「みなさんリラックスしてください。どこにもスピーカーはありませんよ。あら不思議、私がこのパッドを向けると、あなただけに滝の音が聞こえてきます・・・」。

 これはオレゴン州ポートランドで、エルウッド・“ウッディ”・ノリス氏が言った言葉だ。「なんだ、また新手のいかがわしい超能力者か」と思ったアナタ。実はこれがそうじゃない。氏は、自らが開発した「HyperSonic Sound」システムという製品のデモンストレーションの場にて、この言葉を発したのだ。

 ノリス氏が開発したこのシステムは、超音波ビームを集中的に物体に当てるというもの。このビームが人間に届くと、頭の中から音が聞こえてくるように感じるのだとか。ちょっと難しい話だが、氏は「単一指向性に優れる超音波の特性に着目し、ふたつの超音波を混ぜ合わせて、単一指向性を維持したまま可聴範囲の周波数を持つ音波を作り出した」という。そしてこの「HyperSonic Sound」システムの音は、スピーカー真正面の線上にいない人にはまったく聞こえないそうだ。ノリス氏はこの発明で、エジソン以来の偉大な発明家の名を冠した「レメルソンMIT」賞を獲得し、50万ドル(約5400万円)をゲットした。

 また同種の発明もあるようで、マサチューセッツ工科大学の大学院生、ジョセフ・ポンペイ氏が開発した「オーディオ・スポットライト」もまた、30センチほどの音の柱を発して、その方向にいる人だけに聞こえるようにする音声伝達方式を採用しているとか。

 例えばクラブやライヴハウスで、パーカッションだけをスポットライトで照らすように前列に響かせたり、ピンスポットのように音をぐるぐると回転させたりと、様々な用途がありそうなこのシステム。だが、ビルの上から歩行者にこの装置を向けて「天からの声」を聞かせたり、遠くの標的に大音量の騒音を投射して兵器として利用するなど、イタズラでは済まされない問題を起こす可能性も孕んでいる。自分の頭の中だけに聞こえてくる音、その正体が分からずに苦しむことだけはカンベンして欲しいものだ。(文/verb)