「俺は、このチームのストローになれると思う」

 1977年、オークランド・アスレチックスからニューヨーク・ヤンキースに移籍した大打者、レジー・ジャクソンは、入団前の雑誌インタビューで、こんなビッグマウスをかましたという。「ストロー」というのはアメリカ英語の俗語で、「淀んだチームをかき回し、求心的な役割を果たす人物」といった意味だ。このチームには当時、サーマン・マンソンという精神的支柱が既にいたため、新入団の彼の発言は大いに顰蹙を買ったが、その年のワールドシリーズで「3打席連続初球本塁打」という離れ業をやってのけ、チームを世界一に導いたんだそうだ(阿部珠樹「ヤンキース〜世界最強の「野球」に迫る〜」より)

 このエピソードとは、時代もプレーレベルも規模も全く違うが、現在の(中)東欧球界にも、そんな存在になれそうな国がある。ドイツから見た東側の隣国、旧ソ連勢の一員であるポーランドだ。最新のIBAF世界ランキングは55位。バレーボールでは名うての強豪として知られるが、野球の世界ではまだまだ発展途上国だ。先日行われたヨーロッパ選手権予選でも、ポーランドはグループ3位にとどまり、本大会出場を果たすことはできなかった。

 しかし、最初から出場が絶望的と見られていたのかというと、実はそうじゃない。むしろ、ポーランドは参加したアントワープラウンドの中では、開催国ベルギーと並ぶ、本戦突破の有力候補とさえ言われていた(予選のレビュー記事でも、実際にそうした記述をしている)。他のラウンドと比較して、参加した5か国のランクが比較的拮抗していたこと、世界ランクではベルギー(39位)に次ぐ2番手だったオーストリア(47位)が、大会前は代表・クラブともども芳しい結果を残せていなかったことなどが、その大きな根拠だ。

 だが何より大きいのが、今回のチームに加わった5人の「海外組」だ。その正体は、北米でプレーするポーランド系アメリカ人やカナダ人。その中で特に光ったのが、ラウンドの最優秀投手賞を受賞したジョン・ドブコフスキーだ。ポーランド生まれのニューヨーク育ち。アメリカとポーランド双方の国籍を持ち、現在はドイツ・ブンデスリーガのゴーティング・インディアンスでプレーしている。大会中はミスターベースボールにブログ記事を提供し、代表チームのスポークスマンとしての役割も果たした。英語圏の国際野球ファン、そして情報収集では英語力を駆使せざるを得ない俺にとっても、英語で情報発信ができる彼の存在は、ある意味非常に貴重だったと思う。

 このドブコフスキーらの活躍もあって、ポーランドはグループの中ではかなり健闘した。惜しくも失点率でグループファイナル進出は逃したが、4試合で2勝2敗という結果は、ファイナル進出を果たしたオーストリアとまったく同じ。グループリーグでは、そのオーストリア相手に快勝。最終戦でも、本大会に進んだベルギー相手に5‐3と接戦を演じ(オーストリアが、2試合ともベルギーのエース、テレンス・アントナッチにねじ伏せられたのとは対照的だった)、健闘ぶりを見せつけた。ちなみに、ポーランドがこなした4試合の結果は、以下の通りだ。

スロバキア10‐5ポーランド
ポーランド15‐0ラトビア(6回コールド)
ポーランド6‐1オーストリア
ベルギー5‐3ポーランド

 初戦のスロバキア戦では10失点したものの、4‐2から9回表に8失点を喫した崩壊さえなければ、通算3勝1敗でファイナルにも出られていた(この試合、先発したマレク・デレスカは8回を15奪三振2失点と、ほぼ完ぺきな投球を見せている)。もちろん、スポーツの世界で「たら、れば」は禁物だ。現に、実際には試合に敗れているわけだし、健闘したと言っても負けは負けでしかない。そこは、素直に受け止めなければいけないとも思う。