世界には貧困や治安、経済不況などの問題を抱える地域に対してさまざまな支援の形を取る団体が存在するが、その中の一つに、サッカーのグラウンドをつくることでその地域の社会的な課題の解決に取り組んでいるNGO団体がある。その名もlove.fútbol。彼らは、ただグラウンドを作って提供するという従来の形ではなく、企画から施工、完成までの0から100の工程すべてをその地域の人に携わってもらうためのプロジェクトを提案するという新しい手法を取っている。その日本支部であるlove.fútbol Japanの代表を務める加藤遼也氏に、love.fútbolの今とこれからについて話を伺った。

-love.fútbolの活動を教えて下さい。

love.fútbolは、「サッカーが好きなすべての子どもが安全にサッカーできるグラウンドをつくる」ことを目指し、町の問題を解決するサッカーグラウンドづくりに取り組んでいます。

私たちサッカー好きの日本人の中にも、ブラジルに代表されるストリートサッカーを見て、『こういう場所でサッカーをしたい』と思うことがありますが、実際にはストリートサッカーをしている最中に子どもたちが交通事故でなくなってしまうことがあります。元ブラジル代表のマイコンやミシェル・バストスの兄弟もストリートサッカー中に交通事故で亡くなったと聞いています。団体の代表Drewがそうした現実を目の当たりにして、サッカーが好きな子どもたちが安全にサッカーできる環境を作りたい、と立ち上がり、love.fútbolは始まりました。現在は、アメリカ人とブラジル人の共同代表2人と、アメリカ、ブラジル、ウルグアイ、日本に10人のスタッフが働いています。

国際開発や国連にもSport for Development and Peaceと呼ばれるスポーツを通じた開発と平和構築を促進するという分野があります。その分野で活動する団体を2種類に分けると、スポーツを教育プログラムとして使用することで貧困や教育の課題解決をしているソフト支援の団体と、スポーツファシリティ、いわゆるハード施設をつくる団体に分かれます。ハードの方は世界で10団体あるかないかくらいの少なさなのですが、love.fútbolはそのハード側に位置します。どんなスポーツもソフト支援の団体もスポーツをする場所がないと成り立たないので、業界的にもニーズは強いです。ただ、グラウンドをつくるには当然のことながら費用が掛かるので、1グラウンドあたり約1000万円の比較的低コストでつくるlove.fútbolは際立った存在です。

私たちが安全にサッカーできる場所づくりと同じくらい大切にしているのが、人の居場所や繋がりをつくることです。love.fútbolはサッカーグラウンドを与えるだけの団体ではありません。代表のDrewがよく言う言葉が2つあります。1つは、「サッカーグラウンドは彼らへのプレゼントではない」ということ。もう1つは、「町のみんなが主役」だということ。

私たちは「Community-driven Development」という貧困地域の人たちが主役となる独自の手法を使ってコミュニティ開発に取り組み、安全な場所をつくるという本題とともに、グラウンドづくりを通じて人と社会の希薄な関係に「繋がり」をつくることを重要視しています。途上国では生活面も教育面も恵まれないゆえに自分の価値・居場所を見つけることに悩む子ども、若者がたくさんいます。その結果、否応なしにギャングに入り、薬物や犯罪と関わってしまう子も少なくありません。

グラウンドをつくるプロセスに様々な工夫をすることで、町の人たちに「どこかに所属している感」や「誰かに頼られている感」を通して、自己肯定感、つまり「自分を大切にする気持ち」を育み、人としての成長とコミュニティの成長支援に取り組んでいます。

そうした方法で、これまでグアテマラ、ブラジル、アルゼンチン、メキシコの4か国で計24個のグラウンドを作り、25,000人以上の子どもたちに安全にサッカーできる場所を届けています。

また、最近のプロジェクトでは、グラウンドの活用も工夫しています。スポーツを教育プログラムとして提供する地元のNPOと連携して、完成したグラウンドで、ライフスキル、ビジネススキルを磨くプログラムを実施することで、子どもや若者の就学、就職のサポートをしています。

つまり、私たちはグラウンドをサッカーする以上の場所として見ています。

サッカーグラウンドやフットサルコートを建てる時や使用する時に、人の居場所や繋がりをつくる、その町の魅力を伸ばす、町の社会課題を解決していくような「フットボールグラウンドの文化」を示していく組織になりたいと思っています。

-グラウンドをつくるお金はどこから出ているんでしょうか?

