「ジョジョの奇妙な冒険」仗助VS吉良吉影「自動追尾弾」による頭脳バトル

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声に出して読みたい吉良吉影の名言(その一)


平穏な生活を望みながら、人を殺さずにはいられない矛盾した性を持つ吉良吉影。しかし、あくまでも幸せを掴み取ろうと前向きでポジティブ。連続殺人鬼なのに広く共感を集めている名言の数々を、物語の幕引きを目前にして噛み締めてみよう。


勝ち負け」にこだわったり頭を抱えるような「トラブル」とか夜も眠れないといった
「敵」をつくらない…というのがわたしの社会に対する姿勢であり
それが自分の幸福だという事を知っている……

自分の正体が康一くんにバレたときに言い放ったセリフ。ディオ(DIO)やカーズは上昇志向の塊だったが、吉良は能力もスタンドもあるのに「支配」よりも「平穏」をチョイス。地位や名誉を追いかける80年代バブルが終わり、等身大の幸せを追う「90年代のラスボス」だった。

君はわたしの睡眠を妨げる「トラブル」であり「敵」というわけさ

被害者の「手」を見てしまった重チーを、ただの「トラブル」と断言する吉良。その望みは慎ましやかなようで、人の命をゴミ扱いする傲岸不遜さ。しかし仕事や人間関係でテンパっていると「自分の安眠は地球よりも重い」に少しうなずけて、みんなの中にいる吉良吉影。

美しい町だ…杜王町…
こんなすばらしい町が他にあるかな…
まるでピクニックに来てる気分だね

できたてホカホカの美味いサンドイッチ、あたたかな昼の日差し、懐には美しい(死体の)手。「好みの獲物がいつでも手に入る」自分勝手きわまりない理由だが、吉良は吉良なりに生まれ故郷の杜王町を愛していたのだ。

さっきから気になってしょうがない。こいつ「くつ下」を裏返しに履いてやがる…
自分で気にならんのかな? 裏表ぐらい確認してから学校行け

これから爆死させる康一くんの靴下が気になってしょうがない、平凡を装う男の異常な几帳面さ。しかし、切羽詰まったときほどしょうもないことに心が囚われるのは誰にとっても「あるある」だ。

私は「生きのびる」……平和に「生きのび」てみせる
わたしは人を殺さずにはいられないという「サガ」を背負ってはいるが……。
「幸福に生きてみせるぞ!」

片手を自分で切り取って幸福に生きていくのはハードル高そうだが、それでも折れない吉良の心。反社会的にも程があるサガを受け入れ、会社で同僚に溶け込んでサラリーマンを続けていた不屈の精神は「悪のヒーロー」と言っていい。

りおちゃんのパンツ男、なぜか舌なめずりまでアニメ化


「おはようございます。川尻浩作です。誠に勝手なのですが15分程出社が遅れそうなのです」

上司に詫びの電話を入れる川尻浩作こと吉良吉影。ペコペコしてる本人はラスボス、しかも第四部の最終決戦。遅刻しての殺人計画(口封じ)を「ほんのつまらない理由」と言い、仗助を「15分程」で倒すつもりという、小心なセリフの中に秘められた大胆な自信が吉良らしい。

さらに業務連絡のあと「ふん、川尻浩作め。ペコペコしやがって。そんなに出世したかったのか。気苦労の方が多いのに」と自分でツッコミ。他人の命を人生ごと奪った男が、妻子持ちサラリーマンの生き方ごと背負い込んでしまった悲哀だ。

電話を終えた吉良に「ちょっとあんた!人ん家の敷地に入って何やってんだ?」と声をかけてきた男。いや、朝っぱらからお隣さんを見張ってるアンタも十分に怪しいよ! りおちゃんのことを(俺が狙ってるのに)狙いやがってとムカつく男の前に、なぜか美しすぎるパンティ。

