コレクターズ30年越しの武道館“永遠のネクストブレイクバンド”がブレイクしない理由がわからない
コレクターズが売れない理由がわからない。武道館ワンマン公演を果たしたバンドに、厳密に言うとこの疑問は適当じゃないのかもしれない。でも、やっぱり全然足らない。
まさか、「モッズ」というスタイルに二の足を踏むリスナーがいるわけじゃあるまいし。客観的に見ても、当たり前のように武道館に到達してなきゃいけないバンド。奥は深く、間口が広い。コレクターズの2ndアルバム『虹色サーカス団』(1988年)について「一曲ごとに映画一本観たくらいの充実感を味わえる、凄いアルバム」とコメントを寄せたのは、スピッツの草野マサムネである。
コレクターズのリスナー一人ひとりに、コレクターズにまつわる思い出はあるはず。私のコレクターズとの出会いは、(あまりにベタで恥ずかしいのだが)彼らの6th『UFO CLUV』(1993)であった。
テレビ埼玉の音楽番組で目にした「世界を止めて」のPVに一発で心奪われ、この曲が収録されていた『UFO CLUV』を購入。家に帰って聴いてみたら、初めから最後まで、全てがパーフェクト。今聴き終わったばかりなのに、また聴きたい。一から、すぐに聴き直したくなってしまう。「文句なし。捨て曲なし!」なんて作品に出会ったのは、筆者にとってこのアルバムが初めてじゃなかったかと思う。
当時、中学生だった私は洋楽を聴き始めたばかりで、“そっち側”へシフトしたくてウズウズしていた。その衝動の背中を、コレクターズは完全に押した。何しろ、コレクターズ以外の邦ミュージシャンによるCDを一斉に売りに出してしまったのだから。岡村靖幸も、ブルーハーツも、ユニコーンも、何を血迷ったか全部売ってしまった。今から思うと明らかに正気じゃないのだが、「日本のバンドはコレクターズだけで十分!」と決断させるほどの衝撃を私は彼らから受けていた。コレクターズは、そういうバンドなのだ。もちろん、売ってしまったアルバムは数年後に一つ一つ買い直すことになるのだが。
学校へ行き、クラスメートに「すげえいいバンドがあるんだけど知ってる?」と言って回っても、誰もその存在を知らないという状況が中学生のプライドをくすぐった。コレクターズを聴いているという事実は、即ち「良い耳をしている」という証でもあった。優越感をもたらせてくれるバンドでもあった。
しかし、そんな存在であったコレクターズも次第に勢いが収束。遂にはレコード契約が切れ、所属事務所の閉鎖を余儀なくされてしまう。「ブレイク間近!」と言われながらいたずらにキャリアは積み重なり、いわゆる“ミュージシャンズミュージシャン”のような存在となってしまった。(何しろ、同業者のファンは多い!)
特に、所属事務所が閉鎖した2003年はバンド史上最大の危機であった。
古市 2人で最初、どっかの事務所が見てくれるだろうと思って行くんだけど、相手にされないもんね。
加藤 相手にされない! こう言われたのが、一番キツかったね。「13枚もアルバム出して、今この成績のバンドが、これから何ができるか聞かせてもらえる?」。で、俺たちは「いい音楽しか作れませんよ」って。それで「お疲れ様です」って。そんな感じだよね。
(スペースシャワーTV『THE COLLECTORS 30周年記念特番 Roll Up The Collectors』から)
センスが良くてスマートでスタイリッシュだったはずのバンドが、いつしかファンの“応援”と“判官贔屓”の感情を喚起する存在となった。モッズのガワに、浪花節の魂を併せ持つ新生コレクターズ。
加藤 で、クワトロに行ったら、店長が「わかった」って。事務所も無いのにだよ? 「じゃあ、この日とこの日とこの日とこの日。土曜日、全部抑えるから」って。「いいんですか!?」って言ったら「いいよ、コレクターズだろ!? チャージバックだって上げてやるよ」って。いや、本当ね。俺、めっちゃめちゃ嬉しくて!
