高齢社会で死後の世界に注目が集まっている

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 終活という言葉をご存じだろうか? 老後の先、自分が死んだ後に備えてお墓や葬式、相続、保険、遺言書などを準備しておくことを指す。

 終活普及協会(2011年設立)によると、2009年に週刊朝日の特集『現代終活事情』から生まれた言葉なのだそうだ。2012年に流行語大賞を受賞、今では終活カウンセラーなる民間資格まである。旅行会社は霊園めぐりのバスツアーを企画、また大手スーパーのイオンは終活をビジネス化、24時間対応のサポートセンターを設け、全国の直営店で終活フェアを開くなど終活は市場として成立しつつある。

 高齢化社会を迎え、死亡者数は右肩上がり。平成23年の死亡数は125万3463人で戦後最多となった。国立社会保障・人口問題研究所の予想によると、2040年の予想死者数167万人までこの傾向は続くと見られている。

 矢野経済研究所の葬祭ビジネス市場に関する調査によると、2010年時点で葬祭関連は2兆2189億円。終活ビジネスに限っても、現在1兆円近い市場規模と言われており、最大1.7兆円規模まで成長すると見られている。停滞気味の日本経済の中で、終活ビジネスは確実な成長が見込まれる数少ない分野なわけだ。

 死への準備は事務的な手続きに留まらない。死をどう受け入れるかという心の問題にも大きな関心が寄せられている。上智大学の名誉教授、アルフォンス・デーケン氏が提唱する『死の準備教育』もそのひとつ。タブー視されがちな死の問題に正面から取り組み、死について知ることで自分の死に対する哲学を探求していく。『死の準備教育』がユニークな点は、死を考える中で“死後”も積極的に考えようとしていることだ。

 終活ビジネスと並行して、死後をどう捉えるかというメソッドがこれからはビジネス化するだろう。死後、人間はどうなるかについては宗教の数だけそのイメージはあると言っても過言ではない。では何が正解なのか?

死後を肯定的に捉え、成長につなげる

 最近、比較的若く、特定の宗教色を持たない人たちが死後について語り始めている。彼らの主張は共通する部分が多い。瞑想や宗教的な体験で死後の世界がどうなっているかを知り、死後を肯定的に捉えることで、現在の成長につなげるとする。こうした著者の本は、書店では、一般にスピリチュアルといわれる自己啓発ジャンルのひとつとして扱われている。



『99%の人が知らない死の秘密』(山川紘矢・阿部敏郎/興陽館)もそのひとつ。著者のお二人には現在の終活ブームはどのように見えているのか?

「いま言われている終活は、葬式などの生前準備であり、業界に乗せられている面もあります。やりたければやればいいし、そうでなければしなくていい。葬式などという迷信から多くの人が目覚め始めると考えています」(阿部)

「死は本当はいつ来るかは分からないのですから、準備することはいいことだと思います。死の準備をすることで、安心した老後が過ごせるのだと思います。周りに迷惑をかけないようにする、最小限、必要な事ではないでしょうか」(山川)

 スピリチュアルにおける死生観を学ぶと何が変わるのか?

「精神世界の勉強をすれば、死というものはさほど恐ろしいことではない、ましてや死後の世界を信じれば、死は一種の楽しみになるでしょう。『ああ、いい人生だった』と言って、死ねたら、すばらしいですね」(山川)

「肉体が死んでも本当の我々に死は存在しないというのがこの本のテーマではありますが、その一方で、肉体は必ず死に、個の人生には終わりがあるというのも真実です。この真実をしっかり自覚することで、コントラストのように、生きるということが見えてきます」(阿部)

 死を楽しんで迎えられるということか?

「私の父も、母も『とても良い人生だった』と笑顔で言って逝きました。本当は戦争と貧困で大変な人生だったのですが、終わりよければ、全てよしになるのが人生だと思います」(山川)

 時代とともに死に対する捉え方も変わっていくのだろう。そしてスピリチュアルにおける死生観が、現在もっとも新しく、社会のニーズに合った死後のイメージを提供している。それは死のポジティブ化だ。

 自己啓発は沈滞化する経済情勢とは裏腹に一大ブームとなり、企業研修も含めると1兆円市場まで拡大した。高齢者が増え続ける中、死後の世界も同様に市場を形成すると思われる。今後、自己啓発ならぬ死後啓発がどのように社会に浸透していくのか、興味深い。

(取材・文/川口友万)