野球ゲームの先駆者!30年愛されるファミスタの作り方と企画者の想い。
野球好きの特に男性であれば、誰しも一度は野球ゲームをプレーしたことがあるだろう。自分で作ったチームや選手を使って友達と対戦させて、楽しんだ経験を持つ人も多いはずだ。
そんな野球ゲームの中で今最も長く愛され続けているシリーズが「ファミスタ」だ。1986年の第1作に始まり、時代の流れとともにハードを変えながら、50タイトル以上を発売し続けている。シリーズ累計販売数は1,500万本を超える、野球ゲームのパイオニアである。
今回そのファミスタの30周年記念タイトルとなる「プロ野球 ファミスタ クライマックス」が発売されるということで、最新作の注目ポイントとともに実際に野球ゲームはどうやってできるのか、をプロデューサーである森口拓真氏に伺ってきた。
制作開始は1年半前。選手の移籍動向に固唾を呑む
ファミスタの場合は発売の1年半前から準備して開発していきます。一方でよく皆さんが耳にする大作RPGになると3〜4年以上前から進めているものもあります。
ファミスタの場合はプロ野球が盛り上がっているうちに発売したいということもあって、スピード感を重視して進めてきました。
制作に関わっているのは100人ほどですね。実際のゲーム開発に携わるプログラマーやグラフィック、サウンドエンジニアは半分くらい、その他にプロ野球12球団、さらにプロ野球フランチャイズ球場にもご協力をいただいています。それに加えて、今回は(※)名球会や女子プロ野球も公式ライセンスにて許諾いただいていますので、そういったライセンス周りの方も多くいらっしゃるということです。
作る上では一番初めにゲームの根幹の部分となる、どういうモードを入れるかなどを考えながら、新シーズンに向けてどの選手を収録するかを考えていきます。まずはそのシーズンも在籍しているであろう選手からチェックをしていきます。逆に来年は移籍してしまいそうな選手は保留にしておき、11〜12月頃の移籍動向を見て、あとはドラフトや助っ人外国人枠を埋めていく感じです。その頃になると、先行して開発してしまっているので、「もう作ってしまっているから移籍しないでくれ!」と思っています(笑)
あとはユニフォームのデザイン変更についてもゲーム内への反映が必要になるので、数が多くないか、デザイン内容は複雑ではないかとヒヤヒヤしていました。
※名球会:日本プロ野球でプレーをし、通算2000本安打、200勝、250セーブを記録した選手、OBからなる組織。野球の普及発展活動を行っている。
今作には女子プロ野球選手も野球ゲーム史上初として収録しているのですが、収録が決まると、特にtwitterをはじめとしたSNS上で喜んでくれている方がたくさんいて、濃いファンの方はもちろんのこと、“隠れ女子野球ファン”の存在が見えてきました。リアクションとしては球団マスコットの収録について同じくらい多かったので、今後の爆発に期待したいですね。この反響を受けて、女子プロ野球選手の新選手追加を今後のアップデートで配信していく話も出ています。
発売の時期についてはリアルなプロ野球のシーズンに沿って進化するソフトにしたいというのがありました。開幕後のこの時期に発売することにより新戦力でがっつり活躍した選手をゲームに入れ込めるメリットがあります。シーズンの進み方に合わせてファミスタもアップデートできるというのがあるので、それを試したいということで春発売にしました。世界大会で野球の注目度が上がっているだろうという期待もありましたね。
女子選手やマスコットの能力はどうやって決める?
選手の能力についてはプロ野球選手のデータ関連に強い、データスタジアムさんが一次制作をして、その後に弊社で調整しています。よくプロ野球ゲームの選手能力は担当者の好みで選手の強さが変わると言われますが、それは絶対にないです(笑)。公平に判断しています。
女子選手については男子基準で能力を入れてしまうと差が大きくなってしまうので、そこは強めにしており、女子選手の中で能力がどうか、という視点で設定しています。ただ、球の速さまで脚色してしまうとリアリティに欠けてしまうので、そこはそのまま再現しています。でも、そもそもファミスタは球が速ければ勝てるゲームではなくて、遅ければそれだけ曲げられるのである意味利点になり得ると思います。
今回は球団マスコットも選手として起用できるのですが、最初その話を球団にお話した時には、前代未聞の内容であるので、判断が難しいという感触でした。権利の問題や、キャラクターの世界観など、そういったものに配慮をした上で、許諾を頂くことができたわけですが、今度はパラメータをどうするか、という話になります。
何となく皆さんもベイスターズのD.Bスターマンは足が遅そう、ホークスのハリーホークはパワーがありそう、とかイメージがあると思うのですが、そのイメージをはっきりと数値化するという作業はなかなか難しく、最後まで球団の方と悩みながらパラメータを並べて、少しずつ調整していきました。あとは右打ちなのか、左打ちなのか、投げ方はどうするのか、といったところを詰めていきました。
ファミスタが愛され続ける理由
年代別でファミスタユーザーを見ていくと第1位が40歳以降の男性、第2位が小学生となっています。ファミスタが懐かしい、他の野球タイトルはプレーが難しい、という層に遊んでもらっていることになります。
その中で40代の、特に43歳の割合が高くなっています。40代の方というのは1986年に初代ファミスタが出た時に小学生だった世代の人なんです。その方々が30年越しでずっとファミスタで遊んでくれているわけです。かつ、そのお子さんがちょうど今小学生くらいになってきているので、親子で楽しんでもらえるようになってきています。
