検証ザックジャパン(6)
原博実専務理事インタビュー(前編)

2014年ブラジルW杯でグループリーグ敗退に終わった日本代表。今回、その実質的な最高責任者だった日本サッカー協会の原博実専務理事(前技術委員長)を直撃。ザックジャパンの4年間について検証してもらった――。

■総合的に見て日本の力が足りなかった

―― 新たな指揮官としてアギーレ監督を迎えた日本代表がいよいよ始動します。だからこそ今、ブラジルW杯で結果を残せなかったザックジャパンについて、きちんと検証しておくべきではないでしょうか。そこで今回は、日本サッカー協会(以下、協会)として、ザックジャパンの4年間をどう総括し、どう検証したのか、うかがえればと思っています。

原:ブラジルW杯の検証については、技術委員会をはじめ、さまざまな場で議論を重ねてきて、最後のまとめに入っているところです。それについては、言える範囲内でお答えしますよ。

―― まずは、グループリーグ敗退という結果について、その敗因をどうとらえているのでしょうか。

原:その答えは、ひとつではありません。いろいろな要因が複雑に絡み合っての結果だった、ということは間違いないと思います。それでも、総合的に見て言えるのは、(日本の)力が足りなかった、ということではないでしょうか。

―― 素朴な疑問なのですが、協会としては今回のW杯でどのくらいの成績を目標にしていたのでしょうか。

原:選手たちは高い目標を掲げていましたが、僕ら技術委員会としては、グループリーグ突破、それが現実的な目標でした。ザッケローニ監督も、それ以上のことは言っていなかったですよね。しかも、それが簡単なことではないこともわかっていました。W杯ともなれば、楽なグループなどないのですが、日本が入ったグループCは難しいグループだな、という思いがありましたから。それは、コートジボワール、ギリシャ、コロンビアはどこも強いチームですが、でも絶対に勝てない相手ではない、と捉えることもできるからです。そこに、難しさを感じました。極端なことを言えば、今大会なら例えば、オーストラリアが入ったグループB、スペイン、オランダ、チリという組み合わせのほうが、精神的には楽に戦えたと思います。

―― チャレンジャーという、自分たちの立ち位置を明確にして戦えたでしょうからね。

原:そう。ある意味、負けても仕方がないな、という見方ができます。誰がどう見ても相手のほうが格上ですから、チャレンジャーとして、思い切った戦い方ができたと思うんです。

―― ところが、コートジボワール、ギリシャ、コロンビアでは、周囲がスペインやオランダと対戦するときと同じような感覚では見てくれません。

原:それで(チームも)勝たなければいけない、という気持ちのほうが強くなってしまった部分はあるでしょうね。

―― それは、前回の南アフリカ大会(2010年)におけるベスト16という成績をベースにしてしまったことが問題だったのではないでしょうか。あの結果は、たまたまだったと思うんですが、それが日本の実力と勘違いしていたように思います。グループリーグ突破を当たり前のように考えてしまいましたよね。加えて、W杯イヤーに対戦したニュージーランド(4−2)とキプロス(1−0)は弱小国で自分たちの力を推し量れませんでした。結果、2013年11月の欧州遠征で、オランダ(2−2)、ベルギー(3−2)相手に善戦した成功体験を悪い意味で引きずったまま、ブラジルに旅立ちました。日本はチャレンジャーという自分たちの立ち位置というものを見失っていたように思います。

原:もちろん我々は、コートジボワールは個のポテンシャルが高いし、ギリシャは粘り強く、しぶとい。そして、コロンビアは南米の中では最も嫌な相手と分析していました。しかしそうした現実的な評価とは裏腹に、メディアやファンの期待はすごく高まっていました。それに合わせて、我々や現場スタッフにも、「上に行けるかも」「勝てるかも」という気持ちが、どこかに生まれてしまったのかもしれません。技術委員会としては、現場スタッフや選手のスタンスとは違って、そこはもう少し冷静に、物事に対処しなければいけなかったと思います。