(DVD『HAPPENINGS 20 YEARS TIME AGO AND NOW〜THE STORY OF THE COLLECTORS〜』から)
キャリア30週年を迎えるコレクターズが、とてつもなく良質な楽曲と決して多すぎない熱烈支持者の応援を受け、初の武道館公演に到達したのが3月1日である。
何度も言うが、本来であればコレクターズはとっくに武道館に到達してなければいけないバンド。残念ながら平日開催となった今回の武道館には、大勢のファンが詰めかけている。見た感じ、客席に空きは全く見当たらない。
「みんな『ファンが大人なバンドのチケットが捌けるのは最後の1ヶ月!』って言うんだけど、ほんと胃が痛いよ(笑)」(『音楽と人』2017年3月号より、古市コータローの発言)
「THE COLLECTORS MARCH OF THE MODS 30th Anniversary」という公演名よろしくモッズファッションに身を包んだファンが大挙すると思いきや、たしかにそういった男女もいたものの、会社から直行したであろうスーツ姿の男性だったり、落ち着いた服装で武道館へ馳せ参じた女性であったりが大半。記者は78年生まれだが、恐らく同世代、ないしはそれよりも上世代の昔からのリスナーが武道館の7割を占めている印象である。
開演時間の18時30分を回ると、遂に館内が暗くなり、これまでの30年間を振り返る映像が流れ出す。これが、とにかくカッコいい。
「オープニングはカッコよく出したいよね。たぶん俺が直前まで編集に関わってるよ。俺の予想では、本番3日前にようやくそれが終わって。やっと実感が湧くんじゃない(笑)。武道館だなって」(『音楽と人』2017年3月号より、加藤ひさしの発言)
武道館公演は、予想通りに「愛ある世界」からスタート。おなじみユニオンジャックのスーツに身を包んだ加藤ひさしの姿は目を引くし、その隣に立つ古市コータローの細身のモッズスーツ姿はありえないほどイカしてる。
「MILLION CROSSROADS ROCK」「TOUGH」「夢見る君と僕」と続いていくコレクターズ。頼もしい限りだが、見た感じまるで気負ってない。地力十分、キャリア30年のバンドが成せる業である。
「他のバンドって頑張って無理して武道館をやらなきゃいけない感があるんだけど、コレクターズはそこもなんとなく普通じゃないかな。逆に言えば、武道館が似合うんじゃないかな? っていう予測っつうか」(TOSHI-LOW/BRAHMANの発言。スペースシャワーTV『THE COLLECTORS 30周年記念特番 Roll Up The Collectors』から)
「似合うだろうなと思いました。大きい舞台が似合うかなっていうか」(山中さわお/the pillowsの発言。スペースシャワーTV『THE COLLECTORS 30周年記念特番 Roll Up The Collectors』から)
そして、MC。曲をスタイリッシュに決めておいて、喋りが妙に突き抜けてるのもコレクターズの特徴だ。
加藤 いやぁ、やっとシャバに出たよ。金曜日にリハーサル終わってからさ、ずっと無菌室という名の自宅にコータロー君に監禁させられましてね。今日、4日ぶりに外に出たんですけど。俺の唯一の話相手だった、板橋の近所のスーパーに設置されたペッパー君。どうも評判悪くて、3日で撤去されたんだよね。ペッパー君がいなくなって話相手が一人もいなくて。(客席に向かって)今日、やっと……会えたよ! ちょっとトゥーマッチ、多すぎるけど会えた。
加藤 ありがとう、みんな。今日は平日なのにさ。みんな、会社休むのに「おかっぱ頭の先輩にお別れ言いに来た」って嘘言ってやって来たんでしょ? 部長に「証拠見せろ」って言われたら、外にいっぱい花あるから適当に持ってって。「広瀬すずみたいな髪した人、死んじゃったんですよ」って言えば全然OKだから。
そして、古市コータローから衝撃の事実が明かされる。
加藤 しかしコータロー君、惜しかったね。あと何枚でSOLD OUTだったの?
古市 7枚です。
加藤 7枚!
