パリ在住ママが「フランス式子育て」から学んだこと

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「一番いい母親、それは私たち!」
女性ファッション誌の表紙にいかにもフランス人らしい見出しを見つけ、思わず手に取った。

記事は、パリで3人の子どもを産み、育てているアメリカ人ジャーナリスト、パメラ・ドラッカーマンへのインタビューで、アメリカですでに話題となっている彼女の著書“Bringing Up Bebe, One American Mother Discovers the Wisdom of French Parenting(=「ベベ(フランス語で赤ちゃん)」を育てるということ、あるアメリカ人の母親が発見したフランス式子育ての知恵)”について話している。



この本は、著者がアメリカ式子育てとフランス式子育てを比較し、彼女が発見したフランス式子育ての良さについて書いたものである。

そもそもドラッカーマン氏がこの本を書くきっかけになったのは、「なぜフランス人の子どもたちはこんなにお行儀が良いのか?」という疑問だと言う。

筆者はパリに住むようになって5年。
フランス人のマナーの悪さやいい加減さに愚痴り続けてきた身としては、まずこの疑問提起に驚いたが、考えてみると、愚痴の対象はいつも大人であって、どうしようもなく行儀の悪い子ども、というのを見た記憶は特にない。
(逆にとくに行儀が良いと感じたこともないが……)

インタビューの中で、ドラッカーマン氏が具体的に話しているフランス式子育ての良さについて見てみよう。

・フランス人の母親は、自分のすることに自信を持っている。子育ての参考書を読んだりするのではなく、自分の本能に従って行動する。それは哲学的思想や教育上の大原則、伝統、習慣などとつながっている。

・フランス人の子どもは、小さいうちから、忍耐、礼儀、時間を守ること、食事の大切さ、を実践的に学ぶ。世の中には自分だけではなく、他人が存在し、他人の気持ちになって考えること、を教えられる。小さい子どもにも、だめなことには「ノン」と厳しくはっきり言う。

・アメリカ人は、早く言葉がしゃべれるように、早く字が書けるように、など、実利的な能力を身につけさせようとするのに対し、フランス人は、小さいうちから集団生活に慣れさせるなど、社会的能力を教え込む。
アメリカ人が何とか子どもの成績を上げようと必死になるのに対し、フランス人は本人が自ら目覚め、発見するのを待つ。フランス人は子どもの成長過程を尊重している。

・フランス人は「まずは私」、アメリカ人は「まずは子ども」と言われるように、フランスでは、つねに子ども第一ではないし、終始子どもと一緒にいることが「良い母親」ではない。
働いていない母親も、定期的に子どもを預け、自分のための時間をとる。アメリカ人の母親がいつも子どものことで悩んでいるのに対し、フランス人の母親は、「完璧な母親はいない」をスローガンに、罪悪感を感じることなく子どもと離れる時間を作ってストレスを避け、結果的に母親にとっても子どもにとっても良い環境を生み出す。

・子どもができた後も、フランス人はカップルの時間を大事にする。両親などに子どもを預け、定期的に旅行に行くことも多い。アメリカでは考えられないことである。


長いインタビューなので、筆者なりの要約になってしまったが、最初に一通り読んだ時、「要は大人の都合の良いように子どもをしつけているだけなんじゃ……」と思った。

筆者の息子はまだ幼稚園にも行く年齢ではないので、公園などでしかフランス人親子と接する機会がないのだが、実際、フランス人の親は子どもに厳しいというイメージを持っている。

フランス人の親が小さな子どもを叱る姿に、そんな小さな子にそんな怒り方しなくても……、と驚くことが本当によくあるのだ。

この記事を読んで、子どもが大人の生活に合わせられるように厳しくしつけられているのではないかという思いを強くした。

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……が、何度か読んでいるうちに、他の体験も思い出した。
例えば地方に行くためにTGV(フランス版新幹線)に子連れで乗った時のこと。活発な1歳半の息子が、2時間おとなしくしていられるかヒヤヒヤな私たち両親。

