■ アジア予選がスタート

男子のロンドン五輪のアジア最終予選がスタート。すでにロンドン行きの切符を獲得している「なでしこジャパン」に続いて、「男女アベック出場」を狙う関塚ジャパンは、マレーシア、バーレーン、シリアと同じグループに入っている。試合会場は佐賀県鳥栖市のベストアメニティスタジアムで、このスタジアムで代表戦が行われるのは初めてとなる。

日本は「4-2-3-1」。GK権田。DF酒井宏、鈴木、濱田、酒井高。MF山村、扇原、清武、東、原口。FW大迫。名古屋グランパスのFW永井はベンチスタート。MF清武、MF原口、GK権田の3人は、A代表のW杯予選のメンバーにも選出されている。

■ 辛勝スタート

立ち上がりから攻め込んだ日本は、前半2分にFW大迫のポストプレーからMF清武が決定機を迎えるが、MF清武のシュートは相手GKに防がれてしまう。最初のチャンスを逃した日本だったが、前半10分に先制する。MF扇原の縦パスからMF東がつないでMF清武にボールが渡ると、MF清武が中央をドリブルで突破してDFを引き付けてから、右サイドのMF東にラストパス。フリーのMF東が落ち着いて決めて先制する。

その後もボールを支配した日本だが、マレーシアのDFも対応し始めて、攻撃が停滞してくる。MF原口は、左サイドから仕掛けてチャンスを作ったが、右サイドは十分に機能せず。前半終了間際には、MF原口のクロスからMF扇原が飛び込んできて、その裏のMF清武が決定機を迎えるが、またしても決められず。結局、一方的にボールを支配しながら1点どまりで、1対0で前半を折り返す。

後半も「じれったい展開」となる。日本は、後半14分にFW大迫に代えてFW永井を投入し、さらに、後半23分にMF東に代えてMF山崎を投入。すると、後半32分にMF清武の右サイドへのパスを起点に、FW永井が中央に折り返したところをフリーのMF山崎が決めて2対0とリードを広げる。

試合はそのまま2対0で終了。日本は白星スタートとなった。

■ 起点になれなかったFW大迫

立ち上がりは、いい流れで攻撃を仕掛けた日本は、前半10分にMF東のゴールで先制し、ゴールラッシュが期待されたが、その後は停滞してしまった。何とか勝ち点「3」は得たものの、課題の多い試合となった。

苦戦した要因として、1トップで起用されたFW大迫が前線で起点になれず、攻撃のパターンが限られてしまった点が挙げられる。FW大迫と2列目の3人は近い位置でプレーし、細かいパスで崩そうとしたが、確実にボールをキープしてほしいところでFW大迫がキープできず、攻撃の流れを作れなかった。

不思議だったのは、エースのFW永井がベンチスタートとなったことである。このチームは、ずっとFW永井を中心にチームを作ってきていて、FW大迫では、まだ差が大きい。「1点差勝負の試合」になることが想定されるのであれば、温存することも考えられるが、マレーシア戦はそういう試合でもない。ここまでの実績を考えても、疑問の残る采配であり、理解しにくい選手起用だった。

■ 対照的な出来だったダブルボランチ

磐田のMF山本康が怪我で離脱したため、「誰がボランチで起用されるか?」に注目が集まったが、結局、MF山村とMF扇原が起用された。ともに長身で、CBもこなすタイプで、かつ、パスセンスも備えるので、似たキャラクターの選手が並ぶことになったが、出来としては好対照だった。

二人がどういう役割分担になっていたのかは、分からないが、最近、Jリーグの試合でボランチとして出場しているMF扇原と、大学生のMF山村との差がはっきりと現れてしまった。足を止めることなくボールを引き出すプレーを続けてパスを散らしていたのは、ほとんどがMF扇原だった。日本は、前半は左サイドに攻撃が偏っていたが、右ボランチのMF山村と、左ボランチのMF扇原のボールを触ってゲームを組み立てる回数の違いが、その理由だった。

ベンチの指示だったのか、流れの中でそうなっただけなのか、理由ははっきりしないが、後半15分ほどは、両ボランチの位置が逆になって、右ボランチにMF扇原が回ったことで、右サイドも使えるようになったが、似たタイプなので、MF山村はもっと運動量を増やして、ボールを引き出すプレーをしないと、ボールは回ってこない。カウンターのピンチもそれほど多くなかったので、MF山村は、ほとんど効果的にボールにも触れることができず、フラフラするだけで、この試合に関しては、90分を通して何も仕事ができなかった。

これまでは、MF山村が軸で、MF山本康か、MF山口蛍を起用していたので、MF山村が中心となって試合を作っていたが、MF扇原の方がパス出しのセンスがあって、バイタルエリアでフリーになった味方を見逃さない「目」も持っている。長身のボランチを二人並べるというのは考え方しては面白いが、どちらかの選手がゴール前に出ていって、変化を生み出すようなプレーをしないと、あまり意味が無い。