(館内「えーっ!」と騒然)
加藤 金光ぅ!(『音楽と人』金光裕史氏のこと)
古市 かねみっちゃんは悪くないよ(笑)。今日、当日券はすごく出たんですよ。100枚超えです。
(館内、大拍手)
加藤 そりゃあね、打ちたかったよ「SOLD OUT」って。コータロー君なんか昨日、自分で買おうとしたからね。
古市 つなんがんなかったんだよ。散々つながんなくて「なんだよ!」と思ったら、△になってた。夜更かししてそんなことやって。
加藤 でもね、実質……売り切れたようなもんじゃない?
(館内、大歓声)
加藤 今日は武道館、ようやく身の丈に合った場所でライブができる。いや〜、30年かかった!
それにしても、あと7枚って! いっそのこと「SOLD OUT」と発表してしまってもいいだろうに、正直者というか何というか。
「みんな! 踊れるスペースはあるかい?」というMCの後に突入する「プ・ラ・モ・デ・ル」。そして、コータローによる静かな調べの後に続く加藤ひさしのヴォーカル。“神様、時間止めて……”。言わずと知れたコレクターズ史上最大のヒットナンバー「世界を止めて」である。
メンバーからするとそこまで深い思い入れはないようだし、作曲した加藤本人は「アップテンポのバラードくらいにしか思ってなかった」とコメントしているが、こちらからしたら底抜けの思い入れがある。特にエンディングに向かう辺りで響く、コータローによる叙情的すぎるギターの音。そこに、咆哮する加藤の声がかぶさる。天にも昇る気持ちというのは、こういうことを言うのだろう。レコーディング時、ストリングスアレンジをバッサリ切ってみせたプロデューサー・吉田仁の手腕は見事すぎる。
あと、個人的には9曲目の「2065」がかなり来た。この曲を演奏するコレクターズを観ていると、THE WHOの『TOMMY』を聴いてる時と同じような感覚になる。あまりにもな表現で少し恥ずかしいのだが、物語の中に紛れ込んだような夢見心地になるのだ。幻想的というレベルではなく、自分のいる世界、風景がガラッと変わる感覚。こういう気持ちにさせてくれるバンド、2017年にコレクターズ以外に存在するのか。
加藤 俺たちが30年前、どんなファッションしてたか今から見せるよ。
スタッフが、ステージへモッズパーカーを持ってくる。
加藤 これは、M-51っていうモッズパーカー。こんな格好を30年前にしてたんだけど、誰かがレインボーブリッジ封鎖したから、全然着られなくなっちゃったじゃねえかよ。
(館内 笑)
加藤 でも今日はM-51着て、昔のナンバー歌わせてもらうよ!
「僕の時間機械」が始まった! エンディング間際にマラカスを振る加藤と、好き勝手に演奏する彼らを前にすると、やっぱりまるでTHE WHOのステージみたいに思えてくる。しかも、加藤ひさしは絶対にロジャー・ダルトリーより歌がうまい。「コレクターズは大きい舞台が似合う」という山中さわおの発言には同感である。
続いて、古市がマラカスを持って“シャカシャカ”音をさせる。すぐに察するファンたち。コータローがヴォーカルを務める「Dog Race」のスタート! ストーンズでいうところの「HAPPY」を観てるような、彼らのステージの中でも特別な時間。声量の大きな、全く譲らない加藤ひさしのコーラスもおなじみ。古市の心境を代弁したような加藤による歌詞も見事である。
そして、17曲目にはお待ちかねの「NICK! NICK! NICK!」が登場。この曲で、一際テンションの高まる客席。「NICK! NICK! NICK!」の連呼に合わせ、頭上に掲げた両手を左右に振るファンたち。この時の多幸感は、ちょっと表現不可能。もしかして、この曲がこの日のピークだったかもしれない。
そして「Tシャツレボリューション」「百億のキッスと千億の誓い」と続き、ステージを後にするコレクターズ。しかし、演らなければ(聴かなければ)いけない曲は残っているので、当たり前のように手拍子をしながら4人の再登場を我々は待ち続ける。
当然、衣装をチェンジして出て来るコレクターズ。
加藤 まだまだ、俺たちには行かなきゃいけない場所があるんだよ。それは、東京ドーム。だから、通過点なんだよ。懐かしい曲ばっかりじゃなくて、新譜がいいね。
こうして始まったアンコール1曲目は「ロマンチック・プラネット」。そして「もっともっと、もっとロマンチックな夜にしよう!」という呼びかけと共に始まるは、もちろん「TOO MUCH ROMANTIC!」。
彼らには、たしかに誰もが知ってるヒット曲が少ないかもしれない。でも、いい曲をたくさん持っている。どの時期、どのアルバムからピックアップしても、何をどうやったってファンを満足させるセットリストをつくることができる。この日、改めて再確認したが、何をきっかけにいつブレイクしてもおかしくないバンドがコレクターズだ。業界でこう言われ続け30年が経ってしまい、加藤ひさしも56歳になってしまったのだが。
デビューするもヒット曲に恵まれず、テイチクからコロンビアレコードへ移籍したコレクターズ。その頃、世間ではJ-WALKがヒットを出しており、当時のJ-WALKメンバーは40歳であったという。そこで「40歳までには売れよう!」とコレクターズは目標を立てたのだが、上手くはいかなかった。
次に目標にしたのは、「孫」を歌った大泉逸郎である。
加藤 見るからにおじいちゃんだから、あれだったら目標達成できるだろうって。怖かったんだけど、昨日ウィキで調べたよ。俺は56歳だからね。大泉さんは何歳でヒットしたと思う? ……57歳。There is no time、時間がない!