ていねいに描き込まれてるのは「キラー・クィーンが爆弾に変えてるから」で、爆破された本人は目玉だけになっても「やった〜ラッキー〜」と幸せそうで良かったですね。このキャラはアニメでは削られるかと思ったが、パンツにじゅるりと舌なめずりする3カットまで再現。うんうん、最終決戦で数少ない「癒やし」ですもんね。

そして今回も、バイツァ・ダスト仕様の特殊オープニング。が、前回までと違って時間が巻き戻らない。吉良とキラー・クィーンがボタンを押しても、前に進む! ストーリーの推移と完全に同期しているアレンジ、ジョジョアニメの深い魅力はこうした細部に宿っているのだ。

クレイジー・D対キラー・クィーン、自動追尾弾の戦い


「億泰は死んだ。吉良吉影には俺のクレイジー・Dを必ずブチ込んで倒す!あと数分以内に決着は俺がつける!」

籠城した他人の家で、仗助は直視しづらい親友の「死」を自分に言い聞かせる。心に迷いを持ったまま戦えるほど、吉良は生やさしい相手じゃない。誰よりも心優しいが、やる時はやる男・仗助。

キラー・クィーンの×ストレイ・キャットの空気弾は、飛んでいって触ったものを爆破する「接触弾」と、タイミングを測って爆破できる「着弾点火弾」の2タイプ。だが、どちらも吉良本人が標的までの距離を「見ている」必要がある。

しかし、壁を通り抜けてきた空気弾は仗助の方に向かっていった。外から見えるはずがないのになぜ? 吉良自身も「分かるぞ東方仗助。距離がわかる。着弾まであと3m」とつぶやいていて“見えている”様子だ。

ピンチのときほど闘志が燃え上がり、頭脳はクールに冴えるのがジョースター家の血統だ。川尻早人が教えた空気弾の位置を、灰皿の灰をぶち撒けることで浮かび上がらせる仗助。それでも、空気弾はしつこく追ってくる。部屋には窓がないし、カーテンも閉まってる。どうやって吉良が仗助の位置を完ぺきに把握しているか、さらに謎は深まる。

では自動追尾かというと、その答えもノーだ。

「キラー・クィーンの自動追尾は熱に向かってくるシアーハートアタックだ。だがそこのタバコの火には向かって行ってねぇ」

最終決戦なのに、静かな頭脳戦が繰り広げられるのがジョジョらしさ。仗助はシアーハートアタックと直接戦っていないが、康一くんから話は聞いていたのだろう。さらに自動追尾なら壁は通り抜けてこない、とどめの点火を手動で確実に決める気なんだ……と吉良の狙いも計算に入れていて、知識量と分析力がものをいう「情報戦」でもある。

「てめぇに追われるなんてことは最初からやりたくねぇことだぜ!クレイジー・D!」
「よし。仗助に着弾!」

花瓶を叩き割ったガラス片をクレイジー・Dのパワーが撃ち出すのとほぼ同時に、空気弾が仗助の至近距離でさく裂。飛来したガラス片をすかさず防御するキラー・クィーンも敵ながらカッコいい。クレイジー・Dの前でこそ見劣りするが、奴もまたパワー・スピード型のスタンドなのだ。

手すりの木片が腹と足に突き刺さった仗助。手動点火の誤差のおかげで即死は免れたが、ダメージは決定的。一方でノーダメージの吉良が「次の弾で確実に止めがさせる!」と判断したのも、早人が仗助を引きずって逃げようとしたのも無理のないこと。しかし、引っ張るべきは吉良吉影のいる方向。ヤツをぶっ殺せる方向だ!

