国境を越えて遺体を母国へ送る仕事「国際霊柩送還士」の知られざる姿

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海外で亡くなった日本人や日本で亡くなった外国人は、誰がその遺体を柩に納め、どのようにして母国へ搬送しているのか知っているだろうか。実は決して表舞台に立つことはないが、プロフェッショナルとして遺体を家族のもとへ還す人たちがいる。

それが「国際霊柩送還士」だ。

そんな国際霊柩送還士を追うノンフィクションがある。『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』(佐々涼子著、集英社刊)だ。本書は2012年第10回開高健ノンフィクション賞を受賞している。

そもそも国際霊柩送還とは具体的にどんな仕事をするのか。

海外の事件や事故で邦人が亡くなると、まず現地では警察による検死や遺族による本人確認が行われる。その後、さまざまな書類上の出国手続きが取られるとともに、現地の葬儀社やエンバーマー(遺体の修復や衛生保全をする人)が適切な処置をして、遺体を飛行機に乗せる。そして、搬送業者は日本に到着した遺体に必要な処置をして葬儀社へ送り届ける。
また、日本で外国人が亡くなった場合は、専門のエンバーマーが防腐処置をするとともに、役所などで必要な手続きを取り、搬送業者が故国へ送り出す。

この一連の作業が「国際霊柩送還」の内容となるのだ。

国際霊柩送還の重要な仕事には、遺体や遺骨の処理がある。
その前提として、公衆衛生上の観点から防腐処理であるエンバーミングをしていない遺体は航空機で運べないのが原則だ。遺体には、現地で離れる時点で必要な処置が施してあるもの。しかし、エンバーミングには国が定める資格やライセンスがないため、業者によって大きな差が出てしまう。

例えば、柩の底に体液が溜まっていたり、ひどい場合はドライアイスだけ詰めてそれで終わりとする業者さえ存在するそうだ。

国際霊柩送還士は、運ばれた遺体の体液を根気よくぬぐい、肌をきれいに拭くと、傷口を修復剤で丁寧に塞いでいく。そして、着物で隠れてしまう部分も、肌色の絆創膏を貼って、きちんと「手当て」を施す。
さらに、耳の中、鼻筋、あごの下など、細部の色もならしていかないと、化粧は浮いてしまう。角の尖った四角いスポンジで注意深くファンデーションをのせてゆくと、肌の色がみるみる明るくなる。こうして、遺体の表情に「生気」を戻し、遺族のもとへと還す。こういったことも国際霊柩送還士の大切な仕事なのだ。

遺体や遺骨は法令上「貨物扱い」で運ばれる。そして、羽田空港の国際線貨物ターミナルの一角に、エアハース・インターナショナル株式会社はある。国際霊柩送還の専門会社として日本で最初に設立された会社だ。

「国際霊柩送還」という言葉は、エアハースの登録商標なので一般的な言葉ではない。本書では、そんなエアハースの創業者、社長、新入社員、ドライバー、二代目、そして、遺族。それぞれの立場から「国際霊柩送還」という仕事を追っていく。

「国際霊柩送還士」という職業をこの本で知るという人も多いかもしない。
本書を読んで、他人事ではないと感じる人もいるだろう。海外で亡くなった邦人が故国へ還ることができきるということは、国際霊柩送還士が尽力している。そのことは知っておくべきことだろう。

エアハースで働く方々が、「死」と常に接する仕事とどのような想いで向き合っているのか。本書から感じることや考えることは多いはずだ。

(新刊JP編集部)

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