ファミスタの特徴として、手軽に簡単に、短い時間で楽しめるという面があります。実際野球ゲームをプレーする層に話を聞くと、「寝る前に10分だけやりたい」というニーズが非常に多いんです。例えば一日の終わりに贔屓のチームを使ってライバル球団を倒して、スカッとした気分で寝たいという声ですね。今のテクノロジーを使えば要素や演出をたくさん増やして、試合を長引かせることはできるんです。でもファミスタはシンプルさに重きを置いているので、サクサクプレーできる。そういう意味で競合タイトルとの差別化というのはできているかな、と感じています。
新しいものと古いものをどう一緒にしていくか、今後のファミスタが進化するための、永遠のテーマです。基本的にゲームを普段やらない人が難しいと思うものは作らないことにしています。その簡単さのレベルは担保しながらも、プロ野球が好きな人にも満足してもらえるものにしていくというのが、明確な正しい形はまだないものの、今後の課題ではあると思います。
野球の「投げて、打つ」というアクション部分に関して大きく手を加えるつもりはないです。ファミスタらしい、かわいらしいグラフィックはそのままに、打球を追うカメラの角度のバリエーションを増やすなどの臨場感演出はチャレンジしてみたいと思っています。
よく野球ゲームが苦手という人は、例えばピッチャーが投げた球が立体的に奥から来る感じが分かりにくくて、タイミング取りづらいという理由が多いんですよね。一方ファミスタは斜め上からの視点なので、上から下に流れていくボールを打者の手元に来た瞬間にボタンを押して打てばいいだけなので、そこの簡単さはずっと保っていきたいと思っています。ファミスタを愛してくれているユーザーが実際にゲームを遊んだ時の安心感はもちろん変えず、ファミスタの進化は、新しいタイトルを出していく中でその“安心感の幅”を探っていく形になります。
例えばいきなり選手のグラフィックがいきなりムキムキのリアルなキャラクターになったら、「ファミスタじゃない!」ってなっちゃいますよね。今のこの雪だるまみたいなふっくらしたキャラクターがファミスタらしいと言ってくださる方もいますので。そのらしさをBGMの部分に感じている方もいたりするので、そういったところは改良を加えつつも残していきたいと思います。
ファミスタに一番多く収録されたレジェンド
山本昌さんは間違いなく、ファミスタに収録された回数がプロ野球選手の中で一番多い選手ですし、ご本人もプロに入ってからファミスタで同僚の方と試合をしていたというのも聞いていました。
なので、引退したタイミングで「遂に来た!」という感じでゲーム内に登場するオリジナルチーム、ナムコスターズでの現役復帰(今作品のイメージキャラクター起用)のオファーを出させて頂きました。前作のリターンズの時はまだ現役でしたからね。
今回は山本昌さんが初めてファミスタに収録されたときの登録名「やまもも」として登場していただけることになり、ご本人もPV撮影の際に「YAMAMOMO」と刻まれたユニフォームを大変喜んでいただけました。
ちなみに余談ですが、ゲーム内のやまもも選手の必殺の決め球は「ラジコンスクリュー」という魔球です。プロ野球ファンの皆様には有名な話ですが、山本昌さんの得意なラジコンをモチーフにしており、本人が操縦しているかのごとくギュンと曲がって落ちる変化球になっています。
おふざけ要素もファミスタの良さ
推しのモードが球場メーカーというもので、自分のオリジナルの球場を作ることができます。球場の広さ、フェンスの高さ、芝の種類だけでなく、スタンドに巨大な扇風機をつけたり、爆弾を設置したりもできます(笑)
ファミスタはおふざけが許される唯一の野球ゲームという自負が有りますので、今回はがっつりバラエティ要素を入れたパーティー野球ができるようにしようということになりました。
自分だけのチームを作れるゲームはたくさんあるんですけど、球場を作れるものは全然ないんです。
最初は広さを変えて、内野のすぐ後ろまでしかない球場や、大リーグもびっくりの200mもある球場を作ったりしていたのですが、どんどん「ここも変えられるんじゃないか」という部分がたくさん出てきました。ホームランが飛んできたら外野スタンドからビームを撃つ装置があって、打球を打ち落としてしまうとか(笑)。
おもしろ球場を作って友達とやったら絶対盛り上がるので、おすすめです。
本当のプロ野球選手が入っているというリアルに沿った部分もありつつ、ゲームでしかできないところも入れていくというメリハリをモードによって付けています。
世代を超えて愛され続ける野球ゲームであるために
重視したいのは小さいお子さんにとっての“初めての野球ゲーム”になりたいという想いです。「ファミスタなら自分が昔やっていたから買い与えたい」「何か楽しそうだからやってみたい」と思ってもらって、野球ゲームから実際にリアルな野球の方にも繋がっていったらいいな、と思います。
あとはやはり30周年というところが一番大きく、1986年に発売されたものが30年も続き、集大成の決定版としてのタイトルになります。昔を思い出しながら、今はゲームをやっていない初代ファミスタ世代の人でも楽しめるような出来になっていますので親子で仲良く、そして野球ゲーム入門編として子供たちにやってもらえたらと思います。一番はお父さんとお子さんがタッグを組んで「一緒にファミスタやりたいからお母さん、買って!」というような形で説得して買ってもらえると良いですよね。
今回は野球ゲームを、ファミスタをやったことがない人にもフックとなるような内容をあえて詰め込んでいます。今後にとっておこうと思っていたものを全部入れてしまっているので、これからどうするのか、というプレッシャーもあるのですが(笑)
でもだからこそ、決定版として安心して買って頂けるものになっているので、プレイしたことがない人にも手に取ってもらえればと思います。