―― 結局、グループリーグ突破という目標が達成できませんでした。それが、「日本には力がなかった」という評価につながるわけですね。

原:ひと言で言えば、ですね。力があれば、突破していたはずですから。とはいえ、「力がなかった」というのも、いろいろな要素が絡み合ってのものです。例えば、選手のコンディションの問題がありました。海外組では、MF長谷部誠(当時ニュルンベルク→現在フランクフルト/ドイツ)、DF内田篤人(シャルケ/ドイツ)、DF吉田麻也(サウサンプトン/イングランド)の3人が、長い間戦列を離れていました。本田圭佑(ミラン/イタリア)と香川真司(当時マンチェスター・ユナイテッド/イングランド→現在ドルトムント/ドイツ)は、ビッグクラブに所属していたがゆえに出場機会を失っていました。そして、岡崎慎司(マインツ/ドイツ)や長友佑都(インテル/イタリア)らは、シーズンをフルに戦った疲れが残っていました。そんなふうに海外組だけで3つのパターンがあって、さらに国内組の選手は、W杯開催による過密スケジュールの中、アジアチャンピオンズリーグ(以下、ACL)をこなすなど、ハードな日程を消化していました。それらすべての選手を同じようなコンディションに整えるのは、非常に難しいことでした。

■今の時代、代表中心にスケジュールは組めない

―― 過去の4大会に比べて、W杯イヤーにおける本番までの試合数が少なかったことも問題だったように思います(2014年=4試合。2010年=9試合※若手メンバーで挑んだアジアカップ予選vsイエメンは除く。2006年=9試合、2002年=8試合、1998年=10試合)。

原:それは、仕方がないことです。(4年前のように)アジアカップ予選も入っておらず、以前とは状況が違って、国際Aマッチデーの日数が減っていますから。

―― もちろん、それは承知しています。

原:では、この日程でこれ以上、試合数を増やすのは不可能なのがわかりますよね? 他の国がもっといっぱい試合をしているというのならわかりますけど、そういう状況でもありません。

―― 韓国は1月末にアメリカ遠征を実施。コスタリカ、メキシコ、アメリカと、3試合消化しています。

原:韓国は、あのときベストメンバーで戦っていないですよね。それに、あの遠征で韓国はメキシコ(0−4)、アメリカ(0−2)に惨敗して、チームの調子がおかしくなってしまった。その点は理解されていますか?

―― はい。というのも、先ほど原さんがおっしゃったように、長谷部、内田、吉田はW杯に出場できるかどうか微妙な状況でした。おまけに、本田と香川も試合に出ていなくて、本番で本当に戦えるのか、不安視されていました。そういう状況を考えれば、国内組だけでも招集して、底上げ強化を図る必要があったのではないか、と思うからです。

原:さっきも言いましたけど、国内組もW杯開催の影響で週に2試合をこなすような過密日程にありました。その中で、どうやって、国内組を集める機会を作るのですか?

―― 1、2月は代表として、まったく稼動していません。そこでスケジュールを作るのは、難しかったのでしょうか。

原:Jリーグはだいたい1月までオフで、2月から各チームがキャンプに入ります。選手たちの体ができていないのに、何をやるんですか? それよりも、クラブでしっかりと体を作っていくことのほうが大事なんです。確かに前回大会の前は、アジアカップ予選があったり、東アジア選手権があったりして、1、2月にも代表としての活動がありました。でも、そのせいで疲労を蓄積してしまう選手も出てしまいました。

―― そうした前例があったので、今回は1、2月の招集は避けたのですか。

原:まずはクラブでしっかり体作りをしてもらうことが一番大切です。公式戦がないにもかかわらず、選手を招集するのは、本当に危険なんですよ。体ができていないと、大きなケガにつながることもありますから。第一、まともにコンディションができていないときに集めて、練習試合をやれるか? ということ。それならば、クラブできちんと1年間戦える体を作ったほうがいいですよね。それについては、Jリーグとも、ザッケローニ監督とも話し合って決めました。