主に3種類あるのですが、個人の寄付者、助成金と企業です。企業は、これまでアメリカのスポーツチャンネルのESPN、シティグループ、コカコーラ、アンダーアーマー、ユニリーバが支援をしてくれています。基本的には1つのプロジェクトに対して1企業という形です。支援いただく企業には、町の人たちの作業ユニホームやグラウンドでの企業ロゴ掲載いただくだけでなく、社員の方々にも町の人たちと一緒にグラウンドづくりに参加いただいています。

-日本の企業がスポンサーとして入ることはあるのでしょうか?

まだありません。ただ、話し合い途中ではありますが、あるスポーツブランドが一緒にやろうと声をかけくれたりしています。

個人的には、後々、スポーツチーム、企業スポンサー、NGOの連携が立体的に絡んでくると思っています。本田圭佑さんがオーナーを務めるSVホルンでは、胸にスポンサー企業ではなく国連の掲げている世界目標が入ることになりました。同様に、例えば、ユニホームに1日だけ普段は企業のスポンサーロゴが入っている胸の部分に企業が支援しているNGOの名前が入るなんてことはブラジルで実現していますし、日本でもサッカークラブ、企業、“love.fútbol”の3社の関係が発展させたいですね。

 

 

 

 

-加藤さんはlove.fútbolにいつから参加されているのでしょうか。

私が参加したのは2012年です。もともと学生のときにスペインでサッカーライター目指して翻訳や通訳をしていました。当時は、伝えることに興味があり、特に海外のサッカー界で己の努力で道を切り拓いて活動する日本人のことを伝えていきたいという思いがあり、新卒で出版社に入りました。その後、若気のいたりもあり、情報分析のコンサルに転職するものの、もう一度サッカー界で挑戦しようと色々探して出会ったのが、「サッカーを通じて世界各地の社会問題を解決する仕事」でした。まずは現場の勉強とネットワークづくりに南アフリカへ行き、子どもたちがHIVや薬物のリスクに近づかない、もしくはそのリスクに影響受けた子どもたちを社会復帰させるというサッカーの教育プログラムを開発・実施しました。その後、今度は先進国におけるサッカーの使い方を勉強するためアメリカに行きました。そこで、love.fútbolと知り合いました。彼らの活動に感動し、日本からも協力させて欲しいと何度かプレゼンし、正規スタッフになりました。

-もともと日本に支部はあったのでしょうか?

なかったです。love.fútbolを日本でも伝えたいと思った理由は、グラウンドづくりプロジェクトの持続性でした。南アフリカにいる時に、Change Mind & Behaviorという方法論でサッカープログラムをつくりました。夢や目標を具体的に持つことで、するべきこととしてはいけないことを自ら理解していくという、行動と意識を変えるコンセプトをベースにサッカーを教育プログラム化したものです。ただ、途中で団体の方針によってそのプログラムを提供できなくなったんです。その時、子どもたちの気持ちを考えたらすごく怖くなったんです。途中でプログラムを打ち切ったことで、ただでさえ社会や大人に不信感のある子どもたちが、また大人に裏切られたという感情を持ったのではと考えたらすごく怖かった。その失敗から、活動をするのであれば、継続性や持続性をきちんと考えないと子どもたちのプラスにならないということを学びました。だから、ただグラウンド作って提供するのではなく、地域の人にグラウンドをつくってもらうことで、その地域の持続的発展につなげるというlove.fútbolの活動はすごく心に響きました。love.fútbolの考え方や方法論を日本にも広げていきたいと思い、2012年に帰国して最初はメディアでの情報発信、2013年後半から一緒にやりたいという仲間が集まりイベントや寄付を集める活動をしています。

-日本で実際に活動は行う予定はあるのでしょうか?

