映画「ポッピンQ」思春期の少女たちに向けて直球を投げました。宮原監督に更に聞く

写真拡大 (全4枚)

12月23日公開の映画「ポッピンQ」。それぞれ心にモヤモヤを抱えた5人の少女たちが「時の谷」で出会い、前へと踏み出すジュブナイル作品だ。
公開記念インタビューの前編では、宮原直樹監督の少年時代や東映アニメーションで携わってきた作品について聞いた。後編では、本作のこだわりと狙いを聞いた。

かっこいいダンスを踊ると、すごく楽しい映像になる


──本作は、作画のシーンもあり、CGのシーンもありで、どちらもハイクオリティに仕上がっています。作品作りにおいて、両者のバランスを考えていたのでしょうか。

宮原 「作画のベストとCGのベストを足そう」それだけですね。どちらかをどちらかに合わせる、引き算的な考え方はしませんでしたね。若干違和感が出たとしても、ベストとベストを足し合わせれば、絶対にパワーがある作品になると考えました。ストーリーは、イベントが発生して、山あり谷あり、アクション、アクション、そしてアクション!になっています。


──緩急がしっかりあるという印象でした。

宮原 ありがとうございます、そう思っていただけるとありがたいですね。僕はまじめなシーンが続くとふざけずにはいられなくなってしまうので、そういう性格が出ているのかもしれませんが……(笑)。

──本作の大きなモチーフである「ダンス」が、CGを活用して非常に魅力的に描かれています。あれはやはり、「プリキュア」などを作ってきた東映アニメーションCG部のノウハウの蓄積があるんでしょうか。

宮原 「プリキュア」シリーズの流れとして「CGの有効活用」があって、どんどんどんどん技術は更新されています。よりアニメーターたちが動かしやすくて、よりきれいな絵作りができる環境が積み重なって、今に至っている部分はありますね。その技術はありがたく拝借しました!

──監督が担当してきた作品には、「ダンス」という要素がかなり入っているように思います。もしや、昔よく踊っていたり……?

宮原 してないです、してないです(笑)。でも、「サタデー・ナイト・フィーバー」(1977年)が流行った辺りで「映画って面白いんだな」と認識しだしたし、「フラッシュダンス」(1983年)や「フットルース」(1984年)が続いたじゃないですか。全部ちゃんと見たわけではないですが、曲やミュージックビデオが、どんどん世間で認知され始めるようになってきたころに、青春時代を過ごしていたので。「気持ちいい音楽があって、かっこいいダンスを踊ると、すごく楽しい映像になるぞ」という思いはずっと持っていたのかもしれません。


──そういう「かっこいいダンス」は、作画で制作するのは難しいものですか?

宮原 大変ですよ。もちろん、やって成功した例は、他社さんでも東映アニメーションでもあります。でも、やはり相当の時間と労力をかけなければいけない。作画に比べればまだ、CGで構築していったほうが効果があるんじゃないか……と僕は思っています。CGの技術もどんどん上がっているので、「ちょっとここをこうしたい!」「もう少しだけ関節や筋肉を意識したフォルムにしたい」というところに手が届くようにはなってきているんですよ。

──技術が進化すると、モーションキャプチャーもより一層生かせるようになりますね。エンドクレジットに、アクター(CGの動きの元になった役者)の名前が載っているのは、アクターのみなさんへのリスぺクト意識なんでしょうか。

宮原 そうなんです! 今回「ポッピンQ」に参加しているアクターのみなさんは、「3Dシアター」と同じチーム。劇中の踊りの振り付けも、イメージを伝えると、みなさんが的確に形にしてくれた。本当にすごい人たちだなと思っています。これから、声優さんと同じように、「この人が踊っている」「このチームが参加している」とどんどん名前が意識されるようになるんじゃないのかな。その先駆けというわけでもないですが、アクターさんに敬意を払って、今回エンドクレジットに役名と併せて登場していただきました。


──劇中では伊純をはじめとして、キャラクターたちがキュートに踊っています。でも逆に「踊ってみた」が広がったり、もしくは伊純たちがほかのアイドルの曲を踊ってみたり、そういったものも見てみたいですね。「恋ダンス」とか……。

