手堅さと大胆さを兼ね備えた采配で五輪出場に導いた手倉森監督。まずは失点しない守備力や粘り強さをチーム作りのポイントに挙げた。写真:佐藤 明(サッカーダイジェスト写真部)

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 朝食を摂ったあと、自分の部屋に戻ってベッドの上で横になり、1時間ぐらい頭のなかでその日の試合について思いを巡らす。
 
 スタメンはすでに決めてある。思い描くのは、試合で起こり得る、あらゆる場面を想定したシミュレーションだ。相手チームの戦い方、それに対しての対応の仕方、試合展開、選手交代のパターン……。
 
 これが、手倉森誠監督にとっての試合当日のルーティーンだ。
 
「スタメンは何戦、何戦、何戦とあらかじめ書いていて、そのとおり進められた。だから、なんとなくイメージを持っていて、ここまではそのイメージどおりに進んでいる。ただ、点の取り方については、あまりに劇的すぎてイメージにはなかったですけど(笑)」
 
 リオ五輪アジア最終予選の準決勝でイラクを2-1と下し、6大会連続の五輪出場権を獲得した手倉森ジャパン。2020年は東京で開催されるため、日本サッカー界にとっては7大会連続出場を確定させたことになる。
 
 ミッション達成の要因を探る時、最も大きいのが、手倉森監督のチーム作りやゲーム運び、マネジメントだろう。
 
 手堅さと大胆さと――。
 その相反するふたつの側面がくっきりと浮かび上がる。 
 
 手倉森監督は14年1月のチーム立ち上げ当初から「失点しない」という点を重視してチーム作りを進めてきた。
 
 アジアのライバル国が育成に力を注ぐようになり、日本はU-19アジア選手権で3大会連続(当時)、ベスト8で涙を呑んでいる。守備力と粘り強さなくして、アジアのトーナメントは勝ち抜けない。
 
 また、テクニックのある選手たちがその技術を発揮する状況を作るためにも、まずは高い守備意識が必要だという考えから、「柔軟性と割り切り」や「取れなくても取らせるな」を合言葉に、手堅いチーム作りを進めてきた。
 
 手堅さはゲームの進め方にも見て取れる。
 
 前半は相手の出方をうかがいながら、ディフェンスラインからロングボールを蹴ってセーフティにゲームを進める。粘り強く守りながら後半を迎えると、浅野拓磨や豊川雄太らの投入を機に勝負に出る――。
 
 先頭に立って指揮官の考えを体現してきたキャプテンの遠藤航がイラク戦後に振り返る。
「流れが悪くても焦らなくなったし、落ち着いて凌いでいればチャンスが来るという意識がみんなに備わってきた。ゲームをコントロールして、流れを見ながら勝負どころを見極める意識がついてきた。こんなにもうまくいくとは思わなかったですけど(笑)」
 
 一方で、指揮官の見せた大胆さとは、言うまでもなく、全試合ローテーション制を導入したことだ。
 
 準々決勝や準決勝でベストメンバーを送り込むためにも、グループステージ第3戦でメンバーを大きく入れ替えるというのは、よくある話だ。しかし、手倉森監督は今大会に臨むにあたって、ベストメンバーという発想を持っていなかった。
 
「まだまだ成長過程の選手たちに『おまえらがベストだ』と決めつけたくなかった。レギュラーとサブをはっきりと分けるより、全員がその気になってスタメンを争うようなグループのほうが成長するんじゃないかという感覚があった。あと、ベストメンバーを決めてしまうと、その中から怪我人が出た時、指揮を執る自分もかなりのダメージを受けるだろうと。だから、ベストメンバーは作りたくなかった」
 
 指揮官が大会前から全試合ローテーション制を導入するつもりだったことは、早川直樹コンディショニングコーチも認めている。
「監督は大会前から『ふたつのチームを作って戦う』と言っていた。これだけ多くを代えて選手を休ませてくれたので、コンディショニングの面で本当に助かりました」