新しい「時をかける少女」をプロデュースし続ける 10周年記念座談会2
『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』などの大ヒット映画で知られる細田守監督が大ブレイクするきっかけとなった映画『時をかける少女』。その公開10周年を記念したさまざまな企画が昨年の夏から展開中。
10年前の公開時から『時をかける少女』をプロデュースし続けているKADOKAWA代表取締役専務執行役員の井上伸一郎、スタジオ地図代表取締役の齋藤優一郎プロデューサー、KADOKAWAの千葉淳プロデューサーの座談会。
後編では、Blu-ray3枚組の「時をかける少女 10th Anniversary Blu-ray BOX」の内容や、細田守監督の映画に対する思いなども聞いていく。
(前編はこちら)
齋藤 「時をかける少女カフェ」では、作品を観てくださっている観客の皆さんと、映画館とはまた違った場所で、実際にお会いできた事がとても嬉しかったですね。また、一晩で7000人近くが集まった東京国立博物館での野外上映(「『時をかける少女』10th Anniversary 博物館で野外シネマ」)も同じ気持ちでした。そこには10年前に映画館で観たよと仰ってくれた観客の方々や、ご両親と一緒に来てくれていて、その日に初めて『時をかける少女』を観ますなんて話をしてくれた9歳の男の子など、さまざまな方がいて感動しました。10年前をただ懐かしむだけではない、沢山の方々と一緒にこれから先の10年をも共有したみたいな、本当に嬉しく、得がたい経験をさせて頂きました。
千葉 公開から10年経っても、ここまでの企画を仕掛ける事のできるタイトルはなかなか無いと思います。齋藤プロデューサーが仰ったように、東京国立博物館のイベントでも、10年前のお客さんだけではなくて、その後に『時かけ』のファンになって下さった人もいれば、初めて観るという学生さんや子供さんもいる。新しい世代のファンもどんどん入って来てもらえていると実感できました。次の細田監督の作品に繋がっていくステップにもなっているはずですし、非常に良い企画だったなと実感しました。
井上 細田監督もよく「10年前は眼鏡をかけた男性のお客さんばかりだったのに、最近は若い女性やお子さんも増えた」と仰ってますよね(笑)。そして、「そうなったのも、10年前に観て、周りに広めてくれた方がいるからだ」と。まったくその通りで、そういう最初のファンの皆さんから、まったく新しいファンにも広がっている事は、今回のいろいろな上映会を通して知る事ができました。
千葉 10周年を記念した企画としては、(2016年の)11月には、「時をかける少女 10th Anniversary Blu-ray BOX」も発売しました。齋藤プロデューサーと話をしていく中でコンセプトとして、懐古主義にはならないようにしたいというのがまずありましたね。なので、新規の特典映像なども入っていますが、一番の売りは136ページに及ぶ豪華なアートブックかなと思っています。これまで細田守監督作品で、『おおかみこどもの雨と雪』と『バケモノの子』は単独の書籍としてアートブックを出していたんですけど、その前の2作品は出てなかったんですよ。なので、見応えのあるアートブックを作って入れたいと思ったら、BOXがこんなに大きくなってしまいました(笑)。でも、美術とかは大きなサイズで観て欲しいですし、『おおかみこどもの雨と雪』や『バケモノの子』のアートブックと並べた時、コレクション的にも、同じサイズにした方が良いかなと。
齋藤 次は『サマーウォーズ』のアートブックも、作りましょうね(笑)。
千葉 あと、10年前のパッケージの特典だけでなく、東京国立博物館のイベントの映像であったり、10年経った今、細田監督が思っている事などをファンの方々にも知ってもらいたいという思いもあって作ったパッケージですね。
齋藤 細田監督は一貫していると思うんです。それは初監督作品『劇場版デジモンアドベンチャー』からそうなんですが、常に変様していく社会の中で、主体性と覚悟、そしてバイタリティーを持って、未来を切り開いていく若者や子供たちの成長や変化を、ずっと映画で描き続けている。『時をかける少女』もそうです。そういう意味で言うと、いま制作に着手している新しい映画も、そう言う文脈にあるんじゃないかな。ただ、『時をかける少女』という作品は、その連なりの中でも、細田監督にとってとても特別な作品なんです。改めて昨年、東京国際映画祭での細田監督特集を見てそう思いました。そう、『サマーウォーズ』、『おおかみこどもの雨と雪』、『バケモノの子』とはまた違った意味で。あの時代、あの時の細田監督だからこそ作り得た、エバーグリーンな作品なんじゃないかなと思います。
齋藤 こうやって一つ一つ振り返ってみると、本当に沢山のチャレンジをさせて頂きましたね。