宮原 ああー、そういう形もできるかもしれません。「ポッピンQ」でいろんなアーティストさんのミュージックビデオとか、「PPAP」とか(笑)。もう、すっかりああいう投稿動画が定着しているなあ。おもしろいダンスや動きは、今までと違う形で、どんどん広がっていくんですよね、きっと。

オリジナル映画を作るのが難しい中で、直球を投げ込んでいく


──作画×CG×ダンスという、監督の集大成のような「ポッピンQ」ですが、そもそもこの企画はどうして生まれたんでしょうか。

宮原 金丸裕プロデューサーとの出会いからお話しすることになってしまいますが……(笑)。金丸Pは、僕とはけっこう年が離れているんですね。「3Dシアター」の打ち上げに、制作には関係していないのに紛れ込んで、「ワッハッハ!」と大騒ぎしている、「胡散臭そうな若者がいるなー」という第一印象でした。そんな金丸Pがいたおかげで、「ポッピンQ」というオリジナル映画企画を作ることができました。

──やはり、オリジナル映画を制作するのは難しいんですか。

宮原 ハードルは高いですね。原作ものや、ある程度知名度のあるリメイクものがやっぱり多い。僕も「オリジナル映画をやりたい!」とは言っていなかったけれど、なにか面白いことをやりたいなと、企画書を描いてはボツになる……という状態だったんです。そこで金丸Pと「チャンスがあったら、オリジナルで、3Dシアターでやったダンスの要素も生かせたらいいね」と話しているうちに、あれよあれよと転がって。黒星紅白先生まで巻き込んで……アツい男ですよ、ヤツは。

──黒星先生とは、どのように出会ったんですか?

宮原 黒星先生が東京にいらっしゃるタイミングがあったので、金丸Pと一緒に直接お会いしに行って挨拶したんですよ。「あのー、東映アニメの者なんですけど」「えっ?」という反応で。突然巻き込んだというか、押し掛けたというか……(笑)。それでも僕の初劇場監督、金丸Pの初プロデューサーのこの作品を、引き受けていただいて本当によかったです。

──宮原監督は、これまでCG監督は担当していますが、長編劇場作品の監督は初めて。一番大変だったことはなんでしょうか。

宮原 楽曲の発注や、声優さんとのアフレコの経験がほぼゼロで、どこをどうやってまとめていけばいいのか手探り状態でしたね。ただ、みなさん協力してくれたし、金丸Pもうまくやってくれたので助かりました!

──ありがとうございます。最後の質問になるかと思いますが、「ポッピンQ」を見て、「この映画をいちばん必要としていて、いちばん響くのは、プリキュアを通って思春期に向かおうとしている、10歳から15歳くらいの女の子なんじゃないか」と感じました。

宮原 そうだと思います。

──もちろん大人にも響くんですが。宮原監督は「ドラゴンボール」や「プリキュア」で、30年間ずっと子どもたちの方を向いて作品を作っている。この30年間で、子どもたちの変化は感じますか?

宮原 「選択肢が増えた」ということは大きいと思います。テレビだけじゃなく、スマホもあり、パソコンもあり、たくさんの“おもちゃ”の中で、選んでもらうための大作戦を立てなければいけない。その時に信じられるものは、やっぱり自分が通ってきた道です。リサーチやマーケティングも重要ですが、それに振り回されて空振りをするくらいなら、自分が面白いと思っているものをとりあえず全力投球で投げてみる。誰かに見てもらうために道を曲げるというよりは、直球を投げたいと思っていますし、投げてきました。


──「ポッピンQ」でも。
宮原 迷わず直球。受け取ってもらえたらいいんですけどね。ただ、本当に見てほしい世代にとって、アニメ映画は「一般的じゃない」のかもしれません。でも、子どもが見て、アニメ映画が好きな大人が見て、挟まれば、オセロゲームでひっくり返るかもしれない。2016年に大ヒットした「君の名は。」の一般層への広がり方も、そういうところがありました。クリスマス映画、お正月映画、冬休み映画として、そういう広がり方を狙えたら嬉しいです。

(青柳美帆子)