(館内 笑)
加藤 大泉さんは58歳で紅白に出場している。今のところ、これが初出場最年長記録ですよ。俺は、これは塗り替えたくないよ!
(館内 笑)
古市 紅白、出たいの?
加藤 出ちゃいたいよ、そりゃー!
(館内 歓声)
アンコールの最後の曲は、「僕はコレクター」。メジャーデビューアルバムのタイトル曲であり、彼らのテーマ曲である。いまだ、彼らのライブではこの曲が最も“アガる”。成長はもちろんしているのだが、彼らのスタイルや目指すところはデビュー以来ずっと一貫している。その証じゃないだろうか?
この曲が終わると4人揃って頭を下げ、ステージを去っていくコレクターズ。しかし、館内は暗いままだ。
そして数分経ち、またしても現れたコレクターズ。勢い良く始まった演奏に乗って吠える加藤ひさし。この曲は「恋はヒートウェーヴ」! 原曲はMartha And The Vandellasによるものだが、コレクターズだけにJAMのカヴァーバージョンを思い出してしまう。「俺たちはパンキッシュな音を鳴らすモッズバンド」と謳う加藤ひさしのセリフを思い出す。
感傷もなく疾風のごとくスマートに演りきり、「サンキュー、ありがとう! おやすみ」と言って去っていったコレクターズ。「僕はコレクター」で思いっきり郷愁に浸らせるかと思いきや、カヴァーでとびきりスタイリッシュに武道館公演を締めるところがニクすぎる。こんなのやられたら、余計こっちには余韻が残ってしまう。30年経っても、何があってもモッズ小僧なわけだ。カッコいいねぇ。
武道館と言えども、まるでヨソ行きではなかったコレクターズ。いつも通りに最高の演奏を見せ、セットリストも意外性はなく地に足の着いた選曲となった印象。必要以上に感傷的にならないよう振る舞う姿勢に、余計に感動した。
ライブ終演後、武道館を出ると雨が降っていたのがファン全員の印象に残っているはず。まさに、コレクターズだ。ハマってるよ。武道館だったかのような、ロンドンだったかのような。
コレクターズ、まだまだ全然先に行けるって。観に来なかった人を熱烈に後悔させるようなステージだったと思う。
だからこそ、余計に惜しい。チケットがあと7枚って、どういうこと!?
(寺西ジャジューカ)
【SET LIST】
01.愛ある世界
02.MILLION CROSSROADS ROCK
03.TOUGH
04.夢見る君と僕
05.たよれる男
06.プ・ラ・モ・デ・ル
07.世界を止めて
08.悪の天使と正義の悪魔
09.2065
10.ロックンロールバンド人生
11.僕は恐竜
12.未来のカタチ
13.僕の時間機械
14.Dog Race
15.Space Alien(2000 light years mix)
16.青春ミラー(キミを想う長い午後)
17.NICK! NICK! NICK!
18.Tシャツレボリューション
19.百億のキッスと千億の誓い
(ENCORE ♯1)
20.ロマンチック・プラネット
21.TOO MUCH ROMANTIC!