「俺のクレイジー・Dは自分の傷は治せない。だが体外に出て固まった血ならただの物体だ」
「もう自分のじゃあねぇ!簡単に集めてくっつけられるからな!そしてガラスの破片に閉じ込めた」

ガラスの破片は、さっき吉良の服につけた血の染み(前回、クレイジー・Dが水圧カッターのように飛ばした血)に引き寄せられる。「ブッ殺す」と心の中で思ったならッ!その時スデに行動は終わっているんだッ! 仗助なりの「自動追尾弾」は丁寧な伏線が敷かれていたのだ。

吉良親子、最初で最後の連携プレー


背中に撃ち込まれた「自動追尾弾」のダメージに倒れ込みつつ、血の染みに誘導されたことを分析する吉良。すぐに起き上がりはしたが、一つ重大なミスを犯した。今まで死角に置いていた携帯電話を、仗助の視界に晒してしまったことだ。

「あと一発…あと一発撃てばこの吉良吉影の勝利だ!」

猫草が放った空気弾をキラー・クィーンが爆弾化して射出する、正真正銘最後の一撃!というド迫力で入魂のカットだ。今度のは見えるぐらいデカいが、身動きできない仗助を仕留めるには「不可視よりも破壊力」というところか。

かたや仗助も逃げるどころか、また血液入りのガラス弾を射出。同じ攻撃が吉良に二度通用するとは思えない!という早人の焦りはもっともだが、仗助の真意は別のところにあった。早人にライターを取り出してもらい、空気弾ではない「別の物」を見ようという。

「吉良になぜ仗助の位置が見えるのか」という謎。ひょっとしたら「見てる」んじゃあない、「聞いている」のかもしれない。それを解くために早人の服に火を点ける仗助も、燃える服を見てもじっとしている早人の度胸もすごい。

「吉良は携帯電話を持っていた。ただ持ってただけか?違う!じゃあ誰に電話してたんだ?会社の上司か?いいや違う」

こんな時、吉良が電話する奴は一人しかいないーー火にあぶられた吉良の親父が、早人のポケットの中から出てきた! ハイウェイ・スター戦のときと言い、第四部は携帯電話の使い方が実に上手い。第四部のマスコットキャラ(?)写真のおやじについても、これ以上の活用方法はありそうにない。ポケットの中に隠れたおやじと携帯電話を駆使した連携プレー、なんてクレバーなんだ吉良親子。

空気弾が窓を通過して顔に着弾しても、仗助は慌てず騒がず。「仗助は…3m先に逃げている」と携帯電話にニセのナビをしても、親父もボソボソ声で喋ってたのだから(でなきゃ早人にバレていたはず)吉良にも気づかれない。

「そこだ。点火しろ」

写真の親父、愛する息子の手で爆死(いやすでに幽霊だが)! 本来は悲劇的なはずが「殺人鬼を野放しにしたモンスターペアレント」という経緯もあってスカッとする。ただ、仗助の誘導どおりあの世まで吹っ飛んだ親父と一緒に、ここで千葉繁さんの声とお別れするのはチト寂しい。

「ハハ…ハハハ!やったか!?吹っ飛んだんだな仗助は!」

派手に吹っ飛んだのは自分の父親だった……と告げられると同時に、背中に二発目の追尾弾が命中。さらにダメージが上乗せされてしまった。一から十まで自業自得だというのに「これは…何かの…間違いだ…こんな…酷いことが」と被害者意識まみれの吉良はブレてない。

億泰の生還、正義の心に追い詰められる吉良


(だがこんな時忘れてはいけないのが…こんなひどい時にこそ…最悪の時にこそチャンスというものは訪れるという過去からの教訓だ!)

卒業式に贈りたいほど勇気づけられる言葉。ただ問題は、目撃者の命を「トラブル」としか思ってない異常者が言ってることだ。粘り強さと往生着の悪さは紙一重というか、善人が言うか悪人が言うかの違いでしかない。

仗助も籠城していた家を出て、ついにキラと対峙。どちらも満身創痍、決定的な一撃を喰らえば勝負がつく。能力は仗助が上だが、本来なら立っているなどできないはずの重傷で、条件はほぼ対等。たがいに射程距離に入ってスタンドを出そうとするシーンは、まるで西部劇の早撃ち対決のよう。

「キラークイーン!」
「ドラァ!」

出会い頭の一発も、拳を連打したラッシュ合戦でも、クレイジー・Dはキラー・クィーンを一方的にボコボコ。「手に触れられたら終わり」のハンデあり、仗助も瀕死なのだから、実力差はさらに大きいはず。

