先日、AKB48の高橋みなみさんが、なでしこジャパンについて書かれた「世界一のあきらめない心」を自身のブログでオススメ本として紹介していた。

世界一のあきらめない心: なでしこジャパン栄光への軌跡
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同書の著者であり、なでしこジャパンを長年追いかけてきたライターの江橋よしのり氏は、なでしこにはAKBとにはどこか共通する魅力があるのではという。

江橋さんからの呼びかけを受け、「グループアイドル進化論」の共著者であり、アイドル戦国時代と呼ばれる現在のアイドル事情に詳しいサポティスタの岡田康宏が、なでしこジャパンとAKB48の魅力について江橋氏と対談を行った。

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【タイトルがたかみなのキャラに合っている】

岡田:
AKB48の高橋みなみさんのブログで、
江橋さんの「世界一のあきらめない心」が
オススメ本として紹介されていましたね。

江橋:
Twitterで、お前の本が紹介されているよ、って、
フォロワーの方から教えられて初めて知ったんです。
出版社に問い合わせをしたら、
頼んで仕掛けたものではなくて本当に本人が気に入ってくれたのだと。
直後にAmazonをチェックしたら、
ランキングがグッと上がっていて驚きました。

すると今度は、AKBファンの方から「あきらめない心」というタイトルが
たかみなのキャラに合っていると言われて。

なかなか結果がでない中、何年も下積みを経験して、
やっと花開いたというところで、なでしこと重なる部分があるのかなと。

それでアイドルに詳しい岡田さんと、
なでしことの共通点みたいな部分で話せたらなと。

岡田:
昔はアイドルって
デビューしていきなりテレビに出てくるものだったじゃないですか。
それが今は、ライブ中心の活動で地道にファンを集めて、
そこで支持された子たちが
メディア展開していくという形に変わっているんですね。

Perfumeやももクロなんかも、
AKB以上にそういう経験を積んでいるわけで、
一つそういう部分で共通点があるのだと思います。 

それからグループアイドルというのは、
チームワークやチームマネジメントが重要で、
言うなれば体育会系の部活動的な部分があるんですよね。

高橋みなみさんは、サッカーでいえばピッチの中の監督、
秋元康監督の考えをピッチの中で皆に伝える役割なので、
そういう部分で感じるところがあったのかもしれません。

江橋:
長く見ているファンは、
そういうメンバーのキャラや性格も共有しているわけですよね。

最近僕も取材を受けて、なでしこを長く見ているからこそ、
分かる部分があるんじゃないですかとよく訊かれるんですけど、
そういう部分が求められている面もあるんじゃないかなと。

【ファンにはサポーター的な心情の人が多い】

岡田:
僕が「世界一のあきらめない心」ってタイトルを見たとき、
最初に思ったのが、江橋さんもよくあきらめなかったなと(笑)。
もう随分昔に一緒に
なでしこリーグの取材にいったことがあったじゃないですか。

江橋:
2003年でしたね。
まだ「なでしこジャパン」という愛称もなかった頃です。

岡田:
スタジアムに全然人がいなくて。

江橋:
本当にいなかったですよ。
男子代表が2006年W杯予選で、
北朝鮮と無観客試合やったじゃないですか。
あの試合、無観客なのに
なぜかバンコクのスタジアムには観戦者が結構いたんですよ。

僕はその光景を見て、「Lリーグより多いじゃん」って思ったぐらい(笑)。
それでも、数少ないサポーターはすごく熱心に女子サッカーを応援してた。
まあ、完全に地下アイドルでしたね。

岡田:
でもそういうところからずっと取材を続けてきたわけですもんね。
AKBも、僕は当日券を買って入れる頃に何度か見に行ったけれど、
当時と今の状況では、もう全然違いますから。

AKBのファンには、そういった成長の過程を見守るという、
サポーター的な心情の人、すごく多いと思います。

【競技人口が少なくて男子とプレーしていたから強い】

岡田:
ただ、なでしこもAKBも
本当に恵まれない環境だったかというと、実はそうではない。

AKBは最初から専用の劇場があったし、
秋元さんがついていたわけです。
なでしこも、男子のサッカーが人気競技であるおかげで、
本当のマイナー競技に比べれば、
かなり強化にお金をかけてもらっている。

江橋:
そうですね。

W杯以降の報道で
「選手たちはアルバイトをしながら苦しい境遇に耐えて…」
という文脈が目につきましたけれど、あれは制作者の勘違いですよ。

W杯に出場した21選手の大半はプロ、セミプロ、学生ですから。
働きながら代表にも選ばれていたのは、
実は一握りの選手だけなんです。

岡田:
世代別の代表で遠征したりとか、結構しっかりやっていますよね。

江橋:
日本女子は、
来年のU-17とU-20の女子W杯に両方出場します。
彼女たちも結構やるんじゃないかと思いますよ。
その背景にはちょっと特殊な事情もあるんです。

どういうことかというと、
アメリカやブラジルといった女子サッカー大国は、
国土が広い分、世代別の女子代表チームに、
全国から選手を招集することが難しいらしいんですね。
女子サッカーにそこまでの予算は割けない。

その点、日本は国土が狭い分、
若年層の優秀な選手を一ヵ所に集めて合宿を行うことも、
比較的容易にできるんですよ。

岡田:
なでしこは競技人口が少なくて
男子とプレーしていたから強いというのもおもしろい話ですよね。

江橋:
中学生ぐらいになると、
同い年の男子には運動能力で歯が立たなくなる。
そういうフィジカル的なハンデを意識しながら、
技術や判断を磨いた経験が、
大人になってからのプレーに活きているのはたしかだと考えられます。

岡田:
中学生の頃から、
無意識のうちにドイツやアメリカ対策をやっていたようなもの?

江橋:
そういうことです。
たとえば安藤は中学時代、男子サッカー部でプレーしていました。
高校で女子サッカー部に入り「こんなにラクでいいの?」って感じたそうです。
彼女は大学でも筑波大学の男子のチームに入って練習していたと。

しかも安藤はBチーム。
Cチームに振り分けられた同学年の男子が、
「俺は女子より下なのか…」と絶望して
辞めていったという話も聞いたことがあります。

また、INACは清商と合同合宿をしてた時期もありましたね。

岡田:
清水商業はかなり格上ですよね。
女子のトップは男子の中学生と
ちょうど良いレベルくらいだったと聞いてましたが。

江橋:
北京五輪前の合宿で、
なでしこジャパンは作陽高校の1年生と練習試合をしてドローでしたね。
今はそれ以上のレベルかもしれません。

W杯の事前合宿には、
練習相手に男子の大学生を呼んでいました。
彼らのサイドチェンジの感覚を体で覚えておかないと駄目だ、
アメリカとかドイツとか、このくらいでしょって。
たしかにそうなんだけど、
これに勝つのって難しいなと思いながら見てました。

その(2)へ続く。