―― そうすると、新しいメンバーの発掘はもう考えていなかったのでしょうか。

原:そんなことはありません。ザッケローニ監督はずっとJリーグの試合を見て、選手たちの状態を把握していました。新シーズンが始まり、伸びてきている選手がいたら、「自分の手元に呼んで最後の見極めをしたい」とザッケローニ監督の要望があったので、ザッケローニ監督、Jリーグとも話をして、4月に3日間のトレーニングキャンプを実施しました。Jリーグの強化担当者会議や実行委員会で「(選手たちには)負荷をかけたトレーニングはやらないから」ということを説明して、スケジュールをとらせてもらいました。

―― 堂々巡りになってしまいますが、それならば、もう少し早くから、それこそ1、2月に合宿をやってもよかったように思えてしまいます。

原:クラブだって、試合がないのに選手を出してくれないですよ。W杯予選やアジアカップ、東アジア選手権のようなタイトルが懸かった試合があれば、別ですよ。それだったら、クラブだって、選手だって、納得してくれると思います。また、過去にオリンピック代表では、アジア予選が2、3月にあったので、そこから逆算して、早々にキャンプを張ったことはありました。でも、何もないのに、代表は招集できないんです。

―― W杯が6月に迫っていたわけじゃないですか。代表にとって、最も大きいイベントだと思うのですが、それは理由にならないのですか。

原:W杯は重要な大会です。だからといって、欧州各国がそうしたことをしますか? 例えばスペインとかイタリアとか、今年はW杯があるからシーズン前に代表を集めて合宿をやるからと言ったら、各クラブから猛反発を浴びますよ。

―― 欧州の国はやらないと思います。でも、日本は弱いわけですよね。W杯イヤーくらい、無理をしてもいいのではないでしょうか。

原:確かに(日本は)強豪国のような力はありません。でも、選手はクラブから給料をもらっているわけです。昔のように、代表、代表って、クラブのことを考えずに、代表を中心にスケジュールは組めないです。今、指摘されていることは、単にカレンダーを見て「ここ、空いているじゃん」と言っている人と同じ発想ですよ。とにかく、1、2月に大会や何の予定もなしに代表を招集なんて、今の状況ではできないですね。

―― ということは、W杯イヤーの本番までの5、6カ月というのは"鬼門"になりますね。

原:そうですね。でも、どこの国も一緒ですから。

―― 試合が組めないことで、4年後が心配にならないですか。

原:世界的にそうだから、仕方がないです。国内組を中心に集めて、アジアの各国と一緒に強化試合をやろうよっていうことはできるかもしれないけれども、それをやって勝てるほど、W杯は甘くないですから。

―― 試合数や合宿の少なさとは別に、強化試合の対戦相手も疑問でした。大会直前にやったコスタリカ(3−1/6月2日)、ザンビア(4−3/6月6日)はいいとしても、3月5日のニュージーランド、5月27日のキプロスというのは物足りなさがありました。もっと強い相手とテストマッチをやることはできなかったんですか。

原:それぞれの試合とも、協会主導で対戦相手を決めたわけではなく、最終的には現場の意向を聞き、話し合って決めています。それで3月の試合については、1試合しかできないスケジュールでしたから、欧州の強豪国は日本には来てくれない。向こうに行けば、それなりのチームとやれたかもしれないけど、Jリーグも開幕してすぐで、それは現実的には実現できないことでした。そのうえで現場の話を聞くと、11月の欧州遠征以来で久しぶりのゲームでしたから、慣れているメンバーで、ある程度こちらが主導権を握れる相手とやりたい、ということだったので、ニュージーランドとマッチメイクしました。

 5月のキプロス戦に関しては、3月のときとは違って、強いチームを呼ぶこともできました。でも、ご存知のように、その直前に指宿合宿でかなり追い込んだトレーニングをする予定でいました。そこで最大の負荷をかけて、本番で最高の状態に持っていくための準備をするわけです。だから、合宿直後の試合では、選手たちのコンディションもよくない。何より選手がケガすることだけは避けたかった。その点を考慮してのマッチメイクです。

(つづく)

杉山茂樹●インタビュー interview by Sugiyama Shigeki