8月15日は終戦記念日（無条件降伏の日）でしたが、旧盆でもありました。昨年、松田直樹さんが急死したとき、そのショックもさめないうちに「初盆」と書いて、読者の方から「死後48日を経過していなければ初盆とはいえない」と教えていただきました。ということは、この夏が、マツくん（松田直樹さん）初盆なのですね。

この夏、みなさんに、ぜひ読んでいただきたい本が出版されました。

「松本山雅劇場　松田直樹がいたシーズン」
　宇都宮鉄壱・著、カンゼン、1680円（税込）
http://www.amazon.co.jp/dp/4862551246/

著者の宇都宮さんはご存じの第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞に輝いたノンフィクションライター。サッカー日本代表の公式戦から旧ユーゴなど東欧や世界各地の路地裏まで、選手からサポーター、街角のおばちゃんやお兄ちゃんまで「文化としてのサッカー」を丹念にたどることで定評がある。本書はその最新作。

長野県松本市に本拠地を置く「松本山雅FC」、元日本代表の松田直樹が加入したこと、松田が練習中に急死したことで、さまざまな角度から注目を浴びる結果になった。いったい、あの松田直樹がなぜ、信州の田舎の当時はJ2ですらなかったチームに移籍を決めたのかーー突き詰めれば、ホームスタジアム・アルウィンのゴール裏がなぜあれほどにも熱いのか（これが山雅劇場と呼ばれる理由の一つでもあるのだが）松田ファンならもちろんだが、地域にサッカーを（スポーツを）根付かせようと考えている方ならば、山雅ファンでなくても、ぜひ読んでほしい一冊である。

今年（2012年）J2に昇格した「松本山雅FC」については、北信越リーグ時代から宇都宮さんは取材していて、その当時に出版した「股旅フットボール」（東邦出版）が元になって映画「クラシコ」（2010年・樋本淳監督作品）が生まれ、今回の「松本山雅劇場」はその映画「クラシコ」の「後日談」から話がはじまっている。

「クラシコ」は封切り公開予定日が東日本大震災の翌日に予定されていたという、最初からいささかドラマチックな形で世の中に出てきた映画なのだが、当時の推薦文に筆者（千田）は次のように書いている。

＜映画「クラシコ」（信州ダービー）
（感想）選手たちより地元のファン、サポーターたちのドキュメンタリー映画。この人たちこそ「サッカーで生活している」（プロという意味ではなく）、うらやましくも気の毒な（笑）ホンモノのサポーター（支持者・支援者）です。わたしも、この映画を見ただけで、サッカーを見る楽しみがまた一つ増えました。＞

おそらく、松田直樹も移籍先を決めるに当たって「クラシコ」を目にしたのではないかと思うのだが、少なくとも、宇都宮さんの「松本山雅劇場」にはいろいろ考えていた松田がスタジアム（アルウィン）を見学したときに、心を動かされたように見えたことなどが書いてある。「クラシコ」と合わせて読めば、もっと、楽しめるのではないだろうか。

「山雅劇場」というのは、土壇場でドラマチックな結末を迎えるという数奇な運命をもつサッカーチームだということだ。裏を返せば、ぎりぎりまで実力が発揮できない場合があるということでもあるが、そこが、それ、サッカーの面白いところ。今季から監督には筆者の知り合いでもある反町康治さんが就任（拙著「オシムのトレーニング」の出版の際にお世話になった）。いよいよ、もって、何か不思議な縁を感じている今日このごろなのである。サッカーと劇場は続く。そして、人生も。