22. 僕はコレクター
(ENCORE ♯2)
23. 恋はヒートウェーヴ
まさか、「モッズ」というスタイルに二の足を踏むリスナーがいるわけじゃあるまいし。客観的に見ても、当たり前のように武道館に到達してなきゃいけないバンド。奥は深く、間口が広い。コレクターズの2ndアルバム『虹色サーカス団』(1988年)について「一曲ごとに映画一本観たくらいの充実感を味わえる、凄いアルバム」とコメントを寄せたのは、スピッツの草野マサムネである。
テレビ埼玉の音楽番組で目にした「世界を止めて」のPVに一発で心奪われ、この曲が収録されていた『UFO CLUV』を購入。家に帰って聴いてみたら、初めから最後まで、全てがパーフェクト。今聴き終わったばかりなのに、また聴きたい。一から、すぐに聴き直したくなってしまう。「文句なし。捨て曲なし!」なんて作品に出会ったのは、筆者にとってこのアルバムが初めてじゃなかったかと思う。
当時、中学生だった私は洋楽を聴き始めたばかりで、“そっち側”へシフトしたくてウズウズしていた。その衝動の背中を、コレクターズは完全に押した。何しろ、コレクターズ以外の邦ミュージシャンによるCDを一斉に売りに出してしまったのだから。岡村靖幸も、ブルーハーツも、ユニコーンも、何を血迷ったか全部売ってしまった。今から思うと明らかに正気じゃないのだが、「日本のバンドはコレクターズだけで十分!」と決断させるほどの衝撃を私は彼らから受けていた。コレクターズは、そういうバンドなのだ。もちろん、売ってしまったアルバムは数年後に一つ一つ買い直すことになるのだが。
学校へ行き、クラスメートに「すげえいいバンドがあるんだけど知ってる?」と言って回っても、誰もその存在を知らないという状況が中学生のプライドをくすぐった。コレクターズを聴いているという事実は、即ち「良い耳をしている」という証でもあった。優越感をもたらせてくれるバンドでもあった。
しかし、そんな存在であったコレクターズも次第に勢いが収束。遂にはレコード契約が切れ、所属事務所の閉鎖を余儀なくされてしまう。「ブレイク間近!」と言われながらいたずらにキャリアは積み重なり、いわゆる“ミュージシャンズミュージシャン”のような存在となってしまった。(何しろ、同業者のファンは多い!)
特に、所属事務所が閉鎖した2003年はバンド史上最大の危機であった。
古市 2人で最初、どっかの事務所が見てくれるだろうと思って行くんだけど、相手にされないもんね。
加藤 相手にされない! こう言われたのが、一番キツかったね。「13枚もアルバム出して、今この成績のバンドが、これから何ができるか聞かせてもらえる?」。で、俺たちは「いい音楽しか作れませんよ」って。それで「お疲れ様です」って。そんな感じだよね。
(スペースシャワーTV『THE COLLECTORS 30周年記念特番 Roll Up The Collectors』から)
センスが良くてスマートでスタイリッシュだったはずのバンドが、いつしかファンの“応援”と“判官贔屓”の感情を喚起する存在となった。モッズのガワに、浪花節の魂を併せ持つ新生コレクターズ。
加藤 で、クワトロに行ったら、店長が「わかった」って。事務所も無いのにだよ? 「じゃあ、この日とこの日とこの日とこの日。土曜日、全部抑えるから」って。「いいんですか!?」って言ったら「いいよ、コレクターズだろ!? チャージバックだって上げてやるよ」って。いや、本当ね。俺、めっちゃめちゃ嬉しくて!
(DVD『HAPPENINGS 20 YEARS TIME AGO AND NOW〜THE STORY OF THE COLLECTORS〜』から)
キャリア30週年を迎えるコレクターズが、とてつもなく良質な楽曲と決して多すぎない熱烈支持者の応援を受け、初の武道館公演に到達したのが3月1日である。
あと7枚売れてればSOLD OUT……!
