▼決定機もやってこない
なんというか、「リアクションタレントのいないお笑いバラエティ」のような試合だった、と私はとっさに感じた。

「聞いてないよ〜」といいつつ、ムチャクチャな目にあうダチョウ倶楽部の上島竜兵や、「やばいよ、やばいよ〜」と叫びつつ、やはりムチャクチャな目にあう出川哲朗などは、いわば体を使って番組をヒートアップさせるプロの芸能人たちだ。

顔中に白い粉がベットリついたり、熱湯の中に飛び込まされたり、うまくヒドい目にあわされることで、見る観客や視聴者のストレスを解消してくれる。

やっちゃいけない、という常識のワクを、多くは他人に背中を押されるような形だが、とにかく飛び出して、バカなことをやってみせる。

そういう存在がいると、雰囲気そのものが明るくハズンだものになるんだがな。

かつては、闘莉王がいた。その前にはエメルソンもいた。すごい得点も決めるかわりに、とんでもない「スベりネタ」（ボーンヘッド）を見せて、観客もピッチ上も巻き込んで笑わしたり、呆れさせたりもした。

今、つくづく、そういう選手の不在を感じる。だからなかなかスタンドも盛り上がらないし、決定機もやってこない。

▼ＤＦは良かった
本来、原口がそうなってほしいのに、きょうの試合では、動きは鈍かった。梅崎がいいダッシュを見せてくれたものの、彼はテクニックで魅せる側の選手で、非常識で盛り上げるタイプではない。エスクデロは、弱い。とにかく倒され、ボールを奪われ過ぎる。とてもＪ１で上位を狙おうとするチームのＦＷとはいえない。

坪井は、よくやっていたな。先発メンバー発表の時、レッズ・サポが坪井コールを連呼しただけのことはある。足の速さを随所に見せて、ピンチを防いでくれた。

ただ、あくまでＤＦだし、そんなにガンガン前に来るわけではないので、雰囲気を変えるまでには至らない。

なぜか後半、永田がやにわに前に飛び出してゴールに迫っていった時、「お、やるな」と嬉しくなったが、単発に終わった。

数日前の日本・北朝鮮戦では、まさに北朝鮮の選手は全員がリアクションタレントになっていた。ルールもケガもおいといて、ボールに食らいついて、ハジケまくっていたから。

あれ見た後だと、なんでレッズの選手にはあの切迫感がないのかな、と物足りなくもあった。

後半、疲れて、ＧＫの加藤からボールが出ても、選手がみんな思い切り走っていない情けないシーンもあった。

０−０のスコアレスドローも、これなら、ま、結果オーライかな。決定的シーンといっても、エスクデロのシュートがゴールポストをかすめたくらいで、「残念だった」と悔しくなる場面は他にあまりない。オチのないコントと同じで、パスというネタフリばかりが続き、なかなか爆発に結びつかない展開だった。

▼寂しい観客席
逆にベガルタ側の活気ばかりが目立つ。ボールを奪った時の攻撃へのチェンジも早いし、パスのつながりもいい。後半、雨でボールが転がらなくなった後も、それを生かしてボールをキープしたのはベガルタの方が多かった。

確か、今シーズンのはじめはレッズの方が格上チームだったはずなのに、いつの間にかこちらが挑戦者にされている。情けない。

チームの勢いと一緒に、サポーターの力強さにも驚かされた。数そのものも多いし、声もレッズ・サポに負けていない。

たぶん何年か前のレッズ・サポはこうだったんじゃないか、とつい思わされた。


観客数も３万ちょっとか・・・。

後半、その数字が発表された時、私の隣の席にいた若者がポツリと、

「すくな・・・」

つぶやいた。ホント、少ない。たとえ雨だとしても、Ｊ２落ちの危機にある大切な試合で、この数字は少ない。私は４万は来るとふんでいたのに。

南側のスタンドや、バックスタンドのアッパーなど見ると空席が目立っているのだから。

甲府が負けてくれたお陰で、勝ち点差は３になった。次節、仮にレッズが負けて甲府が勝っても勝ち点が並ぶだけ。得失点差では大幅にリードしており、また一歩有利にはなった。

だから私も、無理して福岡に行くのはやめる。陥落の危機はほぼ去った、と感じたからだ。

だが、Ｊ１に残りゃいいってもんじゃないわけで、どうも今シーズン、だんだんレッズが１部２部の昇降を繰り返す「下位チーム」っぽくなっていくのが寂しくてならない。

常識外れの朝青龍が去り、客席ガラガラになった大相撲に似てるな。

決定的にチームの空気を変えてくれる選手を呼べないかな。５億10億出しても、それが実現出来るなら、もとは取れると思うが。

山中伊知郎
昭和29年生まれ。93年のＪリーグ開幕時から、シーズンチケットでレッズを見続けている。職業はライター。５月31日には著書『小説・コント55号』（竹書房）が発売された。８月31日には『30秒で誰とでも打ちとけられる会話術』（扶桑社文庫）、９月には『弁護士になるには』（ぺりかん社）も出版。

　お笑いライブのプロデューサーとして、11月13日には栃木・黒磯文化会館大ホールで『栃木・福島対抗　健康お笑いライブ』（ゲスト・Ｗコロン、山上兄弟、コウメ太夫など）を行う予定。12月14日には文京シビックホールで『芸歴20年ライブ２０１１』（ゲスト・チャンス青木ほか）もやる。

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