道州制の区割りは、現在の都道府県の枠組みを前提とする必要はない――静岡県の浜松市長の発言が注目を集めている。同じ県内にある静岡や伊豆よりも、愛知県や長野県の一部と一体化する構想を示唆したためだ。浜松と静岡はもともと遠江と駿河という別の国だった。研究者からは「浜松と静岡が別の州になるのは、地域住民の生活感覚にあっている」という声も出ている。

静岡県同士ではなく、愛知県や長野県の自治体と連携

   静岡県浜松市の鈴木康友市長は2010年3月8日の市議会で、道州制について

「現在の都道府県の枠組みを前提とした区割りである必要はない」

と述べ、必ずしも静岡県全体が同じ州に入らなくてもよいという見解を示した。その背景には、浜松市や愛知県豊橋市、長野県飯田市が中心になって進めている「三遠南信地域」の連携構想がある。

   三遠南信地域とは、愛知県東部の東三河地域と静岡県西部の遠州地域、長野県南部の南信州地域からなる3県の県境地域。古来、天竜川や豊川などの川筋・谷筋に沿った「塩の道」を通じて経済的・文化的な交流があり、現在は自動車道路の整備などを中心に自治体や経済団体が県境を超えた繋がりを深めている。

道州制をめぐっては、2006年2月に政府の地方制度調査会が3つの区割り案を示しているが、いずれも都道府県を前提にしたもの。静岡県は愛知県などと同じ州とされる一方で、長野県は群馬県と同じ州に組み入れられている。ところが浜松市や飯田市などは同年秋の三遠南信サミットで「三遠南信地域を分割しないで、一つの州とすること」を決議するなど、政府案に反発しているのだ。

   「現在の都道府県の区割りを前提とする必要はない」という鈴木市長の発言が地元紙・静岡新聞で報じられると、2ちゃんねるにスレッドがたち、

「浜松市民としては静岡市は遠い感じで 豊橋などの三河、東栄より北の長野方面の方がなじみがあるんだよね」
「浜松は中部州、静岡は関東州でいいんじゃない? 静岡は分裂するしかない」

といったコメントが書き込まれた。江戸時代まで浜松は遠江、静岡は駿河という別々の国だったこともあり、同じ静岡県といっても住民の連帯意識は強くないともいわれる。

「浜松市長の発言は住民の生活感覚を反映したもの」

「静岡県は大井川を境にして生活感覚がだいぶ違う。大井川の東側の住民は東京を見ているのに対して、西側の浜松あたりの人は名古屋を見ている」

と話すのは、共立総合研究所主任研究員の江口忍さんだ。

   江口さんは2009年11月に、静岡県や三重県、長野県の住民の意識を示すデータを分析して「『東海州』の範囲はどこまでか」というレポートをまとめた。そこでは、市町村別の新聞購読シェアに注目。浜松市は、東京系の新聞(全国紙)よりも名古屋系の新聞(中日新聞など)を購読している人のほうが多いが、静岡市は、逆に東京系の新聞を取っている人のほうが多いことなどを挙げている。

「静岡県西部と愛知県は自動車産業の集積地という点で一体性が強い。浜松市長の発言は、住民の自然な生活感覚を反映したものといえるのではないか」

と江口さんは評価。道州制の議論を進めるためには住民の意思を無視できない、という考えを示した。

   地方自治問題を取材しているフリーライターの小川裕夫さんも、

「現政権が進めている地域主権改革で重要なのは、基礎自治体(市町村・東京23区)に権限を下ろすことだから、都道府県の枠にこだわる必要はない。平成の市町村合併では、長野県山口村と岐阜県中津川市のように地域の実情を反映した県境合併があった。道州制の議論でも、既成概念をとっぱらって考えていくべきだ」

と話している。

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