何度も言うが、本来であればコレクターズはとっくに武道館に到達してなければいけないバンド。残念ながら平日開催となった今回の武道館には、大勢のファンが詰めかけている。見た感じ、客席に空きは全く見当たらない。
「みんな『ファンが大人なバンドのチケットが捌けるのは最後の1ヶ月!』って言うんだけど、ほんと胃が痛いよ(笑)」(『音楽と人』2017年3月号より、古市コータローの発言)
「THE COLLECTORS MARCH OF THE MODS 30th Anniversary」という公演名よろしくモッズファッションに身を包んだファンが大挙すると思いきや、たしかにそういった男女もいたものの、会社から直行したであろうスーツ姿の男性だったり、落ち着いた服装で武道館へ馳せ参じた女性であったりが大半。記者は78年生まれだが、恐らく同世代、ないしはそれよりも上世代の昔からのリスナーが武道館の7割を占めている印象である。
開演時間の18時30分を回ると、遂に館内が暗くなり、これまでの30年間を振り返る映像が流れ出す。これが、とにかくカッコいい。
「オープニングはカッコよく出したいよね。たぶん俺が直前まで編集に関わってるよ。俺の予想では、本番3日前にようやくそれが終わって。やっと実感が湧くんじゃない(笑)。武道館だなって」(『音楽と人』2017年3月号より、加藤ひさしの発言)
武道館公演は、予想通りに「愛ある世界」からスタート。おなじみユニオンジャックのスーツに身を包んだ加藤ひさしの姿は目を引くし、その隣に立つ古市コータローの細身のモッズスーツ姿はありえないほどイカしてる。
「MILLION CROSSROADS ROCK」「TOUGH」「夢見る君と僕」と続いていくコレクターズ。頼もしい限りだが、見た感じまるで気負ってない。地力十分、キャリア30年のバンドが成せる業である。
「他のバンドって頑張って無理して武道館をやらなきゃいけない感があるんだけど、コレクターズはそこもなんとなく普通じゃないかな。逆に言えば、武道館が似合うんじゃないかな? っていう予測っつうか」(TOSHI-LOW/BRAHMANの発言。スペースシャワーTV『THE COLLECTORS 30周年記念特番 Roll Up The Collectors』から)
「似合うだろうなと思いました。大きい舞台が似合うかなっていうか」(山中さわお/the pillowsの発言。スペースシャワーTV『THE COLLECTORS 30周年記念特番 Roll Up The Collectors』から)
そして、MC。曲をスタイリッシュに決めておいて、喋りが妙に突き抜けてるのもコレクターズの特徴だ。
加藤 いやぁ、やっとシャバに出たよ。金曜日にリハーサル終わってからさ、ずっと無菌室という名の自宅にコータロー君に監禁させられましてね。今日、4日ぶりに外に出たんですけど。俺の唯一の話相手だった、板橋の近所のスーパーに設置されたペッパー君。どうも評判悪くて、3日で撤去されたんだよね。ペッパー君がいなくなって話相手が一人もいなくて。(客席に向かって)今日、やっと……会えたよ! ちょっとトゥーマッチ、多すぎるけど会えた。
加藤 ありがとう、みんな。今日は平日なのにさ。みんな、会社休むのに「おかっぱ頭の先輩にお別れ言いに来た」って嘘言ってやって来たんでしょ? 部長に「証拠見せろ」って言われたら、外にいっぱい花あるから適当に持ってって。「広瀬すずみたいな髪した人、死んじゃったんですよ」って言えば全然OKだから。
そして、古市コータローから衝撃の事実が明かされる。
加藤 しかしコータロー君、惜しかったね。あと何枚でSOLD OUTだったの?
古市 7枚です。
加藤 7枚!
(館内「えーっ!」と騒然)
加藤 金光ぅ!(『音楽と人』金光裕史氏のこと)
古市 かねみっちゃんは悪くないよ(笑)。今日、当日券はすごく出たんですよ。100枚超えです。
(館内、大拍手)
加藤 そりゃあね、打ちたかったよ「SOLD OUT」って。コータロー君なんか昨日、自分で買おうとしたからね。
古市 つなんがんなかったんだよ。散々つながんなくて「なんだよ!」と思ったら、△になってた。夜更かししてそんなことやって。
加藤 でもね、実質……売り切れたようなもんじゃない?
