川崎宗則【写真:田口有史】

ブルージェイズで絶大な人気を誇った「MUNI」

 今季終了後に大リーグのブルージェイズからフリーエージェントとなった川崎宗則内野手。2年間過ごしたカナダのトロントでは「MUNI」の愛称で親しまれ、「ユーモアのセンスがある日本選手」というキャラクターで一躍人気者となった。

 時に踊りを披露し、メモ帳片手に面白い英語でまくし立てるインタビュー映像は大リーグ公式サイトの動画コーナーでもおなじみとなり、トロントの街で声をかけられることも珍しくなくなった。

 2013年開幕前にマイナー契約を結んだ川崎に、カナダっ子が恋に落ちるまでそう時間はかからなかった。

 当初の注目度は低かったが、4月にレギュラー遊撃手のレイエスの故障離脱でメジャー昇格のチャンスをつかむと、ひたむきなプレーと明るい性格で人気に火がついた。すぐに本拠地球場のオフィシャル・ショップにレプリカ・ユニホームが並んだ。

 マイナー契約の選手としては異例のことだったが、多数のブルージェイズ・ファンから「川崎のグッズが欲しい」というリクエストが殺到。これを受けて急きょ営業部が動いたという。

 試合前の選手紹介では一際大きな声援を浴び、Tシャツや応援ボードを作成してくるファンも続出。レイエスが復帰し、川崎のマイナー降格が決まった際にはフェイスブックやツイッターなどでファンの感謝のコメントなどが多数寄せられた。地元メディアも降格を惜しむ特集記事を組んだ。スター選手の復帰よりも控え野手のマイナー降格が大きく報じられること自体が異例のことだった。

 ブルージェイズ2年目の今季は82試合に出場し、メジャー3年間で最高の2割5分8厘をマーク。筋力トレーニングの成果が出て打撃は力強さが増した。守備でも二遊間だけでなく、三塁もそつなくこなし、外野も守るなど万能ぶりをアピール。自身が目指した「最強の補欠」を実践する働きを見せた。

「数字に表れない貢献度」とトロントのファンと通じ合う心

 川崎人気を支えるのは面白いキャラクターだけではない。ひたむきなプレースタイルと野球に取り組む姿勢が根底にある。

 元々、トロントの野球ファンは泥臭いイメージの選手を好む傾向にある。2011年まで所属したジョン・マクドナルド内野手も同じタイプの選手で、ユーテリティープレーヤーながら人気は絶大だった。リベラ内野守備コーチは川崎について「練習熱心で細かいプレーを怠らない。野球に取り組む姿勢が尊敬を集める理由の一つだ」とみる。

 全体練習前に川崎に内野ノックを打つのは日課となった。アンソポロス・ゼネラルマネジャーは「相手投手に球数を投げさせることができる。数字に表れない貢献度がある」と打撃面も評価。途中出場でも集中力を切らさずにプレーし、試合に出ていないときでもベンチで声を出して参加する。ひとたび代打で打席に立てばボールに必死に食らいつく。そんな姿をファンやチームメートは間近で見てきた。

 恋愛で例えるなら、普段と違う一面を見せたときの「ギャップ」が異性の心をつかむようなものだろうか。川崎がニューヨークでのデレク・ジーターに匹敵するほどの人気を得た理由も、その辺りにあるのかもしれない。

 報道によると、シーズンオフに日本に一時帰国中の川崎は来季も米国でプレーする可能性が高いという。トロント地元メディアは「メジャー契約を提示すれば、川崎は戻ってくるのではないか」とラブコールを送り、川崎も「好きな野球をしているだけなのに頑張ってと言ってもらえる。本当にありがたい」とトロントへの愛着を常々口にしていた。

 大リーグでは12月に入り、大物選手の移籍が活発となる中、マイナー契約での年内合意の可能性も浮上する川崎。果たしてどんな結末が待っているのか。たとえ決別しても、再会を果たしても、一つだけ変わらないものがある。野球少年の気持ちを忘れない川崎の心はトロントのファンとつながっている。