千葉 そうですよね。リバイバル上映も、当初、東京だけの予定でしたしね。でも、東京での上映が終わった後に「東京だけなんですか?」といった反応があったので、カフェと連動した形でやれたらお客さんにも喜んでもらえるんじゃないかという事で、急遽、名古屋、大阪でも行ないました。1月1日から6日間限定で、シネマート新宿でもリバイバル上映をしていたのですが、これも急遽、決まった事で。しかも、シネマートさんの担当の方から提案して下さったんです。
齋藤 「時をかける少女カフェ」も最初のきっかけは、『サマーウォーズ」公開当時に作品を応援してくれたPARCOの手塚さんから7年ぶりにお便りを頂いたからなんです。だからやってみよう、チャレンジしてみようと。そういう人と人とのつながりや気持ちと哲学の共有があったからこそ、チャレンジできたという試みが大半なんですよね。さっき千葉さんが仰っていたリバイバル上映も正しくそう。『時をかける少女』を観た事はあるけど、映画館のスクリーンでは観た事は無いという方に、ぜひスクリーンでも観て欲しいと思って名乗りをあげてくださった映画館の方々がいてくれたからこそ実現できた。しかも、DCP(デジタルデータを用いた上映方式「デジタルシネマパッケージ」の略)での上映は初めての事。青空が本当にとても綺麗なんですよ。沢山の方々に足を運んで頂き、満員御礼まで出て、本当に嬉しかった。
千葉 色がハッキリとしてますよね。
井上 家にあるBlu-rayでも、わりと頻繁に観ているんですけど、改めて大画面で観ると感慨深いものがありますね。それに、お二人が仰るとおり、今の方が色が良い(笑)。観ていて、今さらながら気づく事もありました。
齋藤 あと、これは細田監督が言っていた事なんですが、本当に映画は一本一本なんです。でも映画は作っただけでは終わらないんだという事を、『時をかける少女』の公開から10年を経て思った、そう言っていました。僕もそうだと思います。細田監督にとって実は毎回そうではありつつも、『時をかける少女』は本当に背水の陣で、人生で最後の映画になるかもしれない、そういう覚悟と思いで取り組んだ作品なんです。映画って、作れる事も奇跡、完成する事も奇跡なんです。公開出来る事も、ましてや沢山の方々に観て頂けるなんて事は本当に奇跡の連続で、そういう上に成り立っているものだと思っているんですね。その上で、今回10年を経て、目の当たりにした僕らの映画をずっと観続けてくださっている方々、そして新たに僕らの映画に初めて出会ってくださる方々が大勢居てくださっているというのは本当に奇跡的で、心からありがたい事と思っています。また感謝と共に、そういった観客の皆さんから沢山の事を教えて頂いたとも思っています。きっとそれは細田監督も同じ思いなんじゃないかな。
井上 今、作っている作品のためにも良かった?(笑)
齋藤 そうですね、そう思いますよ。
井上 締めの言葉として、良いまとめですね(笑)。
齋藤 でも、最後は井上さんに、締めて欲しいですね。
千葉 そうですね。
井上 では……先ほども少し使いましたが「カルトムービー」という言葉が昔からありまして。これは単にマニアックな映画という意味ではなく、元々の語源から言うと、例えば公開日であったり、監督の誕生日であったりといったアニバーサリーの日には必ず映画館で上映されるような作品、それが「カルトムービー」なんですね。ですから、我々の仕事は、すでにカルトムービーになっている『時をかける少女』を、次の10年、さらにその次の10年と、カルトムービーとして守り続ける事なんです。なおかつ、これから先、映像技術がどんな形で発達するのは分かりませんが、常にその時代に即した新しい状態の『時をかける少女』を世に届けるのが我々の役目。これから新しく生まれてくるファンの方々にも届け続けたいと思います。この作品に出てくる3人の気持ちの良い少年少女たちの魅力を伝えていきたいという思いが、10年経った今でも変わらずあるんですよ。そういう思いで、今後も『時をかける少女』をプロデュースし続けます。
(丸本大輔)
≪時をかける少女カフェ@福岡≫
開催期間:2017年2月1日(水)〜2017年2月28日(水)
営業時間:10:00〜20:30(フードL.O.20:00)
※2月28日(水)は18:00まで。(フードL.O.17:00)
会場:THE GUEST cafe&diner(福岡パルコ 本館・5F)
住所:福岡市中央区天神2丁目11-1
公式HP:http://the-guest.com/tokikake_fukuoka/
≪『時をかける少女』リバイバル上映(福岡)≫
上映期間:2017年2月18日(土)〜2月24日(金) ※1週間限定上映
上映館:ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13
住所:福岡県福岡市博多区住吉1丁目2-22 キャナルシティ博多内
劇場公式HP:http://www.unitedcinemas.jp/canalcity/index.html