(館内、大歓声)
加藤 今日は武道館、ようやく身の丈に合った場所でライブができる。いや〜、30年かかった!
それにしても、あと7枚って! いっそのこと「SOLD OUT」と発表してしまってもいいだろうに、正直者というか何というか。
目標は大泉逸郎! まだ、いつブレイクしてもおかしくない
「みんな! 踊れるスペースはあるかい?」というMCの後に突入する「プ・ラ・モ・デ・ル」。そして、コータローによる静かな調べの後に続く加藤ひさしのヴォーカル。“神様、時間止めて……”。言わずと知れたコレクターズ史上最大のヒットナンバー「世界を止めて」である。
メンバーからするとそこまで深い思い入れはないようだし、作曲した加藤本人は「アップテンポのバラードくらいにしか思ってなかった」とコメントしているが、こちらからしたら底抜けの思い入れがある。特にエンディングに向かう辺りで響く、コータローによる叙情的すぎるギターの音。そこに、咆哮する加藤の声がかぶさる。天にも昇る気持ちというのは、こういうことを言うのだろう。レコーディング時、ストリングスアレンジをバッサリ切ってみせたプロデューサー・吉田仁の手腕は見事すぎる。
あと、個人的には9曲目の「2065」がかなり来た。この曲を演奏するコレクターズを観ていると、THE WHOの『TOMMY』を聴いてる時と同じような感覚になる。あまりにもな表現で少し恥ずかしいのだが、物語の中に紛れ込んだような夢見心地になるのだ。幻想的というレベルではなく、自分のいる世界、風景がガラッと変わる感覚。こういう気持ちにさせてくれるバンド、2017年にコレクターズ以外に存在するのか。
加藤 俺たちが30年前、どんなファッションしてたか今から見せるよ。
スタッフが、ステージへモッズパーカーを持ってくる。
加藤 これは、M-51っていうモッズパーカー。こんな格好を30年前にしてたんだけど、誰かがレインボーブリッジ封鎖したから、全然着られなくなっちゃったじゃねえかよ。
(館内 笑)
加藤 でも今日はM-51着て、昔のナンバー歌わせてもらうよ!
「僕の時間機械」が始まった! エンディング間際にマラカスを振る加藤と、好き勝手に演奏する彼らを前にすると、やっぱりまるでTHE WHOのステージみたいに思えてくる。しかも、加藤ひさしは絶対にロジャー・ダルトリーより歌がうまい。「コレクターズは大きい舞台が似合う」という山中さわおの発言には同感である。
続いて、古市がマラカスを持って“シャカシャカ”音をさせる。すぐに察するファンたち。コータローがヴォーカルを務める「Dog Race」のスタート! ストーンズでいうところの「HAPPY」を観てるような、彼らのステージの中でも特別な時間。声量の大きな、全く譲らない加藤ひさしのコーラスもおなじみ。古市の心境を代弁したような加藤による歌詞も見事である。
そして、17曲目にはお待ちかねの「NICK! NICK! NICK!」が登場。この曲で、一際テンションの高まる客席。「NICK! NICK! NICK!」の連呼に合わせ、頭上に掲げた両手を左右に振るファンたち。この時の多幸感は、ちょっと表現不可能。もしかして、この曲がこの日のピークだったかもしれない。
そして「Tシャツレボリューション」「百億のキッスと千億の誓い」と続き、ステージを後にするコレクターズ。しかし、演らなければ(聴かなければ)いけない曲は残っているので、当たり前のように手拍子をしながら4人の再登場を我々は待ち続ける。
当然、衣装をチェンジして出て来るコレクターズ。
加藤 まだまだ、俺たちには行かなきゃいけない場所があるんだよ。それは、東京ドーム。だから、通過点なんだよ。懐かしい曲ばっかりじゃなくて、新譜がいいね。
こうして始まったアンコール1曲目は「ロマンチック・プラネット」。そして「もっともっと、もっとロマンチックな夜にしよう!」という呼びかけと共に始まるは、もちろん「TOO MUCH ROMANTIC!」。
彼らには、たしかに誰もが知ってるヒット曲が少ないかもしれない。でも、いい曲をたくさん持っている。どの時期、どのアルバムからピックアップしても、何をどうやったってファンを満足させるセットリストをつくることができる。この日、改めて再確認したが、何をきっかけにいつブレイクしてもおかしくないバンドがコレクターズだ。業界でこう言われ続け30年が経ってしまい、加藤ひさしも56歳になってしまったのだが。
デビューするもヒット曲に恵まれず、テイチクからコロンビアレコードへ移籍したコレクターズ。その頃、世間ではJ-WALKがヒットを出しており、当時のJ-WALKメンバーは40歳であったという。そこで「40歳までには売れよう!」とコレクターズは目標を立てたのだが、上手くはいかなかった。
次に目標にしたのは、「孫」を歌った大泉逸郎である。
加藤 見るからにおじいちゃんだから、あれだったら目標達成できるだろうって。怖かったんだけど、昨日ウィキで調べたよ。俺は56歳だからね。大泉さんは何歳でヒットしたと思う? ……57歳。There is no time、時間がない!
