「後半のコンビネーションは基礎点が1・1倍になるので重要ですが、体力的にはすごくしんどい。だから苦しい練習を積んできたと思う。五輪連覇を狙う男としては、やらなくてはいけないことだし、そのカッコいいことが実に似合うよね(笑)」(佐野氏)
追いかける宇野昌磨の成長ぶり
常に高みに挑み続ける羽生。その背中を見続けてきた宇野も、パフォーマンスを一気に跳ね上げている。
「昌磨は“ユヅくんがいるから追いかける気持ちでいられる”って、常に話していますよ。どんなに高得点をとってもチャレンジャーでいられるし、また、ファンからのプレッシャーを感じないですむのも、羽生くんという“絶対王者”が身近にいるからでしょうね」(スケート連盟関係者)
宇野の成長ぶりには、辛口の佐野氏の頬も緩む。
「宇野くんが改善すべきところ? ないですね(笑)。それくらい、いい! 試合後のコメントを聞いていても、非常に自分自身を冷静に見つめている。自己分析も鋭いし、明確です。世界歴代2位の319点にも満足せず“ちょっとばらばらだ”と、先のことをしっかりと見つめていた。やはり羽生くんから学んだんだと思います。身近に金メダリストというお手本がいることは大きいですよ」
練習の虫で、研究熱心なところも、2人の共通項だ。
「宇野選手のスケート靴のブレード(刃)は、ほかの選手と違って、左足はトゥーループのためにかなり内側についており、逆に右足はループが抜けないようにすごく外側につけているんですよ。常識では考えられないことなんですが、4回転を成功させるためにこんな工夫もしているんです」(フィギュア関係者)
若き挑戦者が着々と追ってくる中、絶対王者もまた、熱い気持ちをたぎらせる。
「羽生選手は'15年の世界最高得点のイメージを持って五輪に臨みたいようです。だからこそ、その当時のSP『バラード1番』、フリーは野村萬斎が演じた映画『陰陽師』の劇中曲『SEIMEI』の再演を決めた。
“新鮮味がない”といった意見もある中、慣れるまでの過程を省けることによって演技を成熟、つまり完成度にこだわった。鼓や笛の音が溶け込む和風調で、'15年当時も欧米のジャッジの反応を危惧する声があったが、思いのほか好評価だったので、満を持して勝負の年に持ってきたのでしょう」(スポーツライター)
そのこだわりこそが羽生らしさなのかもしれない。それは過去の『ゆづ語録』からも見てとれる。ソチオリンピックの帰国会見で、日本人像について聞かれたときは、
「日本的な文化の素晴らしさを再認識しています。日本国民として恥ずかしくないか、日本人として胸を張っていられるのか、それが一番大事なのではないかと思います」
また、故郷の東北に対する思いについては、
「被災地のことだけは忘れないでほしいと思います。その思いを伝えるためにもスケートをしています。スケートをやっていて本当によかったと思える瞬間です」
と、熱く語ったこともあった。『SEIMEI』を再び演じることについては、佐野氏も太鼓判を押す。
「僕は大賛成ですよ。衣装も和風な感じだけに海外のジャッジも含め、見ている外国の方々がエキゾチックに感じるでしょうからね。この曲を滑れるのは彼しかいない」
宇野もまた、フリーの『トゥーランドット』は再演だ。しかし、その表現力こそが五輪までの課題だという。
「本人も反省し“プログラムがつながっていない”と語っていたが『トゥーランドット』はもっと点数を積み上げられる楽曲です。
ジャンプとジャンプの間のトランディションと呼ばれる部分や演技に関しては、まだ伸びしろはある。羽生くんの最大のライバルは宇野くんですよ。申し訳ないですが平昌の金と銀は日本がいただきますよ!」(佐野氏)
慣れ親しんだ楽曲での新プログラム、テクニックの完成度、そしてフィギュアスケートへの情熱。この3つがそろったからこそ、メダルへの期待は膨らむばかりだ。