「想定外」という言葉が繰り返される福島原子力発電所の事故について、「実は『想定内』だった」との指摘が相次いでいる。マグニチュード9.0という規模はかつてないものだが、地震や津波が原発に被害を与える可能性は、すでに国会の場で複数回にわたって指摘されていた。だが、具体的な対策は取られないままになっていた。

   国会で地震や津波についての質問していたのは、共産党の吉井英勝衆院議員(近畿比例)。京都大学工学部原子核工学科を卒業している。

「炉心溶融、論理的には考え得る」と答弁

   吉井氏はここ5年ほどの国会質疑で、原子炉を冷やすための電源や津波の問題など、まさに今回の事故で発生した事象についての対策を繰り返し政府にただしている。

   例えば06年10月27日の衆院内閣委員会では、外部電源や内部電源が使用できなくなった際に、

「ディーゼル発電機もバッテリーも働かなくなったときに機器冷却系などが働かなくなるという問題が出てくる。このときに原子炉はどういうことになるのか」
「機器冷却系が働かないと当然、崩壊熱の除去ができない。崩壊熱除去ができないことになったときに、核燃料棒のバーンアウト(焼損)の問題がでてくる。海外でそういう例もある」

と核燃料棒がダメージを受ける可能性を指摘。だが、原子力安全委員会の鈴木篤之委員長(当時)は、

「日本の場合は同じサイトに複数のプラントがあることが多いので、ほかのプラントと融通するとか、そういうような非常に多角的な対応を今事業者に求めている」

とした上で、「基準をさらに超えるような大変大きな地震」が来たときの影響を評価するように電力会社に求めていく方針を示すにとどまった。

   さらに10年5月26日の衆院経済産業委員会では、電源が失われた場合、どのような事態が想定されるかについて「最悪の場合は炉心溶融」などと質疑。これに対して、原子力安全・保安院の寺坂信昭院長は

「外部電源がすべて喪失されて、非常用の所内電源、ディーゼル発電機、隣の発電所からの電源融通もできないとか、いろいろな悪い事態が、非常に小さい確率ながらも一つ一つ、全部実現をして、それで外部電源が全部喪失されて冷却機能が失われるということになると、もちろんその時間にはよるが、長時間にわたると炉心溶融とかそういったことにつながるというのは、論理的には考え得る」

と、あくまで「論理的には」炉心溶融のリスクはあるということを認めている。

津波で冷却機能が失われるリスクについても言及

   これに対して、吉井氏は

「外部電源が失われた場合を『頭の体操』で考えるだけじゃなしに、現実に起こっているということをまず考えなきゃいけない」

と警告していた。

   それ以外にも、吉井氏は06年3月1日の衆院予算委員会で、津波で「引き波」になった際に、冷却水が取水できなくなって冷却機能が失われるリスクについても言及している。

   このように振り返ってみると、今まさに福島第1原発で起こっていることは、「想定内」だったとの見方もできそうだが、東電側には、その認識は薄いようだ。

 

   東京・内幸町の東電本社で11年3月30日に行われた記者会見では、共産党の機関紙「しんぶん赤旗」の記者が吉井氏の質疑を紹介しながら、

「想定外という言い訳は通用しない。何故津波対策を怠ったのか」

と詰め寄ったが、勝俣恒久会長は、

「これまで、地震・津波においては最大限の過去の発生のものを設計基準に入れて、それへの対応を図ってきたつもりだ。しかしながら今回こういう事態を招来したということは、真摯に受け止めて、どうしてこうなったかを含めて充分に調査分析を行いたい」

と述べるにとどまった。

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