お詫び広告で好感度アップ現象!

Jリーグ初の無観客試合となった23日の浦和レッズVS清水エスパルス戦。そこには異様な光景が広がっていました。無観客の名の通り、空席がビッシリと並んだ埼玉スタジアム2002。「このスタジアムに客が来なくなったら、浦和美園の駅ごと要らない、ただの原っぱだな…」と、僕もつられて神妙な気持ちになります。

しかし、浦和レッズはこのピンチをチャンスに変えました。サポーターの協力もあり、見事に統制された周辺一帯。400人を超えるともいわれる異例の数の報道陣がかけつけたとされる中、その中には「さらなる騒動」を求めてきたタイプも少なくなかったでしょうが、試合は終始静寂のうちに行なわれ、第二の事件が火の手を上げることはありませんでした。

そしてクラブ自体も、この試合を単なる制裁ととらえず、新たなチャンスととらえたかのように、求められた以上の厳しさで自分たちを戒めます。チケット代の払い戻しは当然として、払い戻されないぶんは東日本大震災復興などへ寄付すると発表。迷惑をこうむった清水サポーターには宿泊キャンセル料などの実費分を負担するということも発表し、すべての痛みをクラブが背負っていきます。

球場内では横断幕はもちろん、協賛企業の看板すらも撤去され、その代わりに「SPORTS FOR PEACE!」というキャンペーンロゴを掲出。そして試合に先立ち、阿部勇樹主将らが差別撲滅を宣誓する。左の頬をぶたれたら、右の頬を差し出すような徹底ぶり。

上手い!

僕はこの試合を見ながら、2007年のナショナルファンヒーターのお詫び広告を思い出しました。すべての商品告知をお詫びに差し替え、連日怒涛の勢いで流された「ナショナルから大切なお知らせとお願いです」。巨費を投じたお詫びとお願いにより、ナショナルのブランドイメージを損なうどころか、部門によっては売上が伸びたなんて話もありました。

同様に、この試合を通じて、逆に浦和レッズのイメージ…ブランド価値は上がったのではないでしょうか。もともと浦和レッズに対して憤っていたりするわけでもなく、客が暴れただけの事件です。だがそれを我が事と受け止め、すべての痛みを浦和が引き受けた。そして、本当の問題であるところの差別解決へ向けて、「暴れた客」の問題とするのではなく、浦和レッズ自身が変わることで一歩進もうとした。

今や浦和レッズは、「日本で一番差別問題解決に前向きに取り組んでいるスポーツ団体」というブランドイメージを獲得したのではないでしょうか。

ほかの団体の取り組みが報じられる機会に比べ、「無観客試合」という異常事態は大きく報じられます。その機会に、あえて痛みを背負うことで、差別と闘う理由を自らに与えた。「理由」を得た行動は、とても強い発信力を持ちます。この無観客試合を踏まえて浦和レッズが取り組む活動には、ほかの誰が取り組むよりも当事者としての強い意識が見えるはず。「なるほど、浦和なら取り組んで然るべき」という共感も得られるはず。

突然「差別はんたーい」と叫んでも、裏がありそうで勘ぐりたくなりますが、浦和にはもう裏はありません。数千万円分の痛みが、無観客の中で行なった虚しい試合が、浦和を差別根絶に向かわせる裏付けを与えています。浦和には裏はない。裏付けがある。ウラワにはウラハなくウラヅケがある…。(※なかなかいいダジャレだったので2回言いました)

どうせならこの日を「SPORTS FOR PEACE!記念日」とかに制定し、毎年3月の第2ホームゲームは特別なイベントで啓蒙活動をするぐらいしていきたいもの。せっかくやった無観客試合です。もう1回やるチャンスもなかなかないでしょうから、次につながるものにしないともったいないですよね。