今すぐにでも、love.fútbolの手法で日本にもグラウンドをみんなで作りたいという思いがあります。その一環として、子どもたちの居場所となるサッカーグラウンドの作り方を学び・実践する講座を準備しているところです。そもそもサッカーグラウンドやフットサルグラウンドをつくる時の面白いノウハウって世間に出ていませんし、これからの社会や町に必要とされるサッカーグラウンドでどんなだろうって考えると、ただボールを蹴るだけの場所ではないんですよね。だから、グラウンドをつくるにあたっての必要な手順、法律、マネタイズなどの基礎的なことから、地域とのつながりの作り方や社会課題を改善するためのプロジェクトデザインなどをその分野の専門家を講師に招いて座学と実践の場をつくり、新しく建てるグラウンドだけでなく今すでにあるグラウンドをより社会性のある場所にしていくことを進めていければと思っています。その参加者として、グラウンドオーナーや、土地を持っている地主さんたちには絶対来て欲しいですね(笑)

-6月10日、11日に開催される「ソトアソビフェスタ」に参加さないますが、そこではどういった取り組みを行うのでしょうか?

南アフリカで子どもたちに教えてもらった方法でサッカーボールをつくる、「サッカーボールづくり」ワークショップをやります。彼らにとってサッカーボールはすごく高価で、ほとんどの子どもが持っていないので新聞紙とビニール袋でつくる方法を知っているんです。

ワークショップでも最終的にできるものはボールなのですが、その過程で生まれる子どもたち同士や、親子間でのコミュニケーションがすごい面白い。子どもたちの新たな一面の発見もありますよ。

元々、このワークショップを始めた理由は、子どもにも大人にもオフザピッチの個性を大事にして欲しいという思いがあります。特に子どもの頃のサッカーは上手い子が強い世界だから、下手な子は居心地が悪かったり、自信を持てなかったりします。でもサッカーは大好き。サッカーの技術はなくても、実はものすごく手先が器用でボール作りがうまかったりする子もいます。子どもたちがそうやってサッカーの技術以外の才能や人間性をお互い認めあえると、グラウンドに行くことがもっと楽しくなってサッカーを思い切り楽しめると思うので、ぜひたくさんの子どもたちにボールづくりに来て欲しいですね。

今回はチャリティー方式で、参加者1人につき400円が寄付されて中南米のグラウンドづくりに活用されます、目指すは、100人とボールをつくること!グラウンド1つ建てるのにおおよそ1,000万円として、その250分の1グラウンドづくりをみんなで一緒に目指します。

当日はlove.fútbol の活動を紹介する資料なども配布します。実はエルナネス、ダビド・ルイス、ウィリアン、ロマーリオら、かなりすごい選手たちに応援頂いています。そういった部分も知ってもらいたいですね。

-今後もこういったイベントをやっていきたいという思いはありますか?

ボールづくりに加えて、グラウンドづくりを体験するイベントですね。2015年に静岡県のトウモロコシ畑で子どもたち100人と実施した時は、すごく盛り上がって、子どもも大人も誰もが楽しみました。

あとは、やはり日本でlove.futbolの手法でフットボールグランドをつくること。町の人たちやグランドづくりに興味ある人たちが日本全国から集まって、みんなで一緒に手作りでグランドつくって、サッカーできることはもちろん、人と社会が繋がれて、子どもからおじいちゃん、おばあちゃんまでの居場所になるグラウンドです。さらには、頑張っている子どもたちを応援する拠点を目指します。例えば、日本にも子どもの貧困は存在していて、部活をやりたくてもユニホームやスパイク買えない子たちもいて、でも親に負担かけないように勉強とか頑張っています。だから、大人がこのグランドにサッカーしに来ることで、子どもたちを取り巻く課題を知り、且つ、頑張っている子どもたちの支援につながる場所になったら最高じゃないですか。このグランドをきっかけに日本でlove.futbolを広げ、「フットボールグラウンドの文化」をたくさんの人たちと一緒につくっていくのは一つの夢ですね。