MF扇原は、中盤の底でボールに触ってゲームを作っていたので、MF山村はゴール前に飛び出して行った方が良かった。MF山村は、このチームのキャプテンなので、外しにくい選手になっているが、ピッチ上では、同じ役目の仕事をもっと高いレベルでこなすことのできるMF扇原がレギュラー争いに加わってきたので、MF山村の立場はちょっと厳しくなってきた。

■ 中盤の3人の評価

もっとも注目を集めていたMF清武は、見事なパスでMF東のゴールをアシストし、2点目のゴールの起点にもなったが、ゴール前で3度ほどあった決定機を決められず、苦戦する一因となった。また、疲れもあったのか、いつもと比べると中盤でのミスも多くて、「フル代表」の違いを見せつけることはできなかった。

MF清武のパスをゴールに結びつけたMF東は、攻撃的なポジションの選手の中では、もっとも出来が良かった。最近の大宮の試合では、思い切りの良さが影を潜めており、迷いながらプレーしている感じは否めないが、久々の五輪代表でのプレーで、結果も残してポジティブな印象を残した。先制ゴールが決まったときは、もっと楽な試合となると思ったが、思わぬ苦戦となったので、後から振り返ってみると、MF東の先制ゴールは非常に大きかった。

また、左サイドで先発したMF原口は、前半から積極的にドリブルで仕掛けたが、無理な突破も多くて、やや空回り気味だった。浦和では、サイドに張っていることが多くて、相手のSBと1対1になることも多いので、自分のペースで仕掛けることもできるが、マレーシアも引いて守ってきたので、スペースもなくてやや苦戦した。「前の4人が連動して崩す。」というのが、このチームの攻撃のコンセプトになっているが、中央に固まりがちなので、相手の選手も多くなる。MF原口は、思い切って、左サイドに張らせた方が、効果的である。

■ 完封勝利となった守備陣

一方の守備陣は、後半になると、何度かピンチを招いた。一番、危なかったのは、左サイドのDF酒井高のところで、対面した相手が「テクニック」と「スピード」を備えた選手だったので、何度かかわされるシーンがあった。幸いにして、中央の枚数は少なかったので、本当に危ないシーンというのは、1度か、2度だったが、サイドの守備については課題として残った。それ以外の選手は、それほど大きな問題はなく、GK権田もほとんど仕事をする機会はなかった。

欲を言うと、マレーシアの攻撃は、二人、三人くらいで攻めてくることがほとんどだったので、攻撃しているときに、後ろにたくさん残っている必要はなかったので、DF濱田にしても、DF鈴木にしても、ゴール前に絡んでいく意欲があってもよかった。

予選の最初の試合なので、「できるだけリスクを冒したくない。」という気持ちは分かるが、このチームは、縦のポジションチェンジがほとんどないので、ワンパターンな攻撃になってしまうことが多い。強いチームが相手になると、不用意に最終ラインの選手が攻撃参加することは「リスク」もあるが、マレーシアくらいの相手であれば、アクシデントが無い限り、失点する可能性は低い。もう少しチャレンジしても良かった。

■ 次はアウェーゲーム

内容的には、物足りない試合となったが、アテネ五輪の予選も、北京五輪の予選も、すっきりした試合は少なかったので、「これが予選である。」とも言える。収穫といえるのも、MF扇原のボランチでのスタメン起用に目途が立ったことくらいで、新鮮さも薄かったので、不満を感じる人も多かっただろう。

関塚ジャパンが本格的にスタートして1年ほどが経過し、昨年11月のアジア大会とロンドン五輪予選に参加してチームを作ってきた。ほぼ主力メンバーも固まってきて、GK権田、DF酒井宏、DF鈴木、DF濱田、MF山村、MF清武、MF東、FW永井といった選手が中心で、MF山崎、MF原口、MF山口蛍、MF山本康、DF比嘉、DF酒井高、FW大迫らが、準主力となっている。

メンバーが固まるのは悪くないが、この年代の選手は短期間で大きく成長する選手がいるので、彼らの存在を見逃さないことも重要になる。継続して代表に選ばれてきた選手はチームコンセプトも理解していて、コンビネーションも熟しているが、オリジナルメンバーにこだわりすぎると、チームが停滞してくる。関塚ジャパンは、そういう「停滞期」に入ってきていて、新しい血を必要としている。

個人的には、今のチームにない個性を持った選手を、もう少し呼んでみても面白いのでは?と思う。具体的な名前を挙げると、C大阪のFW杉本、東京VのMF河野、愛媛FCのMF齋藤学、鳥栖のMF岡本、札幌のDF櫛引といった選手で、彼らが入ることで、チームが、もう一段レベルアップする可能性はある。予選中なので、新しい選手を起用するのは難しいが、常に、門は開けておいて欲しいところである。