(館内 笑)
加藤 大泉さんは58歳で紅白に出場している。今のところ、これが初出場最年長記録ですよ。俺は、これは塗り替えたくないよ!
(館内 笑)
古市 紅白、出たいの?
加藤 出ちゃいたいよ、そりゃー!
(館内 歓声)
感傷を拒否し、モッズを貫き通す
アンコールの最後の曲は、「僕はコレクター」。メジャーデビューアルバムのタイトル曲であり、彼らのテーマ曲である。いまだ、彼らのライブではこの曲が最も“アガる”。成長はもちろんしているのだが、彼らのスタイルや目指すところはデビュー以来ずっと一貫している。その証じゃないだろうか?
この曲が終わると4人揃って頭を下げ、ステージを去っていくコレクターズ。しかし、館内は暗いままだ。
そして数分経ち、またしても現れたコレクターズ。勢い良く始まった演奏に乗って吠える加藤ひさし。この曲は「恋はヒートウェーヴ」! 原曲はMartha And The Vandellasによるものだが、コレクターズだけにJAMのカヴァーバージョンを思い出してしまう。「俺たちはパンキッシュな音を鳴らすモッズバンド」と謳う加藤ひさしのセリフを思い出す。
感傷もなく疾風のごとくスマートに演りきり、「サンキュー、ありがとう! おやすみ」と言って去っていったコレクターズ。「僕はコレクター」で思いっきり郷愁に浸らせるかと思いきや、カヴァーでとびきりスタイリッシュに武道館公演を締めるところがニクすぎる。こんなのやられたら、余計こっちには余韻が残ってしまう。30年経っても、何があってもモッズ小僧なわけだ。カッコいいねぇ。
武道館と言えども、まるでヨソ行きではなかったコレクターズ。いつも通りに最高の演奏を見せ、セットリストも意外性はなく地に足の着いた選曲となった印象。必要以上に感傷的にならないよう振る舞う姿勢に、余計に感動した。
ライブ終演後、武道館を出ると雨が降っていたのがファン全員の印象に残っているはず。まさに、コレクターズだ。ハマってるよ。武道館だったかのような、ロンドンだったかのような。
コレクターズ、まだまだ全然先に行けるって。観に来なかった人を熱烈に後悔させるようなステージだったと思う。
だからこそ、余計に惜しい。チケットがあと7枚って、どういうこと!?
(寺西ジャジューカ)
【SET LIST】
01.愛ある世界
02.MILLION CROSSROADS ROCK
03.TOUGH
04.夢見る君と僕
05.たよれる男
06.プ・ラ・モ・デ・ル
07.世界を止めて
08.悪の天使と正義の悪魔
09.2065
10.ロックンロールバンド人生
11.僕は恐竜
12.未来のカタチ
13.僕の時間機械
14.Dog Race
15.Space Alien(2000 light years mix)
16.青春ミラー(キミを想う長い午後)
17.NICK! NICK! NICK!
18.Tシャツレボリューション
19.百億のキッスと千億の誓い
(ENCORE ♯1)
20.ロマンチック・プラネット
21.TOO MUCH ROMANTIC!
22. 僕はコレクター
(ENCORE ♯2)
23. 恋はヒートウェーヴ