私たちの前の席には、4歳くらいの男の子とその両親が座っていた。席に座るなり、父親は雑誌を開き、母親は本を開く。

男の子はといえば、時々隣りの母親に甘えるようにすがりつくこともあるが、一人でミニカーで静かに遊んでいる。

男の子は、隣の席との隙間から後ろをのぞくと見える私たちが気になるようで、たったひとつのミニカーで遊んでいる我が息子に、次から次へと自分のミニカーを貸してくれる。

替わりに息子のミニカーを受け取り、紙でガレージを作って遊んでいる。さらには通路に出て私たちとしゃべったり、息子と遊んだりし始める。

とてもおとなしく優しい男の子で、私たち両親はとても助かったのだが、驚いたのは、夫と私が二人で息子とその男の子の相手をしているのに対し、その男の子の両親はまったく本から目を離すこともなく、息子の好きなようにさせていることであった。

実際、騒ぐこともなく、何の問題もないのだが、日本人の親なら、もう赤ちゃんではないとは言え、息子が隣りでよその子どもや親と遊んでいたら、自分も何らかの形で入っていくだろうと思う。

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また、こんなこともあった。
スーパーのレジで会計を待っていた時のこと。4歳くらいの女の子を連れた母親がレジを通った商品をどんどん袋に詰めている。

近くにいたお客様係の女性が、「お嬢さんが手に持っているの、それはレジを通したものですか?」と聞いた。

母親は気づいていなかったようで、娘が勝手に取ってきたしまった商品だとわかり、娘に「だめよ。すぐに戻してらっしゃい」と小さな子を一人でスーパーの売り場に戻らせ、自分は何もなかったかのようにせっせと商品を袋に詰め続ける。

この時点で「日本人だったらまずお店の人に謝るよなぁ」と驚き、こんな小さな子を一人で広いスーパーの売り場に放つことにも驚いた。

レジを済ませると、母親は娘を探しに売り場へ戻って行ったが、女の子は案の定迷ったようで、泣きながらお店の人に連れられてレジまで戻ってきた。

その後、親子はすぐに外に出ず、出口のあたりに留まり、どうやら母親が嫌がる娘に何か説得しようとしているようである。

ようやく半べそをかきながら母親に手をひかれ、女の子は再びお客様係の所に戻り、何かを言っている。

お客様係は、「わかったわ、いい子ね」をその子の頭をなで、親子は店を出て行った。

母親は4歳かそこらの娘に自分が悪い事をしたということをわからせ、親が謝る代わりに、自分でお店に謝らせたのである。

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このふたつの体験から感じたこと、それは、フランス人は、小さいうちから子どもを一人の個人として扱う、ということである。
「まだ小さいからわからない、できない」ではないのだ。

日本では、子どもは大人の庇護下にあり、子どものすることは親の責任につながる。
フランスでは、子どものすることは子どもの責任、親は子どもが誤ったことをすれば、それを認識させ、正す責任がある。

日本ならば、親がつねに目を配り、子どもが誤ったことをしてしまう前に先回りして、それを防いでしまうのではないだろうか。


そう思い出してから、改めてドラッカーマン氏の言うことを読むと、なるほどと思えることもある。

とは言っても、「小さいうちから子どもを一人の個人として扱う」ということも、もしかしたら大人の都合から発していると言えるかもしれないし、なるほどとは思っても、筆者にもそれが良い、とは言えない。

けれど、ドラッカーマン氏が「フランス式子育ては完璧ではないけれど、アメリカ人が学べる点がたくさんある」と言うように、日本人にも学べる点があるのだな、と思い直したのは事実である。

ただ、お行儀良くしつけられたはずのフランス人の子どもが、なぜ、筆者の絶え間ない愚痴の対象になるようなマナーに欠けた大人になってしまうのか……。時間の大切さを教えられるのに、フランス人はなぜあんなに時間にルーズなのか、食事の大切さを教えられるのに、なぜあんなにフランス人は好き嫌いが多いのか、などなど、多くの謎も残してくれた。

息子の将来に不安を感じつつ、その解明は今後の課題としたい。


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Pamela Druckerman
http://www.pameladruckerman.com/


フォルク 津森 陽子
食品メーカーにて営業を経験後、一念発起してパティシエに転身。半年のパティシエ修行で来たはずのパリ滞在が伸び、いつの間にかパリで一児の母に。妊娠後はパティスリーを退職、現在はフランス人の夫の仕事を手伝いながらパリで2011年生まれの息子の子育て奮闘中。