が、クレイジー・Dトドメの一撃が、クッションのような何かに阻まれて届かない。自分が攻撃されたと思って本能で攻撃を防いだ、ストレイ・キャットの空気弾だ。それを接触弾に変えられ、仗助には至近距離でかわす体力は残ってない。吉良が勝った、第四部完!!(ウソです)

ガオン!という音とともに、仗助から離れていく空気弾。この瞬間移動は、空間を削る能力は……。

「き…貴様!」「あなたは!」「てめぇは…」

億泰、復活ッ!!! 絶体絶命のタイミング、本人のトボけた表情、間違いなく究極にして至高の億泰オブザイヤーだ。

「いっつもよー。不思議に思うんだぜ。俺のこのザ・ハンドで削り取った物は一体どこへ行っちまうんだろうってな。ま、俺頭悪いから深く考えると頭痛起きるけどよ。ホレ」

ラスボス最後の一撃が、こんな頭悪いセリフでこの世から削除されるのだからたまらない。しかも、臨死体験トーク付きだ。夢の中で暗闇を歩いていると死んだ虹村形兆に出会い、いつだって頼りになったし決断に間違いがなかった兄貴に付いていこうとしたという億泰。

「そしたら兄貴が「お前が決めろ」って言うんだよ。「億泰。行き先を決めるのはお前だ」ってな」

ちょっと考えて「杜王町に行く」と言ったら目が醒めた億泰……京兆アニキ、生前よりもかっこいい。とても寂しい夢を振り返る億泰の穏やかな語り口に、ああ第四部も終わりなんだ……と見ている方も寂しくなる。

「億泰…て…てめぇこんな時に呑気して夢なんか見てんじゃあねぇぜ!」
「おお。その悪態の突きぶり。その傷の割にはよーけっこう大丈夫そうじゃあねぇか」
「やかましい!生きてんならよーさっさと目を覚ませコラァ!」

いつものやり取りを交わしながら、気の合う親友の生還にうれし涙を流す仗助。第二部の「血染めのシャボン」とならんで(結末は正反対だが)「友情」にまつわる屈指の名シーンの一つだ。

チャンスが自分に訪れたという思い込みを捨てきれず、再び空気弾を放とうとする吉良。しかし、二発目はなかった。ザ・ハンドが空間を削り取って、ストレイ・キャットだけ回収してしまったから。億泰、もしかしてキラークイーンの天敵なんじゃないの?

空気弾による爆破も封じられた吉良。切り抜けられなかったトラブルなど一度だってないんだ!というポジティブ思考も、爆発音に気づい承太郎や康一くん、露伴先生を前にしては萎むしかない。すでに消防車は救急車も出動していて、吉良による爆発音そのものが人目を集めていたという皮肉だ。

「お前に味方する運命なんて…お前が乗れるかどうかのチャンスなんて今ここにある正義の心に比べればちっぽけな力なんだ! 確実にここにある…今確かにここにある心に比べればな!」

川尻早人、誰よりも熱いセリフを叫ぶ資格がある小学生だ。証拠も残さず「時間」さえも吹っ飛ばして「運命」を操った怪物に立ち向かい、逆転のきっかけを作ったのだから。吉良は吉良で「直す」力」や「時を止める」「空間を削り取る」など、手強いスタンド使い達を相手に戦い抜いたのだからスゴいやつだった……と健闘を称えるのはまだ早い。吉良のポジティブさ以上に、「絶望」をスイッチにする第三の爆弾があるのだから。

エンディングのクレジットに『ハートキャッチプリキュア!』で知られるスーパーアニメーター・馬越嘉彦さんの名前があって驚き。次回サブタイトルは「さよなら杜王町─黄金の心」で、原作の最終回と同じ。サヨナラしたくないのは山々だが、ラストに「耳の穴に耳を入れる少年」が出るかに注目だ!
(多根清史)