県下最高レベルの決勝戦。投打の主軸けん引で鹿児島実に軍配

先発のエース丸山 拓也(鹿児島実)

 新チーム最初の県大会の決勝とは思えないほど、両者レベルの高い攻防を繰り広げた。今大会の覇者を決めるにふさわしい、現時点で県下最高レベルの決勝戦だった。

 鹿児島実の先発が誰なのか、注目ポイントの1つだった。エース丸山 拓也(2年)は前日の準決勝・樟南戦で完投勝利はしたものの15安打を浴びている。「谷村君の先発があるかもしれない」と鹿児島城西の金城 和彦監督が話したように、準々決勝・れいめい戦で好投した右下手の谷村 拓哉(2年)の登板も考えられた中、鹿児島実・宮下 正一監督は迷いなく丸山の連投を選択した。

「エース番号を背負う投手は準決勝、決勝と連投できなければ夏の甲子園は望めませんから」宮下監督がその理由を語る。マウンド経験が少ない丸山に、準決勝、決勝の連投で経験値を上げる。九州大会出場、決勝進出を決めたがゆえにできる大胆な采配だった。

「ふがいない投球をした分、エースにふさわしい投球をする」樟南戦の直後に決勝の先発を告げられて、丸山は汚名返上、名誉挽回の意気込みで燃えていた。準決勝では力み過ぎてボールが走らず、自分でカウントを悪くして独り相撲に陥った点を修正し、「攻める気持ち」で心を熱くたぎらせながらも、投球は「8割の力で」リラックスして投げることを心掛けた。生命線である外角低めに直球、カーブ、スライダーを丁寧に投げ分けながら、相手打線を一巡は3人ずつで打ち取り、前日とは見違えるような好投を披露した。

 一方、鹿児島城西のエース平 将太(2年)も「準々決勝の尚志館戦、準決勝の大島戦よりも良い投球ができた」と言う。

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板越 夕桂が先制適時打を放つ(鹿児島実)

 立ち上がり、1番・井戸 田智也(1年)にレフト前に運ばれたが、細目にけん制球をいれながら、十分に間合いをとり、2番・坂上 泰河(2年)を見逃し三振、3番・追立 壮輝(2年)を併殺に打ち取り、上々の立ち上がりだった。要注意打者の4番・綿屋 樹主将(2年)との直接対決は、1打席目がファーストゴロ、2打席目は特大のフライが上がるもセンターのグローブに収まる。いずれも早いカウントで「直球を使うなら内角」と厳しいコースを攻めて打ち取った。直球、縦のカーブ、チェンジアップがいずれも決め球で使える自信を持っている平の出来の良さに、宮下監督は「中盤以降が勝負」と覚悟を決めた。

 先手を取ったのは鹿児島実。6回、先頭の井戸田 智がライト前ヒットで出塁。二死二塁となって、4番・綿屋を敬遠。5番・板越 夕桂(2年)が初球をレフト方向に流し打ちし、レフトオーバー二塁打で2点を先取した。樟南戦でもあったように「綿屋が歩かされた後の5番」(宮下監督)がカギを握る中、板越が期待に応えた。綿屋主将は板越が「きのう打てなくて、真剣に寮で素振りしている姿を見ていたので、絶対打ってくれる」と全幅の信頼で一塁に歩くことができた。

 平にとっては打たれた2本はいずれも直球だった。「中盤になって変化球でストライクがとれなくなっていた」ために選んだ直球を痛打された。板越に打たれたボールは「外角低めの良いところに決まった」と思えたが、それを弾き返した鹿児島実の打者がさすがだった。

 良いかたちでの先制で、鹿児島実が波に乗るかと思われたが、鹿児島城西も食らいつく。その裏、先頭の2番・花城 音弥(2年)がライト前ヒットで、初めて先頭打者を出した。それまで丸山 拓也の好投をなかなかとらえきれなかったが、準決勝までと同様、センターから逆方向への打球を初めて飛ばした。続く3番・寺井 勇樹(2年)は意表を突くエンドラン。打球はレフト方向に打ち上げてしまったが、レフトが下がっていた分、うまい具合にレフト前に落ち、花城が三塁に進む間に寺井は二塁を陥れ、無死二三塁と絶好の反撃機を作った。

 4番・有川 凌(2年)は初球を打ち上げてセカンドフライだったが、代打・上村 大希(1年)がこちらも初球を、今度はきっちりライト前に打ち返し、反撃の狼煙を上げた。代打・上原 泰輝(2年)の内野ゴロで2点目を挙げ、すぐさま試合を振り出しに戻した。

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鹿児島城西のエース平 将太

 同点に追い付いて以降の流れは完全に鹿児島城西にあった。平は立ち直って7、8回は3人ずつで片づける。8回裏、先頭の4番・有川 凌がライト前ヒットで出塁した時点で、逆転勝利へのお膳立ては整ったかに思われた。だが5番・上村 大希が3バント失敗。6番・戸川 太喜(2年)が送りバントを決めて、得点圏に走者を進めるも、得点ならず。これまでことごとくバントを決めて、得点に結び付けてきただけに、土壇場でのミスが、終わってみれば勝敗を分ける分水嶺になった。

 9回表、先頭打者の4番・綿屋 樹主将は「チームのために」という一念で打席に立っていた。以前までなら、「一発ホームランを狙っていた」心境を変えたのは、3年生の森口 裕太・前主将の存在だった。「『チームのために』と思えばどんなことでもできる」森口前主将の身上だった。ある時の遠征で、それまでバントを苦手にしていた森口主将が、チームのためにどんどんバントが上達していった姿に自らを重ねた。

 平との4度目の勝負は、フルカウントから高めに抜けたチェンジアップを、地を這うロケット弾のような鋭い弾道でセンター前に弾き返した。「あいつが打つとチームが乗る」と丸山 拓也。5番・板越 夕桂はきっちり送りバントを決め、代打・山内 祐也(2年)がレフト前ヒットでプレッシャーをかける。勝ち越し点はショートゴロエラーで奪ったものだが「綿屋が打った勢いが相手のミスを誘った」(宮下監督)。

 終盤は劣勢だったが「不思議と負ける気はしなかった」と綿屋主将。苦しいマウンドだった丸山も「きのうよりも周りの声が聞こえて、落ち着いて投げられた」と言う。昨年1年間、公式戦は1点差で負け続けた3年生のチームは最後の夏で甲子園をつかんだ。我慢で培った勝負強さの伝統が、新チームにも確かに引き継がれたことを印象付けた決勝戦だった。

(文=政 純一郎)

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