※チケット発売、上映時間などに関する詳しい情報は劇場HP、または直接劇場へお問い合わせください。
10年前の公開時から『時をかける少女』をプロデュースし続けているKADOKAWA代表取締役専務執行役員の井上伸一郎、スタジオ地図代表取締役の齋藤優一郎プロデューサー、KADOKAWAの千葉淳プロデューサーの座談会。
後編では、Blu-ray3枚組の「時をかける少女 10th Anniversary Blu-ray BOX」の内容や、細田守監督の映画に対する思いなども聞いていく。
(前編はこちら)
東京国立博物館での野外上映には一晩で約7000人のファンが集結
齋藤 「時をかける少女カフェ」では、作品を観てくださっている観客の皆さんと、映画館とはまた違った場所で、実際にお会いできた事がとても嬉しかったですね。また、一晩で7000人近くが集まった東京国立博物館での野外上映(「『時をかける少女』10th Anniversary 博物館で野外シネマ」)も同じ気持ちでした。そこには10年前に映画館で観たよと仰ってくれた観客の方々や、ご両親と一緒に来てくれていて、その日に初めて『時をかける少女』を観ますなんて話をしてくれた9歳の男の子など、さまざまな方がいて感動しました。10年前をただ懐かしむだけではない、沢山の方々と一緒にこれから先の10年をも共有したみたいな、本当に嬉しく、得がたい経験をさせて頂きました。
千葉 公開から10年経っても、ここまでの企画を仕掛ける事のできるタイトルはなかなか無いと思います。齋藤プロデューサーが仰ったように、東京国立博物館のイベントでも、10年前のお客さんだけではなくて、その後に『時かけ』のファンになって下さった人もいれば、初めて観るという学生さんや子供さんもいる。新しい世代のファンもどんどん入って来てもらえていると実感できました。次の細田監督の作品に繋がっていくステップにもなっているはずですし、非常に良い企画だったなと実感しました。
井上 細田監督もよく「10年前は眼鏡をかけた男性のお客さんばかりだったのに、最近は若い女性やお子さんも増えた」と仰ってますよね(笑)。そして、「そうなったのも、10年前に観て、周りに広めてくれた方がいるからだ」と。まったくその通りで、そういう最初のファンの皆さんから、まったく新しいファンにも広がっている事は、今回のいろいろな上映会を通して知る事ができました。
『時をかける少女』は細田監督にとっても特別な作品
千葉 10周年を記念した企画としては、(2016年の)11月には、「時をかける少女 10th Anniversary Blu-ray BOX」も発売しました。齋藤プロデューサーと話をしていく中でコンセプトとして、懐古主義にはならないようにしたいというのがまずありましたね。なので、新規の特典映像なども入っていますが、一番の売りは136ページに及ぶ豪華なアートブックかなと思っています。これまで細田守監督作品で、『おおかみこどもの雨と雪』と『バケモノの子』は単独の書籍としてアートブックを出していたんですけど、その前の2作品は出てなかったんですよ。なので、見応えのあるアートブックを作って入れたいと思ったら、BOXがこんなに大きくなってしまいました(笑)。でも、美術とかは大きなサイズで観て欲しいですし、『おおかみこどもの雨と雪』や『バケモノの子』のアートブックと並べた時、コレクション的にも、同じサイズにした方が良いかなと。
齋藤 次は『サマーウォーズ』のアートブックも、作りましょうね(笑)。
千葉 あと、10年前のパッケージの特典だけでなく、東京国立博物館のイベントの映像であったり、10年経った今、細田監督が思っている事などをファンの方々にも知ってもらいたいという思いもあって作ったパッケージですね。
齋藤 細田監督は一貫していると思うんです。それは初監督作品『劇場版デジモンアドベンチャー』からそうなんですが、常に変様していく社会の中で、主体性と覚悟、そしてバイタリティーを持って、未来を切り開いていく若者や子供たちの成長や変化を、ずっと映画で描き続けている。『時をかける少女』もそうです。そういう意味で言うと、いま制作に着手している新しい映画も、そう言う文脈にあるんじゃないかな。ただ、『時をかける少女』という作品は、その連なりの中でも、細田監督にとってとても特別な作品なんです。改めて昨年、東京国際映画祭での細田監督特集を見てそう思いました。そう、『サマーウォーズ』、『おおかみこどもの雨と雪』、『バケモノの子』とはまた違った意味で。あの時代、あの時の細田監督だからこそ作り得た、エバーグリーンな作品なんじゃないかなと思います。
映画は作っただけでは終わらない。この先もずっと続
く齋藤 こうやって一つ一つ振り返ってみると、本当に沢山のチャレンジをさせて頂きましたね。
千葉 そうですよね。リバイバル上映も、当初、東京だけの予定でしたしね。でも、東京での上映が終わった後に「東京だけなんですか?」といった反応があったので、カフェと連動した形でやれたらお客さんにも喜んでもらえるんじゃないかという事で、急遽、名古屋、大阪でも行ないました。1月1日から6日間限定で、シネマート新宿でもリバイバル上映をしていたのですが、これも急遽、決まった事で。しかも、シネマートさんの担当の方から提案して下さったんです。
齋藤 「時をかける少女カフェ」も最初のきっかけは、『サマーウォーズ」公開当時に作品を応援してくれたPARCOの手塚さんから7年ぶりにお便りを頂いたからなんです。だからやってみよう、チャレンジしてみようと。そういう人と人とのつながりや気持ちと哲学の共有があったからこそ、チャレンジできたという試みが大半なんですよね。さっき千葉さんが仰っていたリバイバル上映も正しくそう。『時をかける少女』を観た事はあるけど、映画館のスクリーンでは観た事は無いという方に、ぜひスクリーンでも観て欲しいと思って名乗りをあげてくださった映画館の方々がいてくれたからこそ実現できた。しかも、DCP(デジタルデータを用いた上映方式「デジタルシネマパッケージ」の略)での上映は初めての事。青空が本当にとても綺麗なんですよ。沢山の方々に足を運んで頂き、満員御礼まで出て、本当に嬉しかった。
千葉 色がハッキリとしてますよね。
井上 家にあるBlu-rayでも、わりと頻繁に観ているんですけど、改めて大画面で観ると感慨深いものがありますね。それに、お二人が仰るとおり、今の方が色が良い(笑)。観ていて、今さらながら気づく事もありました。
齋藤 あと、これは細田監督が言っていた事なんですが、本当に映画は一本一本なんです。でも映画は作っただけでは終わらないんだという事を、『時をかける少女』の公開から10年を経て思った、そう言っていました。僕もそうだと思います。細田監督にとって実は毎回そうではありつつも、『時をかける少女』は本当に背水の陣で、人生で最後の映画になるかもしれない、そういう覚悟と思いで取り組んだ作品なんです。映画って、作れる事も奇跡、完成する事も奇跡なんです。公開出来る事も、ましてや沢山の方々に観て頂けるなんて事は本当に奇跡の連続で、そういう上に成り立っているものだと思っているんですね。その上で、今回10年を経て、目の当たりにした僕らの映画をずっと観続けてくださっている方々、そして新たに僕らの映画に初めて出会ってくださる方々が大勢居てくださっているというのは本当に奇跡的で、心からありがたい事と思っています。また感謝と共に、そういった観客の皆さんから沢山の事を教えて頂いたとも思っています。きっとそれは細田監督も同じ思いなんじゃないかな。
井上 今、作っている作品のためにも良かった?(笑)
齋藤 そうですね、そう思いますよ。
井上 締めの言葉として、良いまとめですね(笑)。
齋藤 でも、最後は井上さんに、締めて欲しいですね。
千葉 そうですね。
井上 では……先ほども少し使いましたが「カルトムービー」という言葉が昔からありまして。これは単にマニアックな映画という意味ではなく、元々の語源から言うと、例えば公開日であったり、監督の誕生日であったりといったアニバーサリーの日には必ず映画館で上映されるような作品、それが「カルトムービー」なんですね。ですから、我々の仕事は、すでにカルトムービーになっている『時をかける少女』を、次の10年、さらにその次の10年と、カルトムービーとして守り続ける事なんです。なおかつ、これから先、映像技術がどんな形で発達するのは分かりませんが、常にその時代に即した新しい状態の『時をかける少女』を世に届けるのが我々の役目。これから新しく生まれてくるファンの方々にも届け続けたいと思います。この作品に出てくる3人の気持ちの良い少年少女たちの魅力を伝えていきたいという思いが、10年経った今でも変わらずあるんですよ。そういう思いで、今後も『時をかける少女』をプロデュースし続けます。
(丸本大輔)
≪時をかける少女カフェ@福岡≫
開催期間:2017年2月1日(水)〜2017年2月28日(水)
営業時間:10:00〜20:30(フードL.O.20:00)
※2月28日(水)は18:00まで。(フードL.O.17:00)
会場:THE GUEST cafe&diner(福岡パルコ 本館・5F)
住所:福岡市中央区天神2丁目11-1
公式HP:http://the-guest.com/tokikake_fukuoka/
≪『時をかける少女』リバイバル上映(福岡)≫
上映期間:2017年2月18日(土)〜2月24日(金) ※1週間限定上映
上映館:ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13
住所:福岡県福岡市博多区住吉1丁目2-22 キャナルシティ博多内
劇場公式HP:http://www.unitedcinemas.jp/canalcity/index.html
※チケット発売、上映時間などに関する詳しい情報は劇場HP、または直